133. 新展開
仕事で時間がとれず、数日間投稿が開いてしまいました。
申し訳ありません。
この話から第五章が始まります。
ユーゴ達が鉄太達の住む世界へやって来てから、早三ヶ月が経過していた。
その間に大小様々なトラブルが巻き起こったが、概して平穏に暮らしていた。
勤労に勤しみ、家に帰って眠る。
ユーゴにとっては久方ぶりに地に足の付いた生活だった。
これはこれで悪くないと思っている。
だが、己の使命や大願を忘れたわけでも、捨て去ったわけでもない。
折を見て【幽世の渡航者】を試行しては、その不調の原因を追求する日々。
更にこの世界に関する文献を紐解き、歴史に詳しい学者や昔話の語り部を訪ねては、謎を解き明かそうとしていた。
しかし結果は芳しくなかった。
判明したことと言えば、この世界の歴史は五百年以上昔に突如始まったこと、神話が一つしか無いこと、他国の情報が隣国の一つに限定されていることである。
ここ数年で起こった事件といえば、ドネルの件を除けば二つだけ。ユーゴが斃したズァーニカルが王国内に現れて暴れ回ったことと、一年前に起こったクーデター事件である。
特筆すべきは、そのクーデター事件の立役者が、とある貴族の少女だということだ。
その少女の名は、ゼフィーリア・バーグマン。
政門貴族バーグマン伯爵家の令嬢でありながら、演芸場【ひまわり座】の人気歌姫であるという。
その名は至る所でユーゴも聞き及んでいた。
だがユーゴの客である放蕩令嬢たちとは違い、ゼフィーリアはホワイトホースに足を運ぶということがなかった。
そのためユーゴは姿を見たことがなかったし、会う機会など無いと思っていた。
あの日までは。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
パレアが元気を取り戻してしばらく経ったある日の朝。
ユーゴの部屋のドアがノックされた。訪問者は鉄太だった。
「ユーゴさん。ちょっと良いスか?」
「どうした?」
「ちょっとお願いがあるんスけど。俺のボディーガードとして一日付き合って貰えないっすか?」
「別に構わねぇけど、俺で良いのか? 妹は?」
「できればアイツを巻き込みたくないんス。でも俺の周りで輝星以上に腕が立って、しかも信用を置けるのはユーゴさんしかいなくてッスね……」
その答えにユーゴは気分を良くし、快諾した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
その翌日。流しの馬車を捕まえたユーゴと鉄太は、目的地へと向かっていたが。
雨だれに歪む景色を車窓越しに見ていたユーゴは、街を離れている事を知った。
何処に向かっているかは知らない。鉄太は御者に場所ではなく進む方向を逐一指示していたからだ。
小一時間ほど馬車に揺られて到着したのは、郊外にある大きな門だった。
門番に鉄太が名乗って、家紋を提示した。
馬車は停車場に通され、ユーゴ達は併設されてある小屋で、案内が来るまで待つよう指示された。
周りは森林で囲まれ、建築物はこの小屋以外には見当たらない。
しかし森の奥に続く小路があることから、住居などの建築物があると思われた。
案内があるまでの間小屋にあるトイレで用を済ませていたユーゴは、何気なく外を見ていた。
そこで、トイレの窓からユーゴ達の馬車が停めたスペースとは離れるように……いや、むしろ奥まった場所に隠してあるかのように停めてある馬車を数台見つけた。
どうやら先客が数組居るらしい。
用を足したユーゴが待合室に戻ると、ほぼ同時に、一人の老人が小屋へ入ってきた。
撫で付けられた髪と上品に整えられた口髭の、タキシードを着た老人である。
慇懃な物腰の老人はレイバックと名乗った。
レイバックの案内で小屋を出たユーゴたちは森の小路を進み、やがて大きな邸宅へと辿り着いた。
邸内に招き入れられた後彼の案内で通されたのは、大きな暖炉のある広いリビングルームだった。
そこには先客がいた。
青年が四人と、少女が二人である。
「テッタさん!」
鉄太を目にした少女の一人が喜びを表し、鉄太に駆け寄った。
砂色の長い髪を、大きな三つ編みで纏めている可憐な少女。
柔和な笑みに親しみを込めて目を細める彼女は、どうやら鉄太とは旧知の仲のようだ。
「ご無沙汰してます。ベレッタお嬢様」
ベレッタ───。
ユーゴはその名に聞き覚えがあった。
確か一年前のクーデター事件の首謀者とされるも、王国軍の手を逃れ逃走しているお尋ね者だ。
鉄太とベレッタはお互いの無事を喜び合っていたが、やがてベレッタがユーゴに目を向けた。
「あの、こちらは……?」
「紹介します。彼は俺……じゃなくて私が篤く信頼を寄せる人で、ユーゴ・タカトーと申します。ご安心を。彼は信頼に足る人物です。私の護衛をしてもらっていますが、お嬢様のこの度の窮地にも必ずやお役に立てると思い、連れてまいりました」
「そうですか。初めまして、私はベレッタ・レーナスと申します。あの、失礼ですが私のことは……?」
鉄太の説明に安心した様子のベレッタだったが、自分の噂が気になるらしく、一転して不安げな表情を見せた。
「ああ。ある程度は知っているが、別に気にしていない。アンタが本当にクーデターを企てていようが、俺には関係ないしな。鉄太が力を貸してくれと言うなら貸す。それだけだ」
腹蔵ないユーゴの率直な物言い。それにベレッタは一瞬ぽかんとしたが、すぐに微笑んで「よろしくお願いします」と言った。
そこに、ユーゴ達の様子をうかがっていた残りの五人が近付いて来た。
「ではベレッタ。そろそろ僕たちにも、彼らを紹介してもらっても構わないかい?」
「あ。申し訳ありません、殿下……じゃなかった、ロイさん。彼はテッタ・サクマ類爵。以前彼は我が家に仕えてくださっていましたが、爵位を拝命して独立されました。そして隣の方がユーゴ・タカトー様です。サクマ類爵が信頼されている護衛の方です」
ベレッタの紹介を受け、ロイと呼ばれた金髪の青年が一歩進み出た。
「サクマ類爵。最年少で類爵を拝命した貴公の噂は、かねがね聞き及んでいる。僕はロイ。ただのしがない役者だ。ベレッタとは学生時代の級友で、”殿下”というのは学生時代のあだ名のようなものだ。あまり好きな呼ばれ方ではないので、僕のことはロイで頼むよ」
甘いマスクと気障ったらしい振る舞い。それが如何にも役者といった風情だが、役者と言うからには平民だろう。
なのに仮にも貴族である鉄太に対してのこの物言いは無礼ではないのか。
ユーゴはそう思ったが、それに関しては自分も他人のことをとやかく言える義理はないと、気にしないことにした。
ロイはユーゴにも挨拶しようと口を開きかけたが、その前にドアがノックされた。
「失礼致します。マルガレーテ・ベッチ様と、ゼフィーリア・バーグマン様がおいでになりました」
ドアから入ってきたレイバック執事の後ろから、二人の少女が続いた。
「ゼフィ! マール!」
「「 ベレッタ! 」」
三人の少女は、お互いを確認し合うなり抱き合った。
固い絆で結ばれた親友同士なのだろう。
三人の瞳は涙で潤んでいる。
残りの五人もロイを筆頭に、「ゼフィ!」とゼフィーリアと呼ばれた少女に駆け寄った。
鉄太たちにはほとんど興味なさげな顔をしていたが、打って変わってゼフィーリアには親愛の眼差しを向けている。
よほどこのゼフィーリアという少女は慕われているとみえた。
彼らのやり取りから、この八人は気のおけない間柄という事が伝わってくる。
そこで蚊帳の外になりかけていたユーゴと鉄太に、マルガレーテが気付いた。
「あら。ところでベレッタ、こちらの殿方は?」
「紹介しますね。この方がサクマ類爵。私が信頼する方です。そしてこちらが───」
ベレッタの紹介を、ゼフィーリアはほとんど聞いていなかった。
何故ならば信じられない物を目にして、すべての意識が視神経に奪われていたからだ。
目を見開いたゼフィーリアは、思わず呟く。
「うそ。……勇悟?」
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