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65話 僕らはドワーフの村へ行く


 ウォーレンの案内により、エダンとムスペルダムの国境へと向かう。


 彼の故郷は森の奥まった場所にあるそうだ。

 そこでは大きな争いもなくドワーフたちが質素で穏やかな暮らしをしている、とか。


 ウォーレンの操る幌馬車は森の小道を抜け、しばらくして蔦に覆われた大きな壁の前で停車する。


 僕らは不思議に思い荷台から先を覗く。


 その壁は人工物のようで、葉の間からつるりとした壁面が確認できる。

 一見すると大きな岩山のようだが、どうも巨大な建築物のようだ。もしや遺跡だろうか。


「あったあった。行くぞ」

「え? 壁だけど?」

「村の入り口は隠されているのだ。まぁ見ていろ」


 馬車はゆっくり動き出し、馬は垂れ下がる蔦を押し退け壁の先にある穴へと入った。


 蔦の向こうは薄暗い空間が広がっている。

 地面はやや下方に傾いており、馬車は凹凸の少ない人工的な道を延々と下っていた。


「地下に向かってる?」

「アキト、もしかしてここ」

「うん」


 地下空間を記した地図を取り出し確認する。


 ここがそうかは不明だが、位置的にはこの辺りに地下空間はあるようだ。

 馬車が穴を抜け、光に満ちた広い空間へと出る。


「おおおおっ!」

「最初に来た人間は大体そうやって驚く」


 奈落と同じ巨大な地下空間があった。

 天井からは陽光に似た柔らかい光が降り注ぎ、遠くまでなだらかな地形の草原が続いていた。


 だが、それらよりも目をひくのは、大地に突き刺さる無数の巨大な船。


 失われし技術によって建造された古代の船が積み重なって朽ちている。


 スケールの違いから遠近感が狂いそうだ。


「もう動かないなの?」


 エミリが船を見ながら質問する。


「さぁな。しかし、剣や斧を造るのに良い素材にはなっているぞ」

「あそこに人が。金属板をはがしているようです」


 船の上部で複数のドワーフがロープにぶら下がり、船の表面を火の出る小さな道具で切断していた。

 その真下では、大型亜竜の引く馬車の荷台に金属片を大量に載せている。


「おもしろーい、なの! 後で船の中を探検するなの!」

「外から眺める分には良いが、中に入るのはやめておいた方がいい。古代船の中は魔物の巣になってて、おまけに恐ろしく複雑に入り組んでいる。大人でも迷子になるくらいだ」

「ふーん、なの。船の中には遺物はないなの?」

「貴重な遺物もたまに見つかるが、多くの場合そういう場所は手強い魔物の巣だったりする。嬢ちゃん人食いの芋虫は得意か?」

「やめておくなの」


 好奇心全開だったエミリが、すんっと真顔になってあっさり諦めた。

 その方が賢明だ。僕も虫系の魔物は苦手だし。


 草むらでホーンラビットが駆ける。


 どう見てもボーナス系ではなく普通の魔物だ。

 アマネにそっと耳打ちする。


「ボーナス系はいないみたいだね」

「かつていたのか、それとも奈落とは環境そのものが違うのか、少なくとも移住候補には不適当ですね」


 一時間ほど経過した頃に、遠くに建造物群が見え始めた。


「見えたぞ。あれが儂の故郷だ」

「思ったよりも普通なの」


 馬車はそのまま村へと入る。


「あ、ウォーレンだ!」

「お帰りなさい!」

「みんなー、村の英雄が戻ってきたぞー!」


 村民はウォーレンを見るなり歓喜した様子。

 特に子供達はキラキラした目で彼をまっすぐに見ていた。


 同行しているだけの僕らにも同じような視線を向けられるのを感じる。なんだか恥ずかしいな。


「すごい人気ですね」

「うん。きっとウォーレンさんはこの村の自慢なんだよ」


 アマネと荷台から外を覗きつつ微笑む。


 馬車は村の中心部を抜け、それから広い畑に囲まれた一軒家に到着した。


 恐らく彼の家なのだろう。

 ウォーレンは敷地に馬車を停車させ飛び降りる。


「ここからは歩きだ」

「そろそろ何を見せたいのか教えてくれないかな」

「……現在ある武術流派にはそれぞれ有名な開祖が存在する。剣も槍も盾に至るまで、優れた知識と技を継承し、今の英雄に脈々と受け継がれている。しかし、それ以前にも源流のようなものはあったのだ」


 それはつまり開祖の作りだした技は、完全なオリジナルじゃないってこと?


 源流に存在する技を改良し、洗練させたのが今の流派だと。


 でも、そんなのよくあることじゃないか。


 他流派でもクルナグルに似た技はある。

 誰かが真似て改良することで武術は進歩しているのだ。


 だが、ウォーレンさんの言いたいことはそれではないようだ。


「それら全ての源流は、一人の人物によってもたらされたとされている。儂はその者を始祖や武神と呼んでいる」

「たった一人で全ての技を編み出したってこと!?」

「驚くのも無理はない。なにせこの事実は忘却の彼方に消え失せ、知る者は今では非常に少ない」


 ウォーレンは村から離れた位置にある森に案内する。


 そこでは分厚く高い石版が、一つの石像を中心にぐるりと囲むように設置されていた。

 石版にこびりついた泥と苔を手で払い、ウォーレンは振り返る。


「武神の名はアガト。とは言っても名前の一部が削れていて、それが正しい名前なのかは分からん。彼こそ全ての武術の流れを創った者だ」


 彼の視線の先には男性の石像が。


 六十代、七十代だろうか……種族はヒューマンのようで、フード付きマントを羽織っている。

 腰には双剣を帯びていて、そのデザインはどう見てもS級遺物の聖剣マスティアだ。


 つまり僕の持っている聖剣。


「彼を見て気づくことはないか」

「この方、ずいぶんとアキトに似てますね」


 え? そう?

 ぜんぜん似てないと思うけど。


「パパにそっくりなの。パパ!」

「僕はこっちだけど」


 エミリが石像にひしっと抱きつく。


 しかし、いまいち彼が僕を連れて来た理由が腑に落ちない。


「儂は今の君を見て、真っ先に彼を思い出した。それで連れて来たわけだが、確証はないが彼は君のご先祖様じゃないのか」

「僕の?」


 改めて石像を観察する。


 僕は遺物の中で眠っていた。

 つまり本当の親も兄弟も知らないわけだ。


 もしかすると彼こそが僕の血の繋がった家族だったのかもしれない。


 もちろん可能性の話だが。

 もし本当にそうならもう少し才能を分けて貰いたかった。


 奈落の底に行き着くまでずいぶんと苦労したのだ。


 ウォーレンさんはいきなり話を変える。


「邪神を封じた伝説は聞いたことは?」

「各種族の英雄が遺物である五つのオーブを使って封印したと」

「一般的にはそうだ。しかし、真実はそれだけではない」


 彼は別の石版を指し示す。

 僕は表面の汚れを手で払い落とし刻まれた文字を読み上げる。


「集結し各種族の戦士、偉大なる武神の導きにより邪神と対峙す、長き戦いの末にこれを倒し、五つの古の宝玉にて力を奪い眠りにつかせた……」


 武神が邪神討伐に関わっていたのは間違いないようだ。


 だとすれば想像しているよりも何倍も厳しい戦いになるかもしれない。

 すでにオーブもなく、武神もいないのだ。


「武神とは何者なのでしょうか」

「古代人の生き残りだったのかもしれん。少なくとも邪神と敵対していたのは確実」


 脳裏に僕ではない僕の記憶がよぎる。


 ――レインと親しげな様子だった。


 いや、まさかな。

 遺物から発見された時、僕は赤ん坊だったんだ。


 じゃあこの記憶は誰のものなんだ。


 邪神に聞けばはっきりするのだろうか。


「今日はありがとう。ご先祖様を知られて嬉しかったよ」

「儂は期待しているのだ。武神の子孫である君なら、邪神を本当の意味で倒せるかもしれないと」

「できるかどうか分からないけど、ビルナスの英雄として精一杯頑張るよ」

「そうだ、せっかく来てくれたんだ。母の手料理を振る舞ってやろう。母の芋虫スープは絶品なんだぞ」


 僕らの顔から感情が消える。


 あ、そろそろ時間だ。

 急いで街に戻らないと。


「冗談だ、儂を無視するな」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 ドワーフの里も奈落だったか。武神アガト、どう見ても彼本人では。武神が邪神を殺さず封印したのも親友だったから?それ故に未だに彼を愛し続けるレイン。色々と図式が見えてきまし…
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