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第8話 彼女との約束

 開いた扉から漏れ出た(まばゆ)い光に照らされ、体が不思議な感覚に(おちい)る。


 うまく表現できないが、体がふわふわするというか、どこかに落ちていくような感覚だ。


 ただ、不思議と恐怖感は無く、いつもより体が軽く感じる。


「気持ち良いでしょう? もう目を開けられると思いますよ」


「ん?」


 光が段々と薄くなっていくのを感じ、ユヅネに言われて目を開けると、信じられない光景が広がっていた。


「な、なんじゃこりゃー!」


 溢れんばかりの金、銀、金!


 これは……家、なのか?


 周りを見渡せば、全体的にとにかく明るく派手な物の数々。


 何もないはずの宙からぶら下げられたシャンデリア、床にはレッドカーペット、銀や金色でキラキラと輝く階段に、その先にある無数の部屋。


 高級ホテルには詳しくないが、おそらくそんなレベルではないことは明らかだ。 


「嘘だろ……」


 上を見上げれば、何階まであるかすら分からない長く続く(きら)びやかな螺旋(らせん)階段。


 吹き抜けになっており、その階一つ一つにもかなりの数の部屋が確認できる。


「おかえりなさいませ、お嬢様」


「ええ、今日もありがとう」


 えっ、執事さん?


「行きましょう、優希様」


「え、えっと……」


 行きましょうと言われても。


 とりあえずユヅネに付いて行けば良いのかな。

 えっ、でも……。


 目をぐるぐるさせ、おどおどしている俺に、一人の執事さんが話しかけてくる。


「初にお目にかかります。(わたくし)、お嬢様の執事の代表を務めております『エーレ』と申します」


「は、はあ」


 話しかけてもらったことで、一応の正気を取り戻した。


 こちらはイメージ通りというか、スーツをびしっと決めた上品な女性執事さん。

 黒髪ショートで、ユヅネとはまた違った綺麗さ、大人の雰囲気を漂わせた清楚(せいそ)な方だ。


 とにもかくにも状況が飲み込めない俺は、とりあえず疑問をぶつけてみる。


「あの、ここは一体どこなのでしょうか?」


「ここは、お嬢様の()住まいでございますよ」


 え、仮?

 今、仮って言った?


「お嬢様の実家はこんなちっぽけなものではないのですが、如何(いかん)せん、今は少し親子喧嘩中でございまして」


「ちっぽけ……?」


 ダメだ、頭が追いつかん。

 それともう一つ、エーレさんの口から気になる単語が出てきた。


「あのー、そのユヅネの親というのは……?」


「この世界の魔王でございます。優希様からすると、異世界の魔王になりますね」


 ええええええ!!

 父が異世界の魔王って本当の話だったの!?


 子どもの戯言(ざれごと)だと思って聞いていたが、このヤバい家にたくさんの執事さん達、さすがにこれをドッキリとは思えない。


 ん? 待てよ。

 それなら、


「喧嘩中なのにどうしてこんな家を?」


「そうですね。どうか魔王のお気持ちを察してあげてください。喧嘩中とは言っても、なんだかんだお嬢様の事が心配でならないのです」


「な、なるほど」


「では、本日はごゆくっりとお休みください」


 納得がいったような、いっていないような。


「優希様ー。こちらですよー」


「お、おう……」


 お嬢様をお願いします、と一礼され、俺は階段を上るユヅネを追いかける。 





「はあ……」


「どうされました?」


 俺はユヅネと『愛の巣』と書かれた部屋で話している。

 余計に俺のボロアパートに入れたことが申し訳なくなるな。


 そうなると、また一つ疑問が浮かんでくる。

 もっとも、疑問が尽きることはないのだが。


「俺、どうして異世界の文字を読めるんだ? エーレさんとも普通に話せたし」


 ユヅネとは始めから話が成立したので、すっかり頭から抜け落ちていた。


「そうですね。それは優希様が扉を通った時に、こちらの言語を認識するよう情報を頭に入れられているからですよ」


「?」


「わたしも同様に、優希様の世界に入る際に情報を入れられることで、優希様の世界の言葉を話せるのです」


「???」


 よく分からない……けどそういうことなのだろう、うん。

 異世界怖し。


 そして、ここに来た理由のもう一つ。

 ちゃんと聞いておきたいことがある。


「ユヅネのあの力。それに手を繋いだ時。あれは一体、何が起きたんだ?」


「……はい、お話します」


 ユヅネが真剣な顔になり、話を始める。


「まず、あれはわたしの力によるものです。自慢ではありませんが、わたしは生まれつき“それなりの”強さを持っております」


 魔王の一人娘だしな。

 それを信じた今では、一応の納得は出来る。


「超人的な身体能力、想像を具現化する力、現実(あちら)異世界(こちら)を繋ぐ力など。それらは全て、わたしが異世界(こちら)で使える力なのです」


「改めて聞くとすごいな……」


 あの虹色の中二病じみた剣も、俺の想像を具現化した剣だったわけか。

 そう考えるとちょっと恥ずかしい。


「いえ。そんな力も世界の異なる現実(あちら)では、一人だとわずかな時間しか発揮出来ないのです」


「一人だと?」


「そうです。わたしと優希様が手を繋ぐことで、優希様がわたしの力を引き出したのです」


「なるほど……」


 でも、そんなことが可能なのだろうか。

 実際に目にしているし疑う余地もないんだけど。


 ていうか待てよ。

 手を繋ぐだけで良いのなら、


「俺ではなくても出来るんじゃ……」


「!」


 ユヅネは目を見開き、固まった。

 やばい、言っちゃいけないことだったか?


「ああ、ごめん。なしなし、今のは──」


「いえ!」


 ユヅネは強く否定した。


「今の話ではそう思われるのも仕方ありません。わたしがちゃんと説明しなかったのですから……」


 そう言ったユヅネは、身を縮めてみるみるうちに顔が赤くなっていく。


「大丈夫か? 別に無理にとは言わな──」


「“想いの力”……」


「へ?」


 ユヅネはまだ顔を赤らめながらも、意を決したように俺の顔を見つめた。


「『想いの力』と言うのです! わたしの力を現実(あちら)で引き出すためには、互いの想いが、その……か、重なる必要があるのですっ!」


「!」


 ち、近い近い!

 ユヅネがぐっと近づけてきた顔が、ほんの寸前まで迫る。


 それにしても想いが重なるって、好きって(そういう)ことだよな?


 たしかにあの時、ユヅネを地上に帰すと意気込んではいたが、重なったかと言われると正直……。


「ですが、優希様は疑問に思われるでしょう。悔しいですが、まだまだわたしの事を想ってもらえてるとは思えません」


「い、いやあ……」


 ちょうど今考えていたことだ。


「ですから、今まで見せたわたしの力は本来のほんの一端でしかないのです」


「あれだけ凄い力を使っておいて?」


「はい。互いの想いが強くなるほど、優希様が引き出せるわたしの力は、より大きくなるのです。逆に言えば、今の状態はまだまだということですね」


「な、なるほど……」


「手を繋いだのも、あくまで心が通じ合いやすい形だからです。互いの想いが重なれば、必ずしも繋ぐ必要はないのです」


 もはや、聞いている方も段々恥ずかしくなってくる。


 “互い”とは言っても、要は俺の気持ちってことだよな。

 俺は、ユヅネのことをどう思っているのだろう。


 会って初日だし、ぱっと答えが出るものでもないと思う。

 思うけど、俺には一つ、すでに芽生えていた感情(答え)があった。


 こんなに慕ってくれるユヅネと、今はただ“離れたくない”。

 

 と考えたところで、ふと思い当たる。


「そういえばユヅネって、やっぱり結婚相手の候補とかいたりするのか?」


「い、いません! しつこく申し込んでくる者はたくさんいますが……」

 

「そうなんだ」


 魔王の一人娘だし、候補なんて(あふ)れるほどいるのだろうけど、断っているのか。

 って、何ちょっと安心してるんだ俺。


「どうしたのですか? もしかして、わたしを取られるのが心配なのですか?」


「そ、そういうんじゃねーよ」


 くっ、ちょっと図星じゃないか。


「もう、大丈夫ですよ。優希様のために、そういうのは全て断りましたから! おかげでお父様とは大喧嘩する羽目になりましたが!」


「ん?」


 後半部分に聞き捨てならない言葉が……。


「親子喧嘩の原因って、もしかして俺?」


「はっ! つい口を滑らせてしまいました……」


「……」


 まじかああ……。

 異世界の魔王族の親御喧嘩の理由、俺なの!?


 これって、とんでもなくまずいのでは……?


「お父様が、優希様との結婚を(かたく)なに認めないのが悪いのです!」


 そりゃそうだ。

 俺なんて、ただの落ちこぼれ探索者だぞ。

 親として当然の反応だよ。


「優希様はこんなに素晴らしい方ですのに……」


「……」


 そうか、それでもそんなに俺のことを。

 ならば俺も、せめて自分の今の気持ちには素直になるべきだと思う。


 正直、好きかと言われるとまだ全然分からない。


 でも俺は、ユヅネと離れたくない。


 それがたとえ、親子喧嘩とか異世界のこととか、数々の面倒なことが待ち受けるとしても。


 ユヅネは、俺の落ちこぼれ人生に差した、一筋の光のような存在なのだから。


「ユヅネ」


「優希様?」


 今の俺には結婚する気もなければ、こんな豪邸を用意してやることも出来ない。


 それなら、俺が出来ることは……


「俺は最強の探索者になる。君の父が安心して預けていられるような、そんな強い存在になるよ」


 こうして、俺の最強探索者への道が始まった。

この誓いが、プロローグ一番始めの一人の落ちこぼれの男の誓いです。

ここまでが本編序章の展開、次話より本格的に彼ら二人の物語が始まります。


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