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第13話 やってはいけないことには当然の報いを

 佐藤さんが吐血するような声が聞こえた俺は、咄嗟(とっさ)にその方を振り向く。


 目の前には()()()()攻撃によって、防御が崩れる佐藤さんが映った。


 明らかにヴァイトスネークによるものじゃない。

 腹のあたりの跡……狙撃か!?


「ジャアアァァァ!!」


 外的要因とはいえど、目の前の獲物を逃すほどボスも悠長ではない。

 ガバっと口を開いたボス・ヴァイトスネークの頭が佐藤さんに迫る。


「ははは! そのまま死ねえ!」


 向こうからそんな声が聞こえた瞬間、俺の中の何かがぷつんと切れた。


「――!!」


「「「……は?」」」


 一瞬の輝かしい閃光が走った後。

 チンピラ達は困惑の声を漏らし、佐藤さんは尻もちを着いたまま固まっている。


 無理もないだろう。


 目の前のボスが、頭から尻尾にかけて一筋に切断されているのだ。

 その光景を証明するように、俺の右手には虹色の剣が握られている。


 ユヅネの具現化武器の中でも最強格のあの虹色に輝く剣だ。

 

「優希様、あいつら……」


「分かってる」


 だがその前に、


「すみません、佐藤さんを応急処置してもらえませんか」


「あ、ああ……」

「分かった……」


 俺は二人の先輩探索者にお願いした。


 そして、すでに動くことのないボスの体を歩いて登り、向こう側のチンピラ達の前に立つ。


「お前ら、やってはいけないことをしたな」


 俺の言葉にびくっとする連中。


「な、何言ってんだよ……お前」

「倒せてよかった、じゃねえか。は、はは……」

「お前やっぱ……強えな、ははは」


「ッ!」


 そのヘラヘラした態度に、俺は怒りをぶつけるように虹色の剣を横に振るった。


「「「ひいっ!」」」


 剣筋を表すようにボス部屋の床はぱっくりと割れ、一筋の綺麗なひびが入っている。


「佐藤さんに何をした」


 チンピラ達の内、二人は今ので泡を吹きながら意識を失っていた。


 そして、俺を一番いじめていた入れ墨の男は、過呼吸となり股の部分を汚らわしく濡らしている。

 

「そ、そいつのおかげなんだろ! お前が強いのは!」


「……」


 入れ墨の男は、声を震わせながらユヅネを指す。


 なるほど。

 リフトに入る前の視線、こいつらは最初はユヅネを狙っていたわけだ。


 だが、途中で標的を変えた。


「質問に答えろ」


「ぐっ……!」


 本当は、入れ墨の男が持つ銃から煙が上がっていることが全てを物語っている。


 こいつらは、佐藤さんを撃ったのだ。


 不合格を言い渡した佐藤さんをこのダンジョンで殺すことで、有耶無耶(うやむや)に合格にしようとした、といったところだろう。


 俺や先輩探索者なんかは、脅せばなんとかなるとでも思ったのか。

 大間違いだな。


「お、お前が強いんじゃないだろ!」


「だからどうした」


 それが、佐藤さんを殺そうとした理由になるはずがない。


「ちくしょう、調子に乗るなあ!」


「――!!」


「ぼへえっ!」


 俺の本気の怒りを込めた拳。

 ユヅネと手を繋いでいることから引き出される、ユヅネの魔王の娘としての力も加わった本気の一撃。


 入れ墨の男は十数メートル先の壁までぶっとび、見事に三回ほどバウンドして「ぐえっ」とその場で横たわった。


「ゆ、優希様……」


「……うん。やりすぎた、かな?」


 とは思うが、別に後悔はしていない。


 こいつは、あろうことか最後の最後にユヅネを狙って手を伸ばしたのだ。


 ユヅネ相手に何が出来るかは分からないが、とにかくその汚らわしい手を伸ばしたのが、俺は許せなかった。


「く、くそが……」


 まだ減らず口を叩く入れ墨の男に、俺はたんっ、と近寄って拳を向ける。


「もう一発、いっとくか?」


「ひ、ひいぃっ! ……あ、ぐ……」


 ばたん。


「「あ」」


 先程ぶん殴ったダメージに加えて、心が恐怖で支配されたのか、入れ墨の男も気を失った。

 






「本当に助かったよ。ありがとう、明星君」


「そんな。佐藤さんがいなければクリアも、こうして合格することも出来ませんでしたから」


 俺は協会の前で、Dランクと書かれた探索者カードを握りしめながら佐藤さんと話している。

 

 佐藤さんは吐血こそしたが、それほど悪い場所に当たったわけではなく、現代のダンジョン産回復薬を以ってすれば何事にもならなかった。


「そんなことはない。不思議な所はあるけど、これは君の強さ、それに守るべき者を持つ者の強さってとこかな」


「い、いやあ……」


 俺の後ろにいるユヅネを覗くようにして、言葉を伝えてくる佐藤さん。


 守るべき者、か。

 いつか本当に俺が守る側になりたいものだ。


「それにね……」


 リーダーは後方を振り返った。


「てめえら、まじで覚えてやがれ!」

「次会った時は覚悟しろ!」

「ぜってえぶっ殺す!」


 拘束され、暴言を吐きながら協会に連行されていくチンピラ達。


 ようやく気を取り戻したようだが、生憎(あいにく)股を汚く濡らした装備では格好が付くはずもない。

 なんだよ、結局泡を吹いて倒れた二人も漏らしてたのか。


 彼らを抑える協会の人が、なんとも臭そうにしているのだけが不憫(ふびん)だ。


「ふふっ、いいざまです」


 彼らの処分は探索者資格の永久剥奪、加えてダンジョン法違反の容疑にもかけられている。

 まあ、後者もほぼ確定みたいなものだろう。


 協会と国が定めた、パーティー内での協力規定を破ったからだ。


「これで彼らも留置されるだろう。ダンジョンに潜ることは出来ないかもしれないが、今度こそ更生してほしいものだよ」


「そうですね」


 あいつらに同行させてもらうことで食いつないでいたのは確かだが、あいつらはついに一線を超えてしまったのだ。

 

 当然の報いだろう。


「……」


 これで俺が、彼らにいじめ抜かれた日々が帰ってくるわけではない。


 それでも、俺みたいな嫌な思いをする人が一人でも少なくなってくれれば良いな、と心から思う。


 ダンジョンは夢を“追う”場所なんだ。

 夢を“奪う”場所であってはならない。


「一件落着、ですね」


「ああ、今回も助かったよ」


 俺はユヅネと並び、綺麗な紅い夕立を眺める。

 俺たちの祝福を祝うように、なんとも幻想的な空模様だった。


「じゃあいくよ。明星君とはまたどこかで会う事があるかもしれない。達者でな」


「はい! お世話になりました!」


「嬢ちゃんも元気でなー」


「ばいばーい、です!」


 こうして、俺は晴れてDランク探索者となったのだった。

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