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61話 僕の決意


 国王陛下は咳をして注視するように促す。


「さて、蜜月組を呼び出したのは他でもない、貴殿らには我が国の英雄となってもらいたいのだ」

「理由を聞いても?」

「すでに察しておるかもしれぬが、我が国には邪神率いる魔族に対抗する術が圧倒的に欠けておる。それでもなんとか剣聖ジュリエッタを置くことでカバーしていたが、此度の件により対抗手段は再び失われてしまった」


 謁見の間に二つの武具が運び込まれる。


 それは純白の剣と槍。

 神々しい外見に僕らは目を奪われた。


「もう間もなく邪神との大きな戦が始まるだろう。各国もそれに向かって動いておる。故に蜜月組には我が国の未来を背負って戦ってもらいたい。もはや他におらぬのだ。そして、余は貴殿らこそが真の英雄であると確信しておる」

「僕らが英雄に……」


 僕とアマネは見合わせた。


 陛下の申し出、断る理由はないが受ける理由もない。


 そもそも僕は地上のしがらみが嫌で地下に身を置くことにしたのだ。

 英雄なんて引き受ければ、僕もアマネも地下へ戻れなくなる。


 シリカ王女とヒュメル王子が言葉を挟む。


「お父様、ただ頼むだけではいけません。これまでのことをよく思い出してください。アキト様は名を伏せるほど目立つのを嫌われる御方、まずはこちらから気持ちを形にしなければ」

「その通りだ父上。ここはビルナス王として大きくメリットを提示せねば。私を救ってくれた事実も含めて」

「うむ、二人の申すことはもっともな話だ。ではアキトよ、貴殿の欲するものを余に教えよ。邪神討伐の暁にはそれを用意させようではないか」


 激しく戸惑い、アマネと視線を交わす。


 欲しい物なんて全くないのだが。

 僕にはアマネとエミリと、それからナジュ村さえあれば……。


 そこで僕は求めるものに気がつく。


「奈落を中心とした一帯を僕にください」

「ほぅ、土地を所望するか。ならば爵位も与えねばな」

「いいえ、僕が欲しいのは人のいない土地です。領地が欲しいわけじゃない。僕だけの土地が欲しいだけなんです」


 謁見の間がざわついた。


 領地経営をするつもりがない、爵位も求めない、それはつまり国王へ忠誠を誓うつもりもないということ。

 国から独立した土地を僕は求めていた。


 陛下は目を閉じてしばらく考え込むと、髭をひと撫でしてから神妙な面持ちで返事をした。


「土地のみを欲するとは。しかし、奈落一帯はたいして作物も育たぬ比較的乾いた大地だが良いのか」

「僕はあの地で本当の自分を見つけました。故に旅の後は、あそこで誰にも会わず静かに暮らそうと考えているのです」

「ふむ、なるほど。転機となった地で余生を過ごしたいと申すか。ならば邪神討ちし後は、貴殿に奈落を含めた一帯を譲るとする。もちろん約束したからには英雄となってもらうが良いな?」

「はい」


 陛下は土地の譲渡を認めた。

 これで奈落の秘密は僕が生きている間、守られることとなる。


 正直なところ邪神には聞きたいこともあったし、このまま無関係を装って放置するのもどうかと思っていたところだ。


 なにより地上には守りたい人達がいる。

 旅をしてその気持ちはより強くなったと思う。


 少し残念に感じるのはジュリエッタのことかな。


 僕は幼なじみとして、雄々しく高潔に剣を掲げる彼女を期待していたのだが。


 今さら言っても仕方ないよね、僕が代わりにその役目を担わなくては。


「では、アキトとアマネよ。そこにあるS級遺物を手に取るのだ。試練を受けることを心の中で念じよ。さすれば遺物は邪神と戦う力を授けてくれるだろう」

「あの、僕にはナナミが造ってくれた双剣がありまして……」

「ダメッスよ! そう言ってくれるのは嬉しいけど、生きて戻るにはウチの武器じゃダメっす! 相手は邪神、確実に勝つには普通の武器じゃダメなんすよ!」


 ナナミが遺物をとれと叫ぶ。


 そこで僕はレインとの戦闘を振り返る。

 今のままでは奴に勝つことはできない。


 もっと強力な武器、S級遺物のような桁外れの性能を秘めた武器でなければ対等にすらなれない。


 ナナミの言う通りだ。僕は何を甘いことを考えていたのだろうか。


「ナナミの武器はしばらくお休みだね」

「ええ、私の槍もですね」


 僕とアマネはほぼ同時に、S級遺物を握った。

 聖剣マスティア、試練を与えよ。僕に力を与えよ。


 どこからか声が聞こえる。


『コード読み込み開始。適合99%。所有者と認証。登録固有形態へ変化開始』


 剣から眩い光が放たれ、剣は双剣へと変化した。


 陛下が玉座から飛び跳ねて驚愕する。


「な、なんと、聖剣が変化しただと!?」


 アマネも聖竜槍レイバーンに認められ、目もくらむような輝きに包まれる。

 二名の所有者に謁見の間は歓声に満ちた。


「パパとママなのだから当然なの! 王様、エミリの杖はないの!? エミリもS級遺物が欲しいなの!」

「二つの所持者が出た今、我が国の遺物は一つしかない。お嬢ちゃんに斧は扱えぬであろう?」

「う゛~、なの」

「その代わりと言ってはなんだが、宝物庫にある強力な杖を貸し与えよう」

「宝物庫の杖~?」


 不満そうな顔をしつつ、エミリのはねっ毛は興味津々にぴょこぴょこしていた。


 こら、陛下に失礼な態度をとらない。

 不敬罪で死刑にされてもおかしくないんだぞ。


 運び込まれた杖はエミリが使うには少々長い代物だった。


「その杖は数千年生きたとされる、トレントの枝を使用して造られた非常に価値のある杖である。魔法威力が跳ね上がるだけでなく、それ自体を武器に使えるほど頑丈だそうだ。大切に使いなさい」

「ありがとうございますなの」


 トレントと言えばよく知られた植物系の魔物。

 僕は出会った事はないけど、聞くだけでもすごい代物であることは理解できる。


「遺物に認められし英雄よ。さっそくではあるが、貴殿らにはこれからエルフの国家エダンへと向かってもらうこととなる。そこで各国の戦力が集まり、対邪神に向けた最後の作戦会議が行われる予定だ」

「参加は僕らだけでしょうか」

「会議にはシリカを主とし貴殿らにも顔を出して貰う。これは我が国の威信が関わっておる。心配はしておらぬが、くれぐれも悪評がたつような行動は避けるように」


 先の英雄ジュリエッタとライの二名を思い出しているのだろう。


 あの二人が原因でビルナスは内外共に驚くほど評判を落としたのだ。

 ここで再び僕らがしでかしてしまえば、この国は苦しい立場に立たされてしまう。


「さっそく旅立つ準備をさせていただきます」


 僕らは陛下に一礼し、宮殿を後にした。



 ◇



 騒がしい酒場で僕はエールを一気に飲み干した。


 この場にいるのは僕を含めた蜜月組のメンバーに、マオス率いる闘月組と、ナナミとアイラとエマだ。


「おめでとうっす! 友達が英雄になるなんて鼻が高いっすよ!」

「あのアキトが剣皇になってたなんて、私達本当に男の見る目がなかったのねウホッ」

「……そ、そうだなブヒッ」


 カスタード――アイラは相変わらず包帯を巻いて顔を隠していた。

 雰囲気もおどおどしてて以前とは別人のようだ。


「あの、アキト、あの日……ごめん」


 アイラが謝罪を口にする。

 同様にエマも表情を曇らせて頭を下げた。


「アタシ達は色々間違ってたブヒ。アタシを罰したいなら喜んで受け入れるつもりブヒ」

「そうね。私達はアキトに殺されても文句は言えない立場ウホ。ジュリエッタの件だって……もう少し賢ければあんなことには」


 二人の言葉に僕は首を横に振る。


「僕は、あれで良かったと考えてる。僕も彼女もたまたま生まれ育った場所が同じだっただけで、最初から進むべき道は交わってなかったんだ。だからもう自分を責めないで欲しい」


 ジュリエッタが好きだったことは変わらない。


 けれど、あの出来事があったからこそアマネと出会いナジュの人達と出会えた。

 今の僕があるのはあの日があったからだ。


 二人は罪を受け止め謝罪をしてくれた。それだけで僕には充分だ。


「アマネも二人を許してあげて」

「はい。旦那様がそう言うのでしたら……ですが、次に彼を悲しませるようなことをすれば、この世から消しますからね?」


 一番近くで僕を見ていたアマネは、僕以上に二人に怒っていた。

 笑顔で放たれる黒い殺気に二人だけでなく、酒場にいるほぼ全員が青ざめた顔で震える。


 ア、アマネさん? すごく怖いんですけど?


 茹でた海老をもしゃもしゃするエミリは、はねっ毛をぴょこぴょこさせる。


「お祝いなの。楽しくお食事するなの」

「ふふ、そうでしたね」

「エマにやる、なの。元気出せなの」

「ウホッ!?」


 エマの皿に食べかけの海老を放り置く。

 エミリなりの励ましなのだろうけど、あまりに雑で噴き出してしまった。


 二人と和解できたことで、僕は心のつかえがとれたようだった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 あれ程面倒臭がってた英雄業を引き受けることに!銀兎部族を守るため条件に奈落の土地を要求か、考えたものよ。 [気になる点] 聖剣マスティア、所有者と認定しているという事は…
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