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砂漠の戦士  作者: ハシバミの花
第四章 邑衆
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〈五〉逢瀬

 夜。

 邑の隊列からずいぶん離れた所で、カサはラシェと逢う。

 寝所にしている枯れ谷から、かなりそれた場所である。

 欠けゆく月は高く上がり、闇に慣れた目に、大地は昼間のように照らされている。

「……ラシェ!」

 カサがラシェに近づく。

「……カサ!」

 ラシェがカサの胸に跳びこむ。

 無言で抱きあい、それから人目を避けて月影を探す。

 大きな朽木の洞を見つけて、そこに隠れるように潜りこむ。

 並んで腰を下ろし、肩を寄せ合う二人。

 あの涙に暮れた夜以来、一日と空けず、二人は逢瀬を重ねている。

 カサはラシェの姿が見えないと、その身に災難がふりかかったのではないかと心配してしまうし、ラシェも傍らにカサがいないと、不安で物事が手につかない。

 考える事はお互い同じで、

――自分よりも魅力的な相手を見つけたりはしないだろうか。

 とか、

――身分の違いを重荷に感じて、向こうが愛想を尽かしてはしまわないだろうか。

 とか、そんな事ばかり。

 どこまでも懸命なのが若い恋心だ。

 そのくせどちらも幼い所があって、幾度逢瀬を重ねても、抱き合う以上の事をしない。

 いや、できない。

 どちらも相手おもんぱかる性質であり、ついつい躊躇が先にたつ。

――交われば、もう引き返せない。

 その思いが、もう一歩を踏み出せぬ枷となっている。

 どちらも狂おしいほど相手を求めているのに、どちらもどうしようもないほど相手を気遣ってしまうのである。

「カサ……」

 闇の中で、ラシェの声が熱く切ない。

「ラシェ……」

 そしてカサも、身じろぎできないほど相手を欲し、いたわっている。

 同じ場所より生まれし背反する感情が、二人を一つにさせない。

 月からも見えない場所で、そよ風一つすら動かない空気が、二人の熱気がこもる場所を、ただ包んでいる。

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