9話 僕と妻は旅の資金を稼ぐ
今回は少し短めです。
僕達は辺境の街フラートへと到着した。
「これが地上の街ですか! アキト、あれは!?」
「落ち着いて。ちゃんと教えるからさ」
子供のようにはしゃぐ妻に、ついつい目尻が下がってしまう。
特にあの感情で大きく動くうさ耳は、見ていて飽きない。
みんな、見てごらん。
あのとんでもなく可愛い子が僕の奥さんなんだ。
ぼーっとしていると、アマネは屋台の前で財布を取り出した。
「これ二本ください」
「ねえちゃん、これどこの金だ。悪いが売ってやれねぇな」
「そうなのですか……アキト~」
アマネはどうしたらいいのか分からないようで、僕に助けを求める。
そう言えば彼女は下の金しか持ってなかった。
慌てて店主に金を支払う。
「まいど」
串を受け取って、二人で適当なベンチに座った。
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですか?」
「今日の宿代くらいなら平気だ。でも、資金は心許ないかな。この街でひと稼ぎしておくべきだろうね」
「狩りなら任せてください」
「だとすると、やっぱ冒険者か」
考えつつ串肉を食べる。
「美味いな。酒が欲しくなる味付けだ」
「ふふ」
アマネは『私が見つけました。美味しいでしょ?』と言いたそうなニコニコ顔。
頭を撫でれば、うさ耳が垂れ下がり気持ちよさそうにする。
地上に出てきてから楽しそうだし、やっぱり連れてきて正解だった。
下では新婚旅行なんてものはないそうだが、説明するとすんなりと受け入れてもらえた。
まぁ、夫婦でどこかへ行きたいってのは、誰でも考えることだし。
しかも結婚したてで、まだまだお互いのこともそれほど分かってないし、刺激もたっぷり。
それに家だと三人の目があって、いちゃいちゃできなかったんだよなぁ。
「旅の途中で僕の生まれ育った村にも寄るから、楽しみにしてて」
「アキトの故郷ですか、どんなところなのでしょう」
「田舎の小さな村だよ。ちゃんと両親にも紹介するからさ」
「ご両親ですか……緊張します」
ここからは遠い場所にあるから、まだ先の話だけどな。
「彼女の登録を頼む」
「では、こちらの書類に記入を」
ギルドへ来た僕達は、まず最初にアマネの登録を行うことにした。
書類に記入したアマネは、女性職員に差し出す。
「確かに。少しお待ちください」
職員が下がり、しばし待つ。
戻ってきた職員はカードを彼女に差し出した。
「これが冒険者カードですか?」
「ランクはS~Eまである。アマネは僕と同じEだな」
「ちなみにアキトが以前いたパーティーは」
「Bランク。もうAになってるかもしれないけど」
僕達は適当な依頼を見つけて、資金を稼ぐことにした。
◇
その日のうちにギルドへと戻ってきた。
「討伐したんだけど、確認してくれないか」
「それでは証明になるような素材をお見せください」
「表にある」
女性職員は「は?」と首を傾げた。
彼女を連れて街の外へ行けば、人だかりができ、ざわざわしていた。
横たわるのは十五メートルもの巨体を誇るレッドドラゴン。
待っていたアマネが笑顔で手を振る。
「あれをたった二人で?」
「いくらぐらいになりそうかな」
「正統種のドラゴンを……」
職員はへなへなと地面に座り込む。
そこまで驚くことか?
いや、驚くか、普通は。
正統種下位のドラゴンとは言え、レッドドラゴンは紛れもなく怪物だ。
でも、昔の剣聖が単独で倒したって話を聞いたことがあるし、史上希に見る出来事ってわけでもないはず。
「もしや、貴方は剣聖様でしょうか」
「えーっと」
なんて答えればいいのだろう。
剣皇って言うと、間違いなく大騒ぎになるよな。
なんせ五百年間所持者が現れていない。
ここは穏便に答えておくべきか。
それに僕、目立つのに慣れてないんだよ。
主にちやほやされるのはジュリエッタだったからなぁ。
「ただの荷物持ちだ」
「絶対嘘ですよね!? まぁいいですけど!」
彼女は「待っていてください!」とどこかへ走って行った。
そして、すぐに戻ってくる。
「それで報酬の件なのですが」
彼女は小さな紙を僕に渡す。
そこには金額が書かれていた。
やけにゼロが多いな。
いち、じゅう、ひゃく、せん……さ、三億!??
こんなにもらっていいのか!?
「お支払いはギルドで行います。それとですね、パーティーネームを窺いたいのですが、すでにおありでしょうか」
あ、しまった。
まったく考えてなかった。
アマネを呼んで二人で相談する。
「パーティー名ですか?」
「そう、やっぱ決めておくべきだよね」
「アキトが決めてください。私はどのような名前でも構いませんよ」
「じゃあ……『蜜月組』というのはどうかな」
「ふふ、なんだか楽しそうな名前ですね」
蜜月、つまりハネムーンだ。
新婚旅行の間だけのパーティーだし、凝った名前を付ける必要もないだろう。
ネームが決まり、職員に伝える。
「可愛いネームですね」
「どうも」
僕達は金を受け取るため、ギルドへと向かった。
「なんだか沢山ありますね」
「あるね」
「テーブルが壊れそうです」
「そうだね」
宿の一室。
テーブルに載せた金貨の山に、僕達は圧倒される。
その額、3億。
これだけの金額を見るのは生まれて初めて。
テーブルが重みに耐えきれず、みしみしいっている。
もう資金を求めて戦う必要がなくなった。
今回だけで贅沢な旅ができてしまう。
「ギルドマスターって人はなんだったのでしょうか」
「さぁ?」
ギルドに行ったらギルドマスターが出迎え、特別な一室に案内されて、金を受け取った。
それからしつこく、どこから来たのか、なぜそんなにも強いのか、これからどこへ行くのか、などなど質問攻めにあった。
もちろん全てに黙秘した。
なんとなく面倒事の臭いがしたのだ。
「これからどうしますか」
「ひとまず王都を目指そうと思う」
「とても大きな街でしたよね」
アマネは王都をずいぶんと楽しみにしているようだ。
この国のあらゆるものが集まる場所、と言えば誰でも期待するよね。
「アマネ」
「ふふ、もう子作りの時間ですか」
僕は彼女の手を引き、ベッドへと誘う。
眼帯を解けば、美しい双眸が僕をはっきりと見た。
「旦那様、はずかしいです、あまりまじまじと見ないでください」
「君の目は吸い込まれそうなほど、綺麗で愛らしい」
「はう、」
うさ耳がぺたんと垂れ下がった。
顔は湯気が出そうなほど真っ赤だ。
「アマネ、大好きだ」
「私もです。素敵な旦那様」
僕はアマネをベッドに押し倒した。






