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72話 剣聖と竜騎士の落ちて行く日々14


 身体を起こし頭を掻く。


 妙に肉体が重くけだるい。

 まるで何年も寝っていてついさっき起きた感じだ。

 頭もいまいちすっきりしない。


 ここは……どこかの部屋か。

 物は一切なく石の冷たい無機質な室内。


 立ち上がって身体をほぐす。


「いつっ、首がなんだか痛ぇな」


 身体をまさぐるが衣類はなかった。


 全裸だ。武器もない。


 どこなんだここ。

 つーか、ここに来るまで俺は何してた。

 直前の記憶、思い出せ。


 邪神にアキト達を戦いから離脱させろと命令されて……そうだ、俺はウォーレンのジジイにぶん殴られたんだ! 


「起きたのね」

「……ジュリエッタ」

「これ、新しい装備よ。武器はそのまま」


 ジュリエッタに服やら防具を放り投げられる。

 慌てて受け止めた。


 なんだその態度。

 俺はてめぇの旦那だぞ。


 イラッとしつつ服を身につける。


 これ、もしかしてブラジャーかよ。


 俺が付けるのか。

 冗談じゃない、男の俺がブラなんて。

 脱がすことはあっても付ける事なんてあり得ない。


 ブラジャーを部屋の隅に投げ捨てる。


 防具を着けて槍を握った。


「竜騎士にしちゃ、ダークなデザインだな。悪くねぇ」


 新しい防具は濃い紫色をしていた。

 ただ、布面積が少なくて胸の辺りはさらけ出されてるし、背中なんかぱっくり開いている。屈辱的な姿だ。


 ジュリエッタもダークな防具を身につけ壁に背を預けている。


「どこまで覚えてる?」

「ウォーレンにぶん殴られたところまでは」

「貴方は死んだわ。それも即死」

「はぁ? こうして生きてるだろうが」

「レインの禁忌の術でそうフリをしてるだけ。貴方はライの記憶を持った死人なのよ」


 何を言ってんのか全く分からねぇ。

 話が脳みそまで届いてこねぇ感じだ。


 俺が死んだだと。

 すこぶるつまらねぇ冗談だ。


 こうして痛みもあるし熱も寒さも感じる。

 どこが死人だ。

 ふざけてんのなら殴るぞ。


「目覚めたか、ライ」

「ゴラリオス!」


 灼熱のゴラリオスが入室し、俺は飛びかかって胸ぐらを掴んだ。


「死んだってどういうことだ!」

「事実だ。貴様はあの時完全に死亡した。そうやって動けるのはレイン様が施した死霊の術のおかげだ」

「じゃあ、俺は死んで……」

「生前と同じく感覚はあるだろうが、実際には疑似的に生命活動を続けている。ジュリエッタの伝えたとおり生きているフリをしている」


 いやだぁぁぁあああ! 死にたくないっ!

 俺はまだやりたいことが沢山あるんだ! 


 女だって満足に抱いてないし、腐るほどの大金だって稼いでない。

 地位も名誉もまだこの手に掴んでいない。


 なんだよこれ、これが俺の行き着いた末路なのか。


 間違いだった。

 ジュリエッタに手を出したのは大きな選択ミスだった。

 アキトを殺すように仕向けたのも。


 このパーティーに入ってはいけなかった。


 まだマシな未来があったはずだ。

 かつてないほど絶望している。


「うぎっ!?」


 ジュリエッタに蹴り飛ばされ痛みに悶絶する。

 見下ろす目は恐ろしく冷たい。


「ほんとついて行く相手を間違えたわ。今さらながらに激しく後悔してる」


 ぐりりっ。かかとが腹部に落とされ、ひねるようにねじ込まれる。


「高身長で顔も良くクラスが高くて将来有望、夜の方も上手だから、理想の男だと思ったのよ。英雄同士の結婚ともなれば国中が歓迎してくれるはずだった。多少落ち目になったって、どうにかできると僅かばかりに期待があったからよ」

「いぎぃ、ふざけんなてめぇ」

「はぁ? こっちの台詞でしょ。あんたについて行くほどドツボにはまってるわ。今じゃ性別も変えられ、こんな風にした当の本人も死んだ。もうゴミ屑に当たり散らすしかないでしょ」

「俺は、まだ生きてる……」

「死んでんだよっ! くそが!」


 強烈な蹴りが脇腹にめり込んだ。


 ゴラリオスは見ているだけで止めようともしない。

 つーか、どう間に入っていいのか分からなくてオロオロしている。


 俺はジュリエッタの罵声に何も言えずにいた。


 初めてだった。堕とした女にここまでボロカスにされるのは。


 プライドが傷ついたとかそんなレベルじゃない。

 粉砕だ。弾け飛んで頭が真っ白。


 落ち着いたのかジュリエッタの態度が軟化した。


「貴方には私を助ける義務があるでしょ。あんたは死んだけど、私はまだ生きてるの。アキトを説得し性別を元に戻して貰って……そうね、身につけたテクニックで彼に取り入るのも悪い手じゃないわ」


 もういい。好きにしろよ。


 俺は、アキトの幸せさえぶち壊せればそれで満足だ。

 俺が幸せになれねぇならあいつも道連れだ。


 もうそれだけが存在理由なんだ。


「ところで、ねぇライ」


 ジュリエッタが顎先を撫でる。

 そして、その指を下へ滑らせた。


 その目は欲に飢えた獣のようだ。悪寒が走る。


「前々から男の快感って知りたかったの」

「い、いや、それだけは」

「オホン、我はしばし退室する」


 ゴラリオスが慌てて部屋を出る。


 やめてくれ、尊厳も奪うのか。


 ひぎゃぁぁあああああああああああああっ!!



 ◇



 四天王が集まる一室。

 彼らはテーブルに地図を広げ作戦会議だ。


「いやぁ、負けちゃった~。蜜月組強いってのなんの」


 薄汚れたミッチャンが「たはは」と苦笑している。


 大敗を喫した者の態度ではない。

 しかし、他の四天王は気にした様子もなくそれぞれ寛いでいる。


「次は我の番だな。強者との死闘、血肉沸き立つとはこのことか!」

「あんたはここでお留守番じゃん」

「なんだとぉ! そろそろ我も戦わせろ!」

「あのさぁ、癪だけどあんたがこの中で一番強いの。誰がレイン様とこの城守んのよ。馬鹿なの? 童貞なの? 両方該当してたわ」


 アスファルツとゴラリオスが口げんかを始める。

 ラーケットは沈黙を続けていた。


「もう一度、君達にアキトの元へ向かってもらう」


 どこからともなく姿を現した邪神レイン。

 四人はその場で立ち上がり敬礼する。


「楽になりたまへ。この戦いはヒューマン根絶の第一歩だ。失敗は許されない。故に全ての不安要素は取り除かねば」

「失礼を承知で質問させていただきます。例のパーティーとはそれほどの者達なのでしょうか。僕にはそうは思えないのですが」


 ラーケットが着席するなり発言する。


 レインはまるで我が子を見るように微笑み頷く。


「正確には彼――アキトが問題だ。今は記憶も含めた全てを奥底に封じているが、それが何かの拍子に目覚めでもすれば……魔族は再び敗北する。彼にはこの件に関わって貰いたくない。できれば幸せなまま寿命を全うして貰いたい」

「そこまでの、ならばその二人の任務は最重要と考えてよろしいですね?」


 全員の視線が、俺とジュリエッタに集まる。


 未だに居心地が悪いが、反対にジュリエッタは当たり前のような顔をして受け止めている。

 すっかり魔族側に染まってしまったらしい。噂ではアスファルツに気に入られ、今は彼女の部屋で寝泊まりしているとか。


 俺はジュリエッタの都合の良い玩具だ。

 立場が完全に入れ替わっちまった。


「彼らには僕とアスファルツが同行する。ゴラリオスとミッチャンは防衛戦力としてここに残れ」

「アタイと旦那かい。ま、別に良いけど」


 俺は静かに拳を握る。

 またあいつと……。


 レインが靴音を鳴らし近づく。


「今度こそ、ちゃんと説得するんだよ。その為に君をわざわざ蘇らせた」

「俺は……本物の、ライなのか?」

「何をもって本物と偽物を区別するのかは君の自由。だが、この仕事をやり遂げなければどのみち行き着く先は変わらない」

「失敗すれば死」

「そういうことだ。これを最後のチャンスと思いたまえ」


 最後、最後ってなんだよ。

 もう本当の俺は死んだ。


 ここにいるのは動くむくろだ。


 ……何もかも道連れにして消えてやる。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 死んだけど死んだフリ??分かったような分からぬような存在になったライ、今だ女性体のままか。 そしてジュリエッタのライ凌辱回がやっぱりキター!見事に予想を裏切りません!w…
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