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第34話 遥か遠い先で繋がる想いの力

 街をほとんど一周、優希のステータスならば短時間で可能である。

 それでもユヅネの姿はおろか、手がかりすら掴めない。


「ハァ、ハァ……、どこに行ったんだユヅネ!」


「見つかった!?」


 優希が肩を上下させながら玄関の扉を開くと、勢いよく夜香が出てくる。

 もし帰って来た時の為に、彼女には事務所で待ってもらっていたのだ。


「ダメだ。足跡すら見つからない」


「そう。何か心当たりは?」


「……あるっちゃある」

 

 というより、優希にはなんとなく最初から、どこかで思い当っていた場所はある。


「どこ?」


「異世界だ」







(優希様……)


 ユヅネは、彼女専用に用意された寝室のベッドに寝転がり、今までの日々を思い出していた。


 初めて優希と会って探索をした日、初めて一緒に焼肉を食べた日、初めて優希にツッコミを入れてみた日……。


 大好きな人が意外とポンコツで、ツッコミ必須であった性格ですら、ユヅネにとっては魅かれる一部分となっていた。


 そして、夜香や彼女の家族が仲間になった日、最近の楽しかった日々……。


 優希だけではない、その中には確実に夜香や夜香の家族も含まれていた。


(長い様であっという間。本当に楽しい期間でしたね……)


 父と喧嘩をし、優希と必ず結婚すると言って出てきた実家。


 少し長めの家出だったと思えば、納得が出来る気がしてきていた。


 それでもやはり、心残りはある。


(せめて、せめて最後に一目だけでも、あなた様にお会いしたい)


 手を上に掲げ、彼女の想いを乗せる。


 異世界と現代を繋ぐのは二人の“想いの力”。


 優希とユヅネが手を繋ぐのは、分かりやすく想いを形にするため。

 想いが重なり合いさえすれば、ユヅネの力は発揮される。


 ユヅネが最後に込めた想いは、彼女の意図せぬ内に遥か遠い先で重なる――。







「せいっ! はあっ!」


「優希、何してんの? ふざけてる場合じゃないと思うんだけど!」


「とにかく見てろって!」


 優希は手を上に掲げ、ドアを持つような形に手を整えて下へと振りかざす。


「とりゃ!」


「……?」


「くそっ!」


 だが、やはり何度行おうと一向に彼らの前に()は現れない。


 優希は、ユヅネの仮家に行ったときにユヅネが出した、あの扉を具現化させようとしているのだ。


 だが当然、やり方や呪文は知らない。


(それでも!)


「やるしかないんだよ! ユヅネ、俺はお前がいないと寂しいんだよ!」


「!? 優希っ!」


「おりゃあああ!」


 十二度目の正直、とでもいうべきか。

 優希の動作と共に、彼らの目の前に謎の大きな扉が出現する。


「! ……出来た。出来た!」


「え、え? 何、何なのこれ」


 夜香は困惑している。

 当然だ、優希も初めて見た時は目を疑っていた。


 しかし生憎、時間はない。


「夜香、ここで待っていてくれるか? ここからは何が起きるか分からない」


 心の中ではユヅネの仮家に繋がっているはず、そう思いながらも、完全には不安を払拭(ふっしょく)することは出来ない優希。


「この先に、一体何があるって言うの……?」


「異世界。こことは全く違った別の世界だ。ついでに言うと、ユヅネの故郷の世界でもある」


「異世界……? そこにユヅネちゃんはいるの?」


「分からないが、少なくとも俺はそう思ってる」


 優希の言葉に少し(うつむ)き、考える素振りを見せる夜香。

 しかし彼女が覚悟を決めるまでは早かった。


「私も連れてって」


「夜香!? この先は危険かもしれないんだぞ!」


「それでも! 私もユヅネちゃんを助けたい! 私が今ここにいられるのは、あなたと……ユヅネちゃんのおかげなの! お願い! 私も同じギルドメンバーなの!」


「!」


 優希は、夜香の覚悟を持った目とその気迫に押し負けた。


「分かった。ありがとう、正直助かるよ」


「うん!」


 そうして二人は、どこに繋がっているのかも分からない扉を、迷わず(また)ぐ――。

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