第3話 嫌な奴ら
あぶねえ、ギリ間に合った!
俺は時刻を確かめ、ギリギリ遅刻はしていないことに安堵の息を漏らす。
「明星さん!」
「あ、京子さん。こんにちは」
ダンジョンの入口である『リフト』の近くに、今日のメンバーが集まっている。
そのメンバーとは少し離れたところにいるのは、京子さん。
彼女とはダンジョンを通じて知り合った仲だ。
彼女は探索者協会から派遣されており、ダンジョンの外で攻略をする人たちへのサポートや、探索者の管理をするのが仕事。
「すみません、少し遅かったですかね」
「いえいえ、そんなことは──」
「そうだよなあ!?」
京子さんと話している横から、チンピラの三人組が割り込んでくる。
彼らは今日の攻略メンバーであり……俺をよくいじめてくる奴らだ。
「優希君さ、君どの立場で遅れてきてんの?」
「そうだ、時間も守れねえのか? お前みたいなカスは、三十分前には来いって言ってんだろうが!」
「それとも俺たちの言う事は聞けませんってか? あぁん?」
俺は怯える京子さんの盾となり、頭を下げた。
普段、一切時間を守れていないこの人たちに言われる筋合いはないはずだが、ここはなるべく穏便に済ませたい。
「すみません! 今後このような事は決してないようにしますので!」
「ったくよー、それじゃ誠意が足りねえんじゃねえのか?」
そこまで言うと、三人はこれ見よがしにステータスを見せてくる。
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ステータス
名前:墨入 龍
レベル:15
職業:なし
攻撃力:46
防御力:49
素早さ:46
魔力 :49
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ステータス
名前:珍平 伊喜利
レベル:14
職業:なし
攻撃力:43
防御力:30
素早さ:45
魔力 :20
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ステータス
名前:口田 啓介
レベル:14
職業:なし
攻撃力:35
防御力:30
素早さ:30
魔力 :50
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「これが見えねえのか?」
チンピラの三人組は、俺の目の前に至近距離でステータスを突き付けてくる。
くそっ、自慢かよ。
だからといって、オール1の俺じゃ喧嘩の相手にもならない。
俺は再度、深く頭を下げた。
「すみませんでした」
「はぁ、まだ分かんないか。土下座だって言ってんだ……って、なんだてめえ」
土下座だと言った入れ墨の男の言葉が、最後の方で引っ掛かる。
不思議に思い顔を上げると、ユヅネが手を広げ、チンピラ達と自分の間に入っていた。
「優希様をいじめる人は許しません!」
な、なにやってるんだ!
自分でも顔が真っ青になっていくのが分かった。
そう、俺はどうしても離れなかったユヅネを、結局連れて来てしまっていたのだ。
「あぁん? ガキが何言ってんだコラ。ぶっとばされ──」
「おい」
「あぁ?」
チンピラのリーダー格である入れ墨の男、『墨入』がユヅネに殴りかかろうとするが、後ろから割り込んだ男性がそれを止める。
今回のパーティーリーダー、南堂さんだ。
五十代の南堂さんは顔も年相応に老けて見えるが、これでも現役。
俺なんかよりはずっと強い。
「時間だ。集まるんだ」
「ったく、一発ぶんなぐってやろうと思ったのによ。しらけちまったじゃねえか」
「むうう」
ユヅネは頬を膨らませながら、まだ俺の前で手を広げている。
「ちっ、いこうぜ」
入れ墨の男は結局ユヅネを殴ることなく、チンピラ仲間と共にリフトの方へ歩いて戻っていく。
南堂さんは守ってくれたのだ。
だが、南堂さんも彼らの力を借りなければダンジョンを攻略できないため、これ以上強く言う事が出来ないのも事実。
良い人なのは間違いないが辛い立場なのだろう。
「優希様! どうしてあんな奴らに頭を下げるのですか!」
ユヅネはまだ頬を若干膨らませたまま、ぷりぷりしながら言ってくる。
「……」
「えっ? わっ、ちょ、ちょっと優希様!」
だが俺は、そんなユヅネを無言で持ち上げて京子さんの前に置いた。
悪いけど、遊びに付き合うのはここまでだ。
今回のダンジョンはFランクとはいえ、大いに命の危険がある。
俺を別の「ゆうきさま」と勘違いしたまま死なれても、すごく後味が悪い。
「優希様?」
「いいか、俺が戻ってくるまでは絶対にここを離れちゃダメだぞ」
「わっ」
屈んでユヅネと視線を合わせ、頭を撫でながらしっかりと伝えた後に、京子さんの顔を見る。
「すみません、京子さん。この子をどうかお願いします」
「わ、わかりました」
京子さんにはユヅネの事を説明していないが、俺が連れて来た子を無下に扱う様なことをする人ではない。
京子さんは信頼のおける人だ。
「よし」
俺はユヅネを預け、持ってきた大きなリュックを背負い直してリフトへ向かう。
今日のメンバーは俺とチンピラ達三人、リーダーの南堂さんの五人だ。
俺以外の人たちは、すでに南堂さんに続いて次々にダンジョンに入っている。
(これで、ひとまずユヅネは大丈夫だ。これで俺もダンジョンに――)
「こら! ダメですよ!」
「優希様~!」
「いっ!?」
リフトに足を踏み込む瞬間、後ろから抱き着かれた俺はそのまま前方へ転がった。