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砂漠の戦士  作者: ハシバミの花
第三章 砂漠
49/176

幕間

この一節は、非常に読みづらい文章で描かれております。

本編とは直接関係ない内容となっておりますので、面倒であれば飛ばすことをおすすめします。

 去る筋からの好意により、獣の牙、と呼ばれる品物を手に入れる事が出来た。去る筋、とは勿論件の友人で或る。


 唐突に我が家を訪ねた友人から、手渡されたので或るが、よもや其の様な物が今現在に至るまで残存して在ったとは思わなかったので、此れには流石に驚いた。

「此れは……?」

 無造作に突き出された物を見て、私は難しい顔をしていたで或ろう。

「判らんのか? 君も案外不勉強な人間だな」

 取り上げる。陶磁器のような表面の質感。最初は紙切ナイフか何かと思ったが、人の手で加工された物では無い。手の中で返す返す目を凝らすと、緩く湾曲した微妙な錘形。頂点から弧の外側に血管の如く赤い筋が、長く根元まで流れて居るのに気が付いた。

「まさか……」

「獣の牙さ。君の書いている例の物語の」

「本物か?」

 千年前の骨董品である、余り鮮やかな赤なので模造品を疑ったが、其れにしては拵えが良い。

「正真正銘獣の牙さ。私が証明書を設えた一級品だぞ」

 驚いた。如何様にして斯様な物を手に入れたので在ろう。

「骨を折った。感謝し給えよ」

 押し付けがましく肩を揉んで見せる。動作が芝居がかって居る。

「高価な物では無いのか?」

「安くは無い。だが或る種の人間に取っては、石くれも同然さ」

 聞き出して見ると、呉れた相手はどうやら道楽で化石や石器と云った骨董物を集めて居るらしい。

「市井の好事家さ。金持ちの横好きで、同じ様な物を幾つも持って居る」

 集めた品物の目利きなぞを良く頼まれるらしく、頻繁に屋敷へ呼ばれるのだそうだ。

「呼ばれる内、懇意にして貰える様に成ってね。此方としても世界の名品珍品を拝めて眼福なのだから、持ちつ持たれつなのだが、あれや此れやと世話を焼こうとするのを其の都度断って居たのだが、向こうも気を揉んで居たと言う。ならば試しに、其れを呉れ、と言ったらあっさり呉れたよ」

 其れの何処が骨なのだ、と冗談めかして云うと、彼女も笑う。

「まあ良いでは無いか。此れで君に貸しが一つ出来ると云う物だ」

「本当に貰ってしまって良いのか?」

「要らないかい?」

 勿論有り難く戴く、と伝えると、ならば貰って置くが良いさ、と屈託が無い。


 其の日友人は用事が有るとかで、長居が出来ず互いに残念な思いで別れたが、其の夜私はとても充実した気分で或った。取って置きの蒸留酒を引っ張り出し、夜長を独りで楽しんだ。友人が知れば何を独りでと怒ったで或ろうが、特別な夜を特別な酒で過ごすのは此れ又礼儀と云う物で或ろう。

 そんな訳で、書斎の机の上、角灯の揺らめく火を受けて滑らかな艶を発する獣の牙を、私は飽きずに眺めて居た。取り上げて撫でると、千年の風雨を伝える様に、冷やりと手肌の熱を奪う。存外重みが有り、語り掛ければ、答えが返りそうな気さえする。

 静けさが支配する空間で、汗をかいた氷が、タンブラアの中で音を立てる。

 琥珀の液体を口に運ぶ。甲高い音が、長い時を樽の中で過ごした液体の、其の旅に我も連れて行けと言う自己主張に思えたので或る。

 泥炭の薫りを移した蒸留酒の匂いが、夜長の目蓋の裏側に砂漠の風景を蘇らせた。

次回より第三章本編、本日正午の投稿になります。

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