〈五〉逢瀬
夜。
邑の隊列からずいぶん離れた所で、カサはラシェと逢う。
寝所にしている枯れ谷から、かなりそれた場所である。
欠けゆく月は高く上がり、闇に慣れた目に、大地は昼間のように照らされている。
「……ラシェ!」
カサがラシェに近づく。
「……カサ!」
ラシェがカサの胸に跳びこむ。
無言で抱きあい、それから人目を避けて月影を探す。
大きな朽木の洞を見つけて、そこに隠れるように潜りこむ。
並んで腰を下ろし、肩を寄せ合う二人。
あの涙に暮れた夜以来、一日と空けず、二人は逢瀬を重ねている。
カサはラシェの姿が見えないと、その身に災難がふりかかったのではないかと心配してしまうし、ラシェも傍らにカサがいないと、不安で物事が手につかない。
考える事はお互い同じで、
――自分よりも魅力的な相手を見つけたりはしないだろうか。
とか、
――身分の違いを重荷に感じて、向こうが愛想を尽かしてはしまわないだろうか。
とか、そんな事ばかり。
どこまでも懸命なのが若い恋心だ。
そのくせどちらも幼い所があって、幾度逢瀬を重ねても、抱き合う以上の事をしない。
いや、できない。
どちらも相手おもんぱかる性質であり、ついつい躊躇が先にたつ。
――交われば、もう引き返せない。
その思いが、もう一歩を踏み出せぬ枷となっている。
どちらも狂おしいほど相手を求めているのに、どちらもどうしようもないほど相手を気遣ってしまうのである。
「カサ……」
闇の中で、ラシェの声が熱く切ない。
「ラシェ……」
そしてカサも、身じろぎできないほど相手を欲し、いたわっている。
同じ場所より生まれし背反する感情が、二人を一つにさせない。
月からも見えない場所で、そよ風一つすら動かない空気が、二人の熱気がこもる場所を、ただ包んでいる。




