第42話 ギルドランク
今話より『第2章 名声』開始です!
どうぞよろしくお願いします!
<三人称視点>
優希たちがユヅネを取り戻してから数日。
彼らの最寄りのギルド協会にて。
「支部長、本部より通知が届いております」
「……はあ、あのじじい共か。これだから嫌いなんだよな」
本部からの通達に、協会関東支部長であり、優希の元親友の一条が嘆く。
通知を届けたのは、こちらも優希の知り合い、協会に勤める「京子さん」だ。
「そう仰らずに。こちらです」
「ったく。……うん、うん。あーはいはい。まあ、そうだろうな。俺に責任が乗っかってくるわな」
一条はざっと内容を流し読みし、予想通りだったことに納得する。
「いかがいたしましょう」
「ふむ、一旦置いといてくれ。あれに返事をしたところでまともなことにはならん」
「ですが……」
「いいんだ。ところで、あいつらの動向は?」
一条が椅子を座り直し、京子に問う。
「はい。明星さん達でしたら、三日月さんとBランク昇格試験を行っているかと」
「はやいな」
それなりに多忙であるがゆえに調べ切れてはいないが、一条はこの協会に来るたびに優希の様子を聞いていた。
「ふふっ。嬉しそうなお顔をされてますね」
「そんなわけないだろう。至って普通だ」
京子に指摘された瞬間に、キリッとした表情に戻す一条。
実際に彼の顔は緩んでいた。
「……ふう。やっぱり本部にはジャブをいれるか」
「?」
協会も一枚岩ではないようだ。
★
<優希視点>
「明星くん! 決めてくれ!」
パーティーリーダーの指示を受け、俺が前に出る。
「はいっ! はあああっ!!」
思いっきり振るった剣はザシュン! と気持ちの良い音を立て、ボスの首を見事に切り落とす。
夜香の大きな活躍もあり、無事ボスは討伐だ。
「君達、本当に強いなあ。これなら文句なし! どころか、またぜひ一緒に潜らせてほしいよ! てことで、協会には“合格”で報告しておくよ」
「「ありがとうございます!」」
今回のパーティーリーダーである知的な男性、『安藤さん』にそう告げられる。
ユヅネを含め、俺たちが潜っていたのはBランクダンジョン。
俺と夜香は、Bランク本昇格のためのダンジョンに来ていた。
そして、活躍を認められたので、今日からは晴れてBランク探索者となる。
「あんたら最近出来たギルドなんだって? 疑わしい気持ちもあったけど、これなら期待だね。ていうか、私達もうかうかしてられないんじゃないか?」
「おっとと。これは頑張らないとね、ははは」
リーダーの隣のがっしりとした女性が、安藤さんを軽くどつく。
女性は、安藤さんのギルドの副リーダーだ。
今回の探索は、俺たち『マイベース・ライフ』と安藤さん率いる上位ギルド『賢明の使徒』による、二ギルド合同で行われた。
合計人数はユヅネを含めて十五人。
Bランクダンジョンは、Cランク以下とは一線を画す難易度であり、基本的には大型ギルド、もしくは複数のギルドで探索することが推奨されている。
そうなれば当然、一人一人の報酬が減るのだが、難易度が高い分、発掘物の価値も跳ね上がる。
結果的には、少人数でCランクに潜る場合とほとんど変わりはないのだ。
「では、帰りましょう」
「「「はい!」」」
ギルドリーダー、か。
安藤さんは一見少々頼りなさそうだが、ダンジョンに関する知識とずば抜けた対応力を持ち、こうして付いて来る者が大勢いる。
目の前のこの光景が、安藤さんをギルドリーダーたる様を表していた。
正直、ノリと勢いで創設してしまったばかりに、今の俺にはギルドに関する知識もそれほどなく、イマイチ“リーダー”というものを掴めていない。
自惚れではないが、一対一なら安藤さんにも勝てるとは思う。
それでも、ギルドリーダーとしては安藤さんの方が圧倒的に上だ。
単純な強さだけではないんだな。
今回の安藤さんのような人柄の良さ、チンピラ達の時にお世話になった佐藤さんのように周りを見る力……。
リーダーにも色々形がある、と改めて勉強になった一日だった。
★
協会で探索者カードをBランクに更新してもらった後、俺たちはいつものように外食に行く。
今日は昇格した日なんだ、たまには良いだろう。
え、いつもじゃないかって?
細かい事は気にするなよ。
でも、今はそれどころではなかった。
「ギルドランクかあ……」
「あんたって結構、分かりやすいわよね」
まだ料理の来ていない机に顎を乗せていると、向かいの席に座る呆れたような目をした夜香からツッコミが入る。
ちなみに、俺の隣はもちろんユヅネだ。
あのキョウガとの一件以来、ユヅネは片時も俺の傍を離れようとしない。
そして、ここは行きつけの焼肉店。
そう、いつもの焼肉店だ。
おっと、夜香との会話に意識を戻すか。
「まさか、ギルドにもランクがあるとは……」
「これならば、優希様もわたしも、大人しく誘われた大型ギルドに入っておくべきだったのでは……」
「私の立場わい」
夜香のツッコミを完全にスルーするほど、俺とユヅネは萎えていた。
「そもそも、普通設立の時に色々説明されない?」
「ユヅネ」
「優希様」
「お前ら絶対に聞いてなかったな」
はい、仰る通りでございます。
俺たちは協会にギルド設立の申請を行った際、あまりにもあっけなくそれが通ったことでうかれてしまい、碌に説明を聞いていなかったらしい。
これで俺たちもさらなる金持ちだ、と。
「この先、こんなのがリーダーで大丈夫かなあ……」
頬杖をつく夜香に対しては、
「すみません」
俺は謝ることしか出来ない。
「……まあでも、一から駆け上がっていくのも悪くはないかな」
「お! そうだよねー!」
「はあ、ほんと調子良いんだから」
なんとか助かった、かな?
「じゃあ説明するわよ」
「「お願いします」」
頭を下げた俺たちは、改めて夜香から『ギルドランク』について説明してもらった。
現在、俺たちのギルドランクは一番下の『駆け出し』。
創設から間もないので当たり前だ。
ランクは全六段階あり、一番上は世界で数えるほどしかいないという『グランドマスターランク』。
その間は、順に駆け出し、下位、中位、上位、マスターランク、グランドマスターランク、となっていくそう。
「中々に果てしない道のりだなあ」
「そうね。基本的には探索者個人の“探索者ランク”と同じように、納品でポイントを溜めていけば上がっていくわ。けど、一つ違う点があって」
「それは?」
「『ギルド依頼』っていうシステムがあるの。商人なり企業なり、あとは大手になれば直接協会からも、ギルドに依頼されることがあるのよ」
「ほうほう」
協会で何度か見かけたが、俺には関係なさそうと思ってスルーしていたあれか。
「それを達成することで、ギルドランクにはポイントが入るわ。ランク上げの手段が増えるってことね。まあ、ギルドは大人数前提だから、探索者ランクよりも遥かに上がりにくいんだけどね」
「なるほど」
概要は分かった。
そして、俺がやってしまったことも理解した。
「だからみんな、すでにギルドランクが高い大手にいくのか~」
「そうよ。大手は企業スポンサーだったり、国からの支援なんかで、えぐいほど金が入ってくるからね。ようやく分かった?」
「はい……」
「ちなみに、あんたが断った『未開を求む者』はマスターランクギルドよ」
「がーん!」
「ががーん!」
俺に続いて、ユヅネも声に出してショックを受けた。
そりゃあそんなとこに入れば、がっぽがっぽですからなあ。
「けど、私は感謝しているわよ」
「?」
「こんなならず者を入れてくれるところなんて、他にはないからね」
「……そうだな」
ノリでショックを受けたりしているが、俺は後悔なんて一切していない。
そんなことよりも、マイペースに、俺たちのやりたいようにやりたかったんだ。
「そうだな、って失礼ね!」
「自分が言ったんじゃん!」
「これもらいますねー」
俺と夜香がわーぎゃーしている内に、ユヅネはぱくぱくと肉を口に運ぶ。
「それ私の!」
「それ俺の!」
「知りませーんだ」
ま、なんだかんだこれで良かったんだよな。
他のギルドに行けば、三人でこんなくだらないやり取りも出来なかっただろうし。
だがそんな中で、夜香が一つ真面目に口を開いた。
「でも……そうね。もう少し欲しいかも」
「なにが?」
「探索者」
この夜香の一言から、次の目標が定まった。




