ポーカーフェイスにくびったけ
西園寺財閥の社長令嬢である貴子27歳は、百貨店のアクセサリー売り場のガラスケース越しにダイヤが埋め込まれた銀のネックレスに見入っていた。
「お客様、何をお探しですか?」
落ち着いたやさしいオトコの声が自分に向けられていることに貴子は気づき、振り返ると、そこにポーカーフェイスの背の高い茶髪のイケメンがたっていた。
自分に近づいてくるオトコの声色と表情には必ず委縮や力みがあるのを感じる貴子は、いつもオトコといる時は落ち着きを得られず、会話すらほとんどできずにいるのだった。それが西園寺の名と財産から来ることもわかっていた。
そんな貴子だから、どんなことがあっても顔色一つ変えないポーカーフェイスのオトコとの出会いを求めていた。
今、目の前にいるこのお方こそ、理想のオトコに違いない。そう思う貴子は顔を赤らめながら「はじめまして」と声をかけたのだった。
「はい、お客様、何がおいり用ですか」
貴子は恋に落ちてしまった。委縮も力みも感じさせない、そのクールなポーカーフェイスに落ちていった。
「今晩私の家にいらして、ご一緒にお食事でもお召し上がりくださらない?
貴子のそんな様子を伺っていた若い女の店員が、もう我慢できないといった勢いで、間に入ってこう言った。
「他のお客様にご迷惑となりますので、店内でその様なことはなさらないでください」
「私には、この方でないとダメなの。やっと見つけた理想の方なの。邪魔しないでくださらない!」
「えっ!お客様?これを理想の方とおっしゃられても、私どもと致しましては困ってしまいます、どうすることも。・・とても言いにくいのですが、これは、その店員ではありませんでして、・・」
「あなたも同じ事おっしゃるのね。そんなこと、知ってましてよ。
好きになったオトコの方が、ロボットで何がいけないの。私の恋は誰にも邪魔させないわ。誰にもよ」
そこへ、大慌てでやって来た百貨店の支配人が恐縮しながら貴子に言った。
「申し訳ございません。貴子お嬢様。なにぶん、この山田は新入社員で何も知らないものでして。さらなる社員教育を徹底し、差別意識を改めるよういたしますので。
それでは、昨年と同様、純白のドレス布地でラッピングさせていただき、お部屋までお届けさせていただきますので、どうぞ今後も当店をお引き立ていただきますようお願いいたします」
最後までお読みいただきありがとうございました。
またお会いできたらうれしいです。