表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂漠の戦士  作者: ハシバミの花
第三章 砂漠
70/176

〈二十一〉成人

 成人の儀が執り行われる。


 各職種に割り当てられた新成人たちが、その先一生になうであろう仕事に慣れる間もなく、戦士たちの狩りの遠征が始まる。

 一年前、カサと同じ歳の者たちが成人した頃から、新米の戦士たちのカサを見る目が変わり始めている。

 それ以前の者たちは、いかにも侮るような目で見たり、嫉妬に燃える目でにらみつけたりしたが、この年の成人たちにはそんな無礼者はいなかった。

 尊敬と憧れ。

 今年戦士になった者たちは、みな憧れに色めく眼をカサに向けている。

 カサは知らなかったが、彼らにとってカサは、同年代の誇りであった。

 そう聞かされても、何の感情も喚起されなかったろう、カサにとって戦士階級での評判は、考えるのも面倒な事柄であった。

 ラシェとの関係が破綻して一ヶ月と少し、立ち直るにはまだ時間を要する。

 悄然とするカサに、心配の目を向ける者は幾人もいたが、カサは心持ちを誰にも漏らさなかった。

 ただ湧きあがる激情をすべて、槍にぶつけた。

 幾つもの槍を折り、

 幾つもの革袋を破り、

 幾つもの石輪を砕いた。

 血のにじむ、などという表現では甘ったるい。

 文字通り血を流しながら、カサは槍を鍛えつづけた。

 ガタウの誤算がある。

 カサの槍が、凄みを増した。

 実の所ここしばらく、カサの上達は横ばい状態にあった。

 上達の後の停滞、そしてまた上達、成長はそのくり返しである。

 停滞そのものは誰もが通る道なのだが、長引けば、そこが力の上限となる。

 長い停滞期間が、練習を倦ませ、それ以上の上達を阻むのである。

 その壁を、カサは破った。

 深い悲しみと怒りが、カサに己の限界を超えさせた。

 カサの槍は威力を増し、そして今、その槍の威力鋭さは、ソワクに迫りつつあった。

――ソワクを超える日も、もはや遠くはあるまい。

 それだけ槍を振るっても、カサの表情は晴れない。

 当たり前であろう、内面の屈託を燃料に、カサは槍を鍛えつづけているのだ。


 ソワクも心配して、カサに何度か声をかけた。

――カサ、顔色が悪いぞ。

――どうしたんだ? 身体を壊したのか?

――何かあれば俺に言えって言ってるだろう?

 だがカサは、なにを呼びかけても、

「うん」

心ここに在らずの様相であった。

 やがてソワクも諦め、遠征の半ばからカサに心配の声をかける者はいなくなった。


 夏営地を出て十と五日目、戦士たちの集団が狩り場に到着する。

 スェガリ、血と獣臭の強い風が、彼らを迎え入れる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ