第34話 遥か遠い先で繋がる想いの力
街をほとんど一周、優希のステータスならば短時間で可能である。
それでもユヅネの姿はおろか、手がかりすら掴めない。
「ハァ、ハァ……、どこに行ったんだユヅネ!」
「見つかった!?」
優希が肩を上下させながら玄関の扉を開くと、勢いよく夜香が出てくる。
もし帰って来た時の為に、彼女には事務所で待ってもらっていたのだ。
「ダメだ。足跡すら見つからない」
「そう。何か心当たりは?」
「……あるっちゃある」
というより、優希にはなんとなく最初から、どこかで思い当っていた場所はある。
「どこ?」
「異世界だ」
★
(優希様……)
ユヅネは、彼女専用に用意された寝室のベッドに寝転がり、今までの日々を思い出していた。
初めて優希と会って探索をした日、初めて一緒に焼肉を食べた日、初めて優希にツッコミを入れてみた日……。
大好きな人が意外とポンコツで、ツッコミ必須であった性格ですら、ユヅネにとっては魅かれる一部分となっていた。
そして、夜香や彼女の家族が仲間になった日、最近の楽しかった日々……。
優希だけではない、その中には確実に夜香や夜香の家族も含まれていた。
(長い様であっという間。本当に楽しい期間でしたね……)
父と喧嘩をし、優希と必ず結婚すると言って出てきた実家。
少し長めの家出だったと思えば、納得が出来る気がしてきていた。
それでもやはり、心残りはある。
(せめて、せめて最後に一目だけでも、あなた様にお会いしたい)
手を上に掲げ、彼女の想いを乗せる。
異世界と現代を繋ぐのは二人の“想いの力”。
優希とユヅネが手を繋ぐのは、分かりやすく想いを形にするため。
想いが重なり合いさえすれば、ユヅネの力は発揮される。
ユヅネが最後に込めた想いは、彼女の意図せぬ内に遥か遠い先で重なる――。
★
「せいっ! はあっ!」
「優希、何してんの? ふざけてる場合じゃないと思うんだけど!」
「とにかく見てろって!」
優希は手を上に掲げ、ドアを持つような形に手を整えて下へと振りかざす。
「とりゃ!」
「……?」
「くそっ!」
だが、やはり何度行おうと一向に彼らの前に扉は現れない。
優希は、ユヅネの仮家に行ったときにユヅネが出した、あの扉を具現化させようとしているのだ。
だが当然、やり方や呪文は知らない。
(それでも!)
「やるしかないんだよ! ユヅネ、俺はお前がいないと寂しいんだよ!」
「!? 優希っ!」
「おりゃあああ!」
十二度目の正直、とでもいうべきか。
優希の動作と共に、彼らの目の前に謎の大きな扉が出現する。
「! ……出来た。出来た!」
「え、え? 何、何なのこれ」
夜香は困惑している。
当然だ、優希も初めて見た時は目を疑っていた。
しかし生憎、時間はない。
「夜香、ここで待っていてくれるか? ここからは何が起きるか分からない」
心の中ではユヅネの仮家に繋がっているはず、そう思いながらも、完全には不安を払拭することは出来ない優希。
「この先に、一体何があるって言うの……?」
「異世界。こことは全く違った別の世界だ。ついでに言うと、ユヅネの故郷の世界でもある」
「異世界……? そこにユヅネちゃんはいるの?」
「分からないが、少なくとも俺はそう思ってる」
優希の言葉に少し俯き、考える素振りを見せる夜香。
しかし彼女が覚悟を決めるまでは早かった。
「私も連れてって」
「夜香!? この先は危険かもしれないんだぞ!」
「それでも! 私もユヅネちゃんを助けたい! 私が今ここにいられるのは、あなたと……ユヅネちゃんのおかげなの! お願い! 私も同じギルドメンバーなの!」
「!」
優希は、夜香の覚悟を持った目とその気迫に押し負けた。
「分かった。ありがとう、正直助かるよ」
「うん!」
そうして二人は、どこに繋がっているのかも分からない扉を、迷わず跨ぐ――。




