049. ベルタリオの昔話
平明神です。
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「ベルタリオ、お前……女だったのか? それともあっちが本当の姿なのか?」
妖艶な美女と変化したメナ・ジェンド獣王国の大統領に、ユーゴは指差しながら、震える声で尋ねた。
「どちらも私であるし、どちらも私でないと言えるな。まぁ、この姿の時は今まで通りチアキと呼ぶが良い。詳しくは道中話そう───では皆、少しの間留守を頼んだぞ。行くぞユーゴ」
「ちょ…ちょっと待って。まだ混ら───むふ」
近づくチアキを阻むように手で制すユーゴだったが、チアキが背後に回り込んでユーゴを抱きしめた───正確には豊満なダブル肉丘を押し付けられた───ことで、ユーゴの口は自動的に閉じられた。
そしてチアキが巻き起こす魔力の膜に包まれた二人。
膜が消え去ると、ユーゴとチアキの姿は忽然と消えた。
「転移魔術か。それはともかく、ユーゴが帰ってきたら訊かなければいけないな。どうやったら、あんなにだらしなく鼻の下を伸ばすことができるのか」
「ええ。それに、ユーゴさんにはもう少し自制と言うものについて、教えを説かなければなりませんね」
氷点下以下の温度をした目つきで、聖女たちは呟いた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ユーゴとチアキの姿は、官邸の屋上に出現した。
チアキはそのままユーゴと上空まで飛び、そのまま光に包まれて音を超える速さで飛翔した。
「本当ならば転移スキルで目的地まで行きたいのだが、私の転移スキルは消費魔力が多い割に移動距離が短くてのう。その代わりこの瞬間移動スキルは、間に障害物がないという条件はつくものの、少ない魔力と時間で長距離を移動できるというコストパフォーマンスに優れたスキルなのだ」
「お前さぁ、割とすごいことをやっていると思うけど、ほんと何なの?」
ユーゴは少々呆れた声で尋ねた。
「それはこっちのセリフでもあるのだがな。まぁ目的地までは20分ほどかかる。その間、私のことを話そう」
ユーゴの経験上、現在速度は約マッハ4。それで20分かかると言う事は、目的地は約1600キロメートル離れているということか。
ユーゴは概算した。
「以前も少し話したと思うが、私は前世では日本に住んでいた日系ブラジル人だ。ある夜、街の不良グループと喧嘩になってな。多分刺されて死んだ。それで気がついたら犬か狐のような動物に生まれ変わっていたのだ。まぁそれが、今の私なのだが。ただ、私には変わった能力があってな。食した生命体の遺伝子情報とスキルを自分のものにできるのだ」
「つーことは、その姿もベルタリオの姿も…ってことか?」
「うむ。この姿は昔、私の命を狙った淫魔の女のもので…ん、どうしたユーゴ?」
「淫魔⁉︎ 淫魔なのか、その姿⁉︎」
淫魔。それは男の憧れ。人気ナンバーワンの種族。
もちろんユーゴとて例外ではなく、一度は相手をしてみたいと思っていたのだが、未だかつて出会えたことはない。いろいろな世界に行ったが、実をいうと、初めて出会ったのだ。
「…? あぁ。なるほどのう。どうじゃ、この戦が終わったら私の相手をしてみるか? どうやら私のは具合がいいらしいぞ。ん?」
ニヤリと妖しげに笑むチアキに、ユーゴは動揺して返す。
「べ、別にそんなこと思ってねーし? それに、お前、前世で男だったんだろう。そこんとこどうなんだよ」
「ふむ。生まれ変わってしばらくは、まだ男としての性自認があったかの。いろいろな姿になるたびに、そういうのも薄れていったのだ。強いて言うなら、雄の時は雄の、雌の時は雌の、といった感じかのう」
「そういうもんなのか」
まさか淫魔の方から誘ってくるとは、何と言う幸運。
しかし。だがしかし!
ユーゴは葛藤している。
外見は好みのセクシー系美女。とはいえ人外。もしいたしてしまったら獣姦とかになるんじゃ、と。
「ちなみに、チアキの正体はわが国の高官なら知っておる。昔、他国と勢力結婚の話があってのう。断るのも面倒だから、ベルタリオの妻と言うことをでっち上げたのだ。チアキと言うのは、前世での嫁の名前なのだ」
「ふーん。ところで、ベルタリオの姿はあのグレンってやつと瓜二つだったが、やっぱ何か因縁があるのか?」
「ある。そもそも、あの姿は、グレンの兄、ガイルのものだったのだ。生まれ変わってしばらくして、とある洞窟の奥でガイルと出会った。ガイルはとてつもなく強いドラゴンと戦い辛勝したが、やつも瀕死の重症を負っておってな。私はなぜか哀れに思い、出来る限りの治療をした。多分、この世界で初めてまともに意思が通じる相手だったからだろうな。それが契機となり私たちは友誼を結んだ。私は奴の世話をし、ガイルは私この世界の事や言葉を教えてくれた。ほどなくしてやつは傷が原因で死んだ。自分を食べて強くなれと遺言を残してな。グレンのやつは、私が兄を殺害して食べたと、今でも思っておるのだ」
「政治的な理由だけじゃないってことか。この戦争」
「そうだ。私は、結果的にはグレンの兄を食べた。それに負い目を感じて、いままで奴と本気で敵対する事は避けてきた。しかし、それが原因で、今はわが国の民が危険にさらされておる。もっと早く、奴がこれほどまでに力をつける前に、問題にケリをつけておくべきだったと反省しておるよ」
「たらればを言ったらキリがない。これから、さっさと終わらせればいいだろ」
「うむ。それにしてもユーゴ。お主がそんなに積極的に協力してくれるとは思わなかったぞ」
「……俺は.お前やあの聖女ちゃん達にみたいに.この世界の住人じゃない。いずれは出ていく身だから、正直言うと、本当は手を貸すべきじゃないと思ってる。ただ、成り行きとは言え、手を貸すと言ったからにはやるし、さっさと次にも進まなきゃいけないから、全力でやるってだけだ」
「なるほど。なんとなくお主の人となりがわかった気がするよ」
そのまま飛び続けると、やがて水平線が見えてきた。
港町に近い砂浜に着陸したユーゴとチアキ。
「いるな。確かに鯨みたいなみたいなやつや、うまそうな魚もいるぞ。全部鎧を着込んでいるが。げ、なんだありゃ。魚の顔をした人間もいるじゃねぇか。」
千里眼を発動させたユーゴは、冥海軍の姿を捉えた。
「それは魚人だな。というかお主、もしかして、こんなところから海の中が見えるのではあるまいな?」
「見える」
「お主も、大概むちゃくちゃだぞ……ん?」
チアキが呆れ顔で言った後、誰かが転移魔法でこの場に現れた。
「あらチアキじゃない。悪いけど、違う姿形になってくれない? その姿嫌いなのよ。あ、でもベルタリオもダメよ。グレンみたいで気持ち悪いから」
「と言われても、人間に近いのはこの2つだからのう。まぁお主にとっては、自分には決して手に入らぬものを持っているこの肢体は忌々しいかも知れんが、我慢してくれ」
言ってからチアキは、これ見よがしに自分の大きな胸をつかんで揺らした。
「ムキー‼︎ うるさいうるさいうるさーい! あんたのそういうところ、実は昔から嫌いだったのよ!」
八重歯をむき出しにして、釣り目でチアキを睨みつけるのは、鮮やかな青い髪をツインテールにしたセーラー服の少女。
【冥海の魔王】パレア・シンクロンである。
見た目は15、16歳の少女だが、地団駄を踏むその姿はもっと幼く見える。
「それは残念。では嫌われ者の私はさっさと退散するかのう。ではユーゴ、あとは頼めるか?」
「おう」
「え? チアキ、あんた私たちと戦いに来たんじゃないの?」
「私は自国の守りで忙しい。貴様の相手はこのユーゴがしてくれるそうだ。しっかり遊んでもらえよ」
チアキは手を振りながら、ユーゴの白いゲートに消えていった。
「あ、どうも初めまして。ただいまご紹介に預かりました、ユーゴ・タカトーと申します。以後、お見知りおきを」
丁寧に自己紹介をしたユーゴ。きっちりと腰を折ったお辞儀は、なかなかさまになっている。
「え? あ、これはどうもご丁寧に。パレアシンクロです。一応、冥海の魔王をしています……」
パレアも大きな槍を持った両手を膝の前で揃え、行儀よくお辞儀した。
「……じゃ、なーーーーーーーーい‼︎」
ザッパーン!
パレアの怒りに呼応し、海が爆ぜて飛沫を高くを上げた。
「良いノリツッコミだ。キレがある」
「ボケてなーーーい!」
「天然でこれか……」
なかなかの逸材だ。ユーゴは顎に手を当てて感心した。
こんなアホなやりとりを前哨戦として、この世界で最強とも云われる魔王の一角、【冥海の魔王】との戦いが始まる。
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