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73話 僕らは墓場山脈へ到達する


 巨森林を中ほどまで進んだところで、別部隊と合流する予定だ。


 彼らは西側から上がってきた少数精鋭。

 メンバーにはクラリス率いるパーティーが中核として同行している。


 東側の部隊はこのまま合流せず山脈を越える手はずとなっている。


 僕ら中央部隊は魔族の目を引きつける役目を担っており、この三つの部隊のいずれかが邪神へたどり着き討つこととなる。


 とうぶん仕掛けてこないだろうとの予測のもと、僕らはしばし休息をとることにした。


「この小生の華麗な射撃をお見せできなかったのは残念です。お姉様に濡れ濡れを御覧できなかったのも♡」

「そ、そうですか……その、ちょっと近いです!」


 迫ってくるクラリスを、アマネは手の平で押し下げる。


 彼女は待っていたとばかりにその手をペロペロなめまくった。


「ひぃい!? なんとかしてくださいアキト!」

「助けてあげたいけど彼女は仲間で女性だし、この前は泊めてもらったりしてお世話にもなったからなぁ」

「ぐふふ、お姉様観念してください♡」


 案の定だが、クラリスに僕らの正体がばれた。


 正確に言えば再会した時からすでに疑念はあったそうだ。

 しかし、明確な証拠がない為に泳がされていたと言うか、じっくり様子を観察されていたらしい。


 ウォーレンさんといいクラリスさんといい、割とバレない自信があったんだけどなぁ。


 ちなみにエミリは、オズヌさんとウォーレンさんに挟まる形で食事をしている。二人とも子供が好きみたいで自分の子供のように世話を焼いている。

 エミリが可愛いってのもあると思うけど。


「お戯れはその辺に」

「ヤコンは固いわね。頭がツルツルだからかしら」

「毛髪は関係ないかと。拙僧は修行中の身、そのような破廉恥な行いは見過ごせぬ故」


 ヤコンさんはクラリスさんの仲間だ。

 雷棍士のクラスを有していて、武道大会でアマネと対戦した例の彼。


 他にも三人ほどメンバーがいて、全員腕が立ちそうな印象だ。


「あまり気を抜かれてはなりませぬ。この先の墓場山脈からはより激しい戦いとなりましょう。我らは重要な役目を背負っているのをお忘れなきよう」

「承知しています。ですが、お姉様を目の前にしてこのときめきは抑えられません!」

「ひぃ!」


 アマネが僕の背後に隠れる。

 彼女にも苦手なものがあったんだな。



 ◇



 巨森林を抜け、僕らは山脈へと入る。

 ここから一気に気温が下がり、身を縮めるような冷たさが僕らを襲う。


 北は非常に寒い土地だと聞いてはいたけど、針で刺すような冷えた空気は僕らを驚かせた。


「息が白いなの。はぁ~」

「比較的歩きやすいルートを選んだはずなんだけど、予定よりもずいぶん遅れてる」

「この雪ですから仕方ないです。ふふ」


 降り積もった白雪を踏みしめひたすら進む。

 深さ自体はそれほどでもないが、やはり足を取られどうにも動きづらい。着込んだ防寒着ももこもこしてて温かいけどちょっと重い感じだ。


 エミリとアマネは初めて雪を見たらしく終始楽しそう。


 ナジュ村のある地下空間は、一年中過ごしやすい気温に保たれているそうなので雪が降ることがない。

 これも地上に出られたおかげかな。彼女にこの光景を見せられて僕も嬉しい。


「はっ」


 目を離した隙に、アマネが雪の絨毯に飛び込む。

 真似してエミリも飛び込んだ。


 二人とも子供だなぁ。雪くらいであんなにはしゃいじゃって。


「ぐへへ、お姉様」


 一瞬で下着姿となったクラリスさんが、アマネに向かって飛び込む。


 アマネは素早く身を起こし躱しクラリスは雪に沈んだ。


「へっくちゅ。さぶううっ!」

「クラリス様、馬鹿なことをしていると風邪をひきます」


 ヤコンさんが服を拾い上げ投げ渡す。

 渋々服を着始めたクラリスは鼻水を垂らしていた。


 先を行くオズヌさんとウォーレンさんが振り返って「なにしてんだ」と声をかけた。





「これが墓場山脈……」

「異様ですね」


 山脈の半ばまで来ると、誰もが墓場の意味を知ることとなる。


 山の中に存在する金属の山。

 かつてあった遺物の残骸だろうか。


 頑丈な金属の柱がねじ折れ、色づけされた金属製の板が至る所に積み重なっていた。


 道の脇に避けられている金属の破片を眺めつつ、僕らは静かに足を進めた。


「すげぇなこりゃ。一体全体何があったんだ」

「かつての戦いの名残ではないだろうか。古代文明は何かとんでもない存在と戦っていた。それが邪神ではないことを祈るばかりだ」


 これを全てレインがやったと?


 どれほどの力を振るえばこんな光景を創り出せるのだろう。

 少なくとも僕にはできない。


 魔法……? だがそれはどんな魔法だ。


 金属をこうも変形させるなんて想像できない。


「全員躱せ!」

「!?」


 上空から鉄の柱が高速落下する。


 数は、十本以上。


 兵士を守る為、僕は双剣の能力を発動させた。


 聖双剣マスティア、真価を発揮しろ。

 双剣が眩く輝く。二本の黄金の尾を引きながら、斬る度に金属の柱を光の粒子に変える。だが、全てを消しきれず柱が地面に突き刺さった。


「レイバーン!」


 アマネの聖竜槍が発動する。


 刺突と同時に竜の咆哮のような音が発せられ、柱は勢いを殺され真下に落ちた。


「濡れそうな予感。ソフルデッド」


 クラリスさんが聖星銃を撃つ。

 弾丸は黄色い流星のごとく飛び、不規則な軌道を描きながら直撃した柱を消し飛ばす。


 全ての柱が消えたところで上空を飛翔する塊を見つけた。あれは……レッドドラゴン?


 ドラゴンは旋回し、僕らの目の前で足を着けた。


「しばらくぶりね。アキト」

「ジュリエッタ!?」


 背に乗るのは四人。

 その一人は男となったジュリエッタだった。


 剣聖とは思えないデザインの鎧に身を包み、不敵な笑みを浮かべ見下ろしている。


「ほら、貴方も挨拶なさい」

「――はい」


 ライが悔しそうな表情で僕を見た。


 どうなってる。彼はウォーレンさんとの戦いで死んだはずでは。


 誰がどう見てもあれは死んでいた。

 生きてるはずがない。


「ふふふふっ、興味をそそられる者達ばかりではないか。全員の性別を入れ替えたらどうなるだろうな。妄想がはかどる」

「きっしょ。その趣味わかんないわー」


 担いでいた柱を投げ捨てたアスファルツが、眼鏡男性へぶちぶち文句を言っている。


 あの男はもしや四天王のラーケットって奴じゃ。以前にも見たので恐らくそうだ。


 黒影のラーケット、噂ではとんでもない実力者らしい。

 四天王のリーダーにして現魔王。


 邪神に次ぐナンバーツー。


「二人とも分かっているな。レイン様は説得をお望みだ。前回のような話もまともにできず戦闘に突入など許されん」

「誠心誠意謝れば退いてくれるかもよ。アタイにあんたの無様な姿見せてほしいじゃん」

「くっ……二度は失敗しないわ」


 先に飛び降りたのはラーケットとアスファルツ。

 僕らは武器を構える。


「蜜月組には用はないじゃん。アタイらの相手は……そこの男とジジイ」

「俺っちとやりあおうってか」

「ふぅ、また儂を年寄り扱いするか」

「満足するまでヤリ合おうじゃん♡」


 一方のラーケットはクラリスへ意識を向けていた。


「そこの女は僕が相手する。エルフを性転換した経験がないのでなかなかこれは、滾る。遠距離を得意とした点でも、僕との相性は良い」

「はっ、性転換なんて――してみたいものですね。男になればお姉様との熱い夜が」

「もし負けたら貴方とは二度と会いません」


 氷のように冷たい空気を漂わせ、アマネが釘を刺す。

 クラリスはみるみる青ざめ「そんな」と怯える兎のようにぷるぷる震える。


 ウォーレンは兵士を下がらせ護りを固めるように指示を出す。


 僕らを残して、彼らの戦いが開始された。





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