第43話 ギルドメンバー募集!
「「「よろしくお願いします!」」」
「お、おう……。よろしく」
真っ黄色に染まったリフト。
すなわち、Cランクダンジョンの入口を前にして、ずらっと並んだ探索者たちと挨拶を交わす。
この人たちは候補生。
あれから数日後、夜香の提案で協会にギルドメンバー募集を貼り出したところ、予想以上に多くの希望があった。
ギルドからの報告をもらった俺は、適当に「じゃあ全員呼んでください」と返したところ……
「さすがに多くないか!?」
俺・夜香・ユヅネの前にずらっと並ぶのは、総勢四十名の探索者たち。
始めから報酬は目当てにしてないので、分け前に関しては問題ないのだが、だからってさあ。
「すごいです! これが全員、優希様の下部となるのですね!」
「ならねーよ」
魔王の娘は言うことが一々怖いのです。
「うーん、この人数は私もちょっと予想外……けど、それよりあんたよ!」
「俺ぇ?」
夜香は隣の俺をビシッと指差した。
「普通、人数ぐらい聞くでしょ!? なに、全員って!? バカなの!? そうね、バカだったわ!」
四十名の探索者が見守る前で、俺は夜香に説教されている。
これじゃ公開処刑もいいところだ。
ちらっと横を見れば、背筋疲れないのってぐらいに良い姿勢のままの人から、笑いを堪える人・堪えきれていない人。
冷めない内に芋を食べてる人は……いないかな。
正直堅っ苦しいギルドよりも、俺は賑やかで楽しいギルドの方が好きだ。
なので、雰囲気も和んだことだし、これはこれでファインプレー? と、自分を褒めておく。
だがしかし、やるときはやらねば。
「じゃあ改めて。ギルド『マイペース・ライフ』、リーダーの明星優希です。探索者ランクはB。今日はよろしくお願いします」
俺が話し始めた途端、みんなの顔が引き締まる。
「知ってると思いますが、このギルドは発足からまだ間もないです。それにもかかわらず、今日は志願してくださって、ありがとうございます」
志願者の大勢が頷いてくれることに少し気持ちよさを感じながら、俺は一応考えてきた選抜方法を説明する。
「ではこれから班分けを行っていきますので、こちらから前衛・中衛・後衛に分かれてください。役割が分からない方は希望でも良いです」
簡単に班分けを行い、それぞれ班単位で行動してもらう。
個々の強さもだが、ダンジョンではチームプレーが出来る者こそ必要な人材だ。
正直、火力に関しては俺と夜香で十分過ぎるほどだし、ユヅネの力も加われば言わずもがな、だからだ。
あとは、一人一人ではなく、俺がまとまりごとに動きを見れるようにするため。
何人採用するかは決まってないが、なるべく多く採用したいと思っている。
「では、第1班から順にリフトへ入ってください」
班分けが終わったところで指示を出して、いざダンジョンへ。
さあ、どうなるかな。
「はあっ!」
「てぁっ!」
「よっしゃあ!」
ダンジョン内に連携や気合の声、俺へのアピールなどが飛び交う。
今回のダンジョンはかなり変わった造りになっている。
探索者側が、大きな坂の下から上に向かって進み、上からは魔物がなだれ込むように襲ってくるのだ。
俺からは見やすくて大変助かるのだが……
「きゃあっ!」
「しまった!」
坂道を勢いよく下ってくる魔物は、当然普段より早い。
「はッ!」
あやうく一人が犠牲になってしまうところを、俺が事前に察知して魔物を斬る。
「明星さん……!」
「大丈夫ですか?」
「はい! ありがとうございます!」
多分俺よりちょっと下、おそらく未成年の女の子を助けた。
すごいな、こんな頃なんて俺はまだ半分ニートだったぞ。
探索者ランクもFランだったし。
「今回はちょっと変わったダンジョンだね。いつもより魔物の移動が早いから、一瞬早く動くことを意識してみよう」
「は、はいっ!」
俺がアドバイスをあげると、女の子はまたパーティーに戻る。
「すげえ、あれが明星さんの速さか……」
「バカ言え、あんなの全然本気じゃないぞ」
「ああ。俺たちに攻撃が見えるように、わざとゆっくり斬ってくれたんだぞ」
みな、俺の下で探索者になりたくて来ているので、前に出ると目立つ。
ちょっと照れ臭いが……これはこれでありだな。
そうして若干ニヤつく顔を隠しながら後方に戻ると、案の定夜香にツッコミをもらう。
「なにかっこつけてんのよ」
「い、いや? あの子が危なかったから助けただけだし?」
「あんな派手な剣の振り方、いつもしてないでしょ」
「くっ……」
さすがにいつも一緒に探索をする夜香にはバレていたか。
彼女の言う通り、俺はちょっとかっこつけて魔物を倒したのだ。
「別に、ちゃんと全体の事は見てるから良いだろ?」
「まあ、そうね。で、実際のところ、どうなのよ?」
「うーん……」
正直、夜香に聞かれた事については、言葉を詰まらせてしまう。
弱……いや、ここは伸び代がある、という言い方をしておこう。
「こんなもん?」
「まあ……そうね。てか、やっぱりあなたが異常なのよ。通常、DからBランクになるのにどれだけかかると思ってんの」
「そうかあ」
「Dランク上がりたてなんて、正直こんなもんよ。それこそ目立つ存在は、Eランクの時から目星が付いてるからね」
「これは……無しかなあ」
ここまで大規模にやっておいて申し訳ないが、採用は0だ。
どうしても、一緒に探索へ行きたいと思う人がいない。
多分、きっちと教え込んで育てれば芽が出る人もいるのだろうけど、生憎俺はそこまでしようとは考えていない。
俺みたいにテキトーでのんびりした人に従うよりは、他のギルドでびしばし鍛えてもらった方が、その人にとっても良いと思うしなあ。
「……次かな」
期待感とは裏腹に、収穫はなしで終わってしまう一度目の募集だった。




