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砂漠の戦士  作者: ハシバミの花
第一章 少年
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〈十二〉肝練り

 きっかけはやはり、ヤムナであった。

 血生臭い風――スェラガンの死を内包した恐怖もやや肌に馴染んだ頃。

 狩りの期間も終わりに近づき、同年の者たちを集めて、こっそり別行動を取ろうと言い出したのである。日暮れからかなり経ち、もはや砂漠も大方眠りにつくころであった。

「大丈夫。ばれたりするもんか。ちょっと行って帰ってくるだけだ」

 さも簡単そうに言うヤムナに、新顔の戦士たちは冒険心を刺激された。

 まだ年端も行かぬ頃から恐ろしいぞ危ないぞと大人たちから脅かされつづけた新顔戦士たちも、狩りの回数をこなすうち、何となく自分は死なないのではないかと言う錯覚を抱いていた。

 狩り場の雰囲気にも慣れはじめ、油断しやすい時期ではあったのである。

「面白い」

「コブイェックに遭ったらどうする?」

「それこそ腕が鳴るぜ」

などと鼻息も荒い。

 気乗りしないのは、トナゴとカサだ。

 トナゴはもちろん臆病風に吹かれての事だが、カサは一人幼いため、ヤムナたちの年代特有の反抗的であるほど周りを惹きつけるという感覚がわからない。

 そうは言っても、最近ようやく溶け込み始めた彼らの輪の中に居つづけるには、ここで孤立する訳にもゆかない。渋々ながら、カサも彼らと行動を共にすることにした。

 そして年下のカサが参加するのなら、トナゴも行かないとは言えない。

「ガキは帰って寝てたっていいんだぞ」

「いや、僕もいく」

「死ぬかも知れないぞ。ブロナーの横で丸くなってた方が安全だぞ」

 トナゴがブロナーを呼び捨てにした事に一瞬ムッとしたが、

「僕もいく」

 決然と言う。

 トナゴは小さく舌打ちをしたが、カサに背を向けるとそれ以上何も言わなくなった。

「行くのは夜の一番深く、月が砂星に懸かる頃だ。皆こっそりマレを抜け出して来い。何か聞かれたら、小便に行くとでも言っておけ。大岩のあっち側の陰に集まるんだ」

 ヤムナの指示で、若い戦士たちは三々五々まだ火を囲んで酒盛りをつづけるそれぞれの五人組へと散ってゆく。

「見張りに見つかるな!」

 そう言ってヤムナも身をひるがえす。

 火の傍に戻り、カサが傍らに座ると、ブロナーが、

「食うか?」

干し肉を差し出してきたが、

「いいえ」

と気の無い表情で返されると

「そうか」

と少し残念そうにした。

 この後ブロナーたちが寝静まってから、こっそりと抜け出して、掟破りの小冒険に行かなければならない。

 そのせいでカサは落ち着かず、マレの中で何度も寝返りを打ち直していたので、ついに、

「どうかした、小便か?」

ブロナーに聞かれてしまう始末。

「い、いえ。大丈夫です」

 仕方なしに息を殺して刻限を待ち、静かにマレを抜け出した。

 それにあわせてトナゴも起きてくる。カサの様子をじっと伺っていたに違いない。

「行くぜ」

「ウン」

 トナゴが偉ぶって先導する。年下のカサにだけ態度が大きい。

 二人は音も立てずに動き出す。

 つま先を使わないで砂を踏みにじる音を消す歩き方を、砂漠の部族民は物心がつく前に教え込まれる。

 この砂漠に生まれ落ちた者たちは、生まれながらの狩人なのだ。

 トナゴとカサの対照的な背中が稜線の向こうに消えてゆく。

 目立たぬよう槍を低く取ったその様子を、ブロナーが薄目を開けてジッと見ている。

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