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51話 僕は武道大会に出場する8


 アマネの三戦目。

 対戦相手は英雄クラリス。


「貴方は、あの道化師さんと同じパーティーの方ですね。どうぞお手柔らかに」

「こちらこそよろしくお願いいたします」


 クラリスとアマネは一礼する。


 僕はエミリと観客席から試合の様子を見守る。

 アマネなら勝つと信じているけど、やっぱり相手が相手だし不安だ。


「ところで……あの方はご結婚は?」

「質問を質問で返すようですが、あの方とは?」

「もちろんウォーレン様を倒された方です。あの本能揺さぶる戦い振り、とても心が揺れました。興奮のあまり控え室で自らを慰めるほどに」

「彼は私の夫です」

「あらそう、それは非常に残念。すでにお相手がいたとは」


 クラリスは「貴方を倒せば、小生に意識が向くかしら♡」と薄ら笑みを浮かべる。


 試合が開始されると同時に、クラリスは銃を抜き、アマネはその場から横へと飛び退いた。


 無数の弾丸が舞台上を跳ねる。

 アマネは後方へとジグザグに回避行動をとった。


「ほらほら、反撃しないと負けてしまいますよ♡ 小生を濡れ濡れになるほど楽しませてください♡」

「厄介な武器」


 アマネはクラリスの様子を窺っている。


 相手が近距離対策をしていないと思えない。

 迂闊に近づけば蜂の巣だ。


 隙を突くしかない。


「相手の想定を超えることで隙を作らせる、戦いの基本でしたね」

「小生にそんなものないわ。あのウォーレンのように鉄壁でもない限り、近づくこともできません♡」

「鉄壁なら私にもあります」


 槍が弾丸を弾いた。

 クラリスは反射的に銃で顔を隠し、弾丸を防ぐ。


「……まぐれ、ですよね?」

「だといいですね」


 戦いが再開、アマネは弾丸の雨を全てクラリスへと弾き返した。


「きゃぁぁああああっ! ちょ、反則ですよ!?」

「私はもらったものをお返ししているだけです。私の大切な旦那様にちょっかいを出そうとするのは許せません」


 クラリスが転んだところで、アマネが矛先を床に突き立てる。

 にこりと微笑むと、クラリスはなぜか顔を赤らめた。


「――こんなの初めて。素敵です」

「え゛」

「結ばれるなら強い殿方と思っておりましたが、考えてみれば性別にこだわる必要はありませんでした♡」


 アマネが後ずさりする。


 立ち上がったクラリスは目がハートマークだ。


「小生はよく勘違いをされるんです。サディストだとかドSだとか、こんなにもドMだというのに♡」

「ふぇ……近づかないでください」

「はぁはぁ、たまんないです。お姉さまのその顔♡ もっといじめてください♡」

「審判さん、早く判定を!」

「お、おお……しかし、クラリス様はまだ続行可能のようだが」


 じりじりクラリスが近づく。


 アマネは審判の背後に隠れ盾とした。


「クラリス様、戦闘は可能でしょうか?」

「……可能と言いたいところですが、攻撃をあんなにも完璧に防がれては続けようがないですね。仕方ありません。小生の負けです」


 審判はアマネの勝利とした。



 ◇



「おねーさまー♡」

「助けてくださいアキト!」


 観客席へ戻ってきたアマネは、僕の背後へと身を隠す。

 予想通りクラリスは、うきうきした足取りで猛追跡をしていたようだ。


 ウチの奥さんは変なのに好かれたらしい。


「そこを退いてください。小生はお姉さまと愛を育むのです」

「えーっと、ウチの奥さんが困っているんだけど」

「今はそうでしょう。ですけど、この苦難を乗り越えることでお姉さまと小生の愛は永遠となるのです」

「この人、話が通じないなの」


 そうだね、通じてないね。

 涎とか出てるし。


 クラリスはハッとする。


「名案! 第二夫人になれば三人で!」

「ダメです!」

「そんな~、お姉さま~」


 しょんぼりする。


 そこへクラリスの仲間と思わしき三人の男女が走ってきた。

 彼女を羽交い締めにし、足を持ち上げてしまう。


「放しなさい! 小生はお姉様と!」

「ご迷惑をおかけしました。おい、クラリス様を連れて至急帰国するぞ」

「「了解」」

「おねーさまー!!」


 クラリスは暴れながらこの場から消えた。





 準決勝――四回戦目が開始される。

 対戦相手はエミリ。


 紙袋に白い布、なんとも怪しい外見だ。


「わかってるね?」

「うん、なの」


 審判が開始を告げる。


 直後にエミリはコテン、と床に倒れた。


「見えない攻撃でやられたなの~、しぬ~、これはもう負けを認めるしかないなの~」


 ちらっ、エミリは審判を窺う。

 とんだ茶番劇ではあるが、家族で戦うわけにもいかないし、この方法しかなかった。


 辞退って手もあったけど、今回は辞退者が多すぎて大会側から選手へ注意がされたのである。


 『準決勝より、辞退を行った者には罰金を徴収する』


 観客からお金をもらっている大会運営側としては、つまらない試合は避けたい。

 特に準決勝、決勝は盛り上がるところだ。


 そこで思いついたのがこの苦肉の策。


「もうしぬ~」

「足を掴むんじゃない。わかったから、もう戦えないことは」


 足を掴まれた審判は渋々僕を勝者とした。



 ◇



 もう一方の準決勝。

 アマネと団長の戦いだ。


「想定していた以上だよ、あんたら。一位から三位まで独占確実なんてね」

「これでお子さんも助かりますね」

「感謝してもしきれないよ。ただ、こうなると優勝の座は譲れないねぇ。助力を頼んだ手前、申し訳なく思っちゃいるが、やっぱり我が子は自分の手で救ってやりたい。最強の称号ってのもパーティーのリーダーとしちゃ魅力的だ」

「そうなりますよね。私達はあくまでも仮のメンバーですから」

「ここまで付き合ってくれたメンバーを有名にしてやりたいからね」


 アマネと団長が武器を構える。


 僕はエミリと観客席から固唾をのんで見守っていた。


 戦いが始まり、槍と大鎌がぶつかり合う。

 耳をつんざくような金属音から戦いの激しさを感じ取れる。


 二人は舞台全体を使って移動と攻撃を繰り返した。


 観客はこれが見たかったとばかりに歓声をあげ、両者を応援する。


 なんだか申し訳ないな。

 僕もあれくらいの戦いを見せれば良かったんだけど。


 娘には刃を向けられないし、やれたとしてもどっちも本気になって会場が吹き飛ぶことになる。


 しかし、団長が強いってことは理解しているつもりだったけど、アマネと対等にやり合える腕前だったのには驚いた。

 もしかして鎌系のレアクラスかな?


「あんた、手を抜いてるね」

「分かってしまいますか……実はここで勝ってしまうと、アキトと決勝で戦うことになってしまいます。私はたとえ試合だとしても旦那様に刃を向けたくありません」

「わざと負けようってのかい」

「ほどほどのところで」


 大鎌がアマネを弾き飛ばす。


「空中じゃあ避けられないだろ」


 団長は左手から炎を吹いた。


 へぇ、炎魔法を習得しているのか。

 団長はほんと器用だな。


 でも、アマネには効かない。


 直撃を受ける前に、アマネは空中で真横に避けて見せた。


 ふわりと滑るように床に足を付けた彼女を、団長は驚いた顔で眺める。


「嘘だよね。あんた空も飛べるのかい」

「飛ぶ、というほどではありません。落下速度をこの遺物で緩やかにしているだけです」

「そんな遺物聞いたことがない。まったくあんたらどこまでぶっとんでんだい」

「すいません」

「謝らなくていいよ。じゃ、に飛びな」


 団長は大鎌を横薙に振る。

 刃を槍の柄で防いだものの、衝撃を逃がしきれずアマネは場外へと弾き飛ばされた。


「なんだか、すっきりしないねぇ」


 勝者の団長は苦笑していた。


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