161. ベレッタ合流
お久しぶりです。
ようやく投稿できました。
ユーゴが【幽世の渡航者】のゲートを潜り、ベレッタが隠遁する邸へと移動した頃の話である。
王都から少し外れた森の中に、小さな教会がある。
管理者として教会の者がひとり住んでいるだけで、普段は訪問者などおらず人々から半ば忘れ去られているような寂れた場所だ。故に、密談に適している。
少なくとも現在、懺悔室にて、とある人物を待っているリクリス王国公爵グラニド・ハルファルトはそう思っている。
コンコンコン。三回ノックの音が鳴った。
そわそわした気分で座っていたハルファルトが、訪問者へ告げる。
「お入りなさい」
訪問者は無言で入室してきた。
構わない。
ハルファルトは相手が何者かを知っているが、相手は自分の正体を知られていないと思っているからだ。
「そちらも忙しいだろうから手短に話そう。なに、やってもらいたいことは簡単だ。この者を誰にも知られず、密かにこの場所に連れてきてほしい」
守護者教会の懺悔室は、告悔者と聴聞者との間は木製の壁で仕切られた造りになっている。
しかし胸から口元にかけての高さに細長いスリットが幾筋も入っており、ここから通声が可能になっているのだ。
ハルファルトはそのスリットから一枚のメモ紙を差し入れ、相手に渡した。
相手は書かれている内容───特に指定された二人の人物───を読んで動揺した。姿は見えずともハルファルトには気配で判った。
あにはからんや。目的の人物は訪問者の知る人物であり、うち一人は特に親しくしている間柄である。
しかしハルファルトは事前に得た情報により、壁向こうの訪問者が切羽詰まっているということも承知している。
故にハルファルトはそこを突いた。
「君も私も知っているあの者 ───そう、私達の間を取り持ってくれたあの協力者のことだ。あの者がそれを望んでいるのだ。君のことは詳しく知らないが、君が愛のために決起したことは聞き及んでいる。君の愛が試されるときではないかね?」
「……」
「政治的な理由で詳しくは話せないが、その者と一度話をしないとならないのだ。しかしその者の周囲が匿って、頑なに引き渡そうとしない。ひどい誤解が彼らと私の間にある。確かに末端の兵卒が強引に連行しようとしたのは、こちらの不手際。しかし安心したまえ。その者に危害を加えることはない」
「……」
訪問者は黙したまま葛藤している。
だが判断の天秤が決行に傾いていることを、ハルファルトは感じとった。嫌ならば出ていればいいだけの話なのだ。
ややあって、相手が両者間の木板を三回ノックした。予め取り決めていたYESのサインだ。
「そうか、ではお願いするとしよう。成功の暁には、君が望むことを私が可能な限り叶えさせていただこう」
それについて相手は何も反応せず、ついぞ一言も喋らずに退室していった。
ハルファルトは思わず安堵のため息を吐いた。なにせ相手は高貴な血筋であり、それなりに高い身分にある者だ。無駄に高い矜持により断られる可能性があったが、上手くいったようだ。
「さて、もう一人の方はこちらからの呼び出しに応じるか? でなければ……」
ハルファルトはひとりごちて、しばらく後に懺悔室を出た。
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ベレッタを伴ってユーゴがめいでぃっしゅ二号店に戻ってくると、ゼフィーリアとマルガレーテが顔を輝かせていた。
令嬢三人が互いに名前を呼んでハグしあうと、ゼフィーリアがユーゴに顔を向けた。
「勇悟、連れてきてくれてありがとう」
「おう。しかし参ったぜ。このお嬢さんを連れて行こうとしたら、おっかねえ三つ編みメイドが邪魔しやがってな」
「あー……。たぶんその人は当家のライラね。ベレッタの身辺警護をお願いしていたの。そういえば勇悟は会ったことなかったのよね」
「そうだな。お陰で胡散臭がられて説得するのに骨が折れた。結局、このお嬢さんが自分からついていくって押し切ったから良かったが」
「私はタカトー様を存じていましたから。鉄太さんが信頼しているのを感じていましたし。でも、ライラさんも決して悪気があったわけではなく、急に現れたタカトー様に驚いていただけで……」
ベレッタのフォローにゼフィーリアがあることに気づく。
「そういえば勇悟。あんなに遠くにいるベレッタを、どうやってこんな短時間で連れて来られたの? というかいま白い板から抜け出てきたわよね。何なの。マジック?」
親友の指摘に、マルガレーテもはっとした。
「確かに! 皆さんが何も驚かれていなかったので、ワタクシも違和感を感じませんでしたわ」
そんな初見さん二人の反応を、フィールエルとパレアはニヤニヤしながら (さぁ、ユーゴはどんな風に誤魔化すのか)と期待している。
「あー……、これはだな」
「これはユー君の【幽世の渡航者】! 離れた場所に移動できる超能力で、ウチの “宇宙母神” としての権能を分け与えてるってわけ。ねー、ユー君?」
どうはぐらかすかと思案していたユーゴだが、彼に被せてネタバレをしたのはユーラウリアである。
そんな彼女に、ユーゴは苦々しい顔を向ける。
「その通りだが、ユーラお前……そんなアッサリとばらすなよ」
「別にホントのことなんだし、隠す必要ないじゃん。でもみんなもこれで信じる気になったっしょ? ウチがユー君とリンクしてるから能力を与えられてるってこと」
「またお前はそんな煽るようなことを……。収拾つかなくなるからやめろよ」
他の少女たちにマウントを取るような発言をしたユーラウリアを、ユーゴは窘めた。
そしてユーゴは予想した。またぞろ一同の反発が起こることを。
しかし彼女たちは面白くなさそうな顔こそしたものの、ユーラウリアに食って掛かることはしなかった。
「……?」
ユーゴは訝しんだ。俺のいない間に何か話していたようだが、何を話していたのだと。
ひとまず『ユーゴのやることなすことは女神由来の不思議パワーで納得するのが一番』というフィールエルの言に従い、ゼフィーリアとマルガレーテもそれ以上の追及はしなかった。
「テッタさん……ではなく、サクマ卿、それにキラリさん。お久しぶりです」
旧知の二人を見つけて、ベレッタの顔が綻んだ。
「ベレッタさん、お久しぶりー!」
「俺のことはいままで通り、テッタと呼んでください。半月ぶりですね」
ベレッタと輝星は手を取り合って、無邪気に再会を喜んだ。
輝星の方はうっすら涙を浮かべてすらいる。それも無理からぬことで、鉄太とは違い輝星レーナス家を出て以来なのだ。しかもベレッタはお尋ね者として追われていた身。そのことに輝星も心を痛め、ベレッタの無事を祈っていたのだから。
ただ、自身の次に頬を赤らめてベレッタと久闊を叙す鉄太を見て、輝星は少し面白くなさそうな表情をして横目で見ていたりもした。




