48話 剣聖と竜騎士の落ちて行く日々10
翌日、俺は実に良い気分で会場へと着いた。
昨夜は楽しみすぎたぜ。
隣にいるジュリエッタが、俺の顔色を窺いながらビクビクしている。
はははっ、仮面を付けているんだぜ。いくら見ても分かんねぇだろ。
だが、その恐怖に染まった顔は最高だ。これからも夫婦仲良くこの素晴らしい上下関係を維持していこうじゃないか。
ジュリエッタが審判に呼ばれる。
「負ければお仕置きだ」
「は、はい、ビッチ……」
「行け」
ジュリエッタの背中を押す。
対戦相手はエダンの英雄クラリス。
エダンはエルフの国だ。
クラリスもガラス細工のような儚げな美少女エルフ。
歳は18くらいか。好みからは少し外れているが、あれはあれで美味そうだ。
俺は出てくる涎を腕で拭う。
ゴラリオスの呪いを受けてから妙な昂揚感がある。
それでいて、今までの自分が嘘だったかのような開放感があった。
今なら何でもできる気がする。
あのレインとかいう野郎も、ゴラリオスも、残りの四天王どもも殺せそうだ。
この大会が終わったら騎竜を探しに行こう。
今の俺なら歴史に残るような竜を手に入れられるはずだ。
やはり俺こそが最強。地位も名誉も金も女も全て奪う。
「小生はクラリスと申します。お初にお目にかかります。ビルナスの剣聖」
「え、ええ、よろしくビッチ」
「……ビッチ?」
ジュリエッタの語尾に、クラリスがぴくりと反応する。
「もしや小生に無礼がございましたか?」
「違うの! これは呪いで、ビッチ!」
「ふふ、ふふふふ、いいでしょう。英雄同士仲良くしようと考えた小生が愚かでした。お望み通り徹底的にやりましょう」
ドレス姿のクラリスは、腰から二つの筒を抜く。
あれはまさか銃ってやつか。
希にだが遺跡から出土するレアな遺物。
「これはS級遺物・聖星銃ソフルデッド、魔力を弾丸として射出する我が国において最強の武器」
「遠距離武器……」
「さ、英雄らしく勇敢な姿をお見せください♡」
試合が開始される。
初手はジュリエッタ。
一気に距離を詰め、斜め上方から斬り下ろす。
「弱」
上体を反らしたのみで躱したクラリスは、超至近距離から腹部へ弾丸を放った。
「ぐぼっ!?」
ジュリエッタは弾き飛ばされ、床を無様に転がる。
「殺傷力を最低に落とした弾丸でも骨に響くほど痛いでしょう? 一般人ならあれだけで一、二本砕けますが、ジュリエッタさんは剣聖ですから問題ないだろうと存じますが……」
「このくらいで、まだやれるビッチ」
ジュリエッタはなんとか立ち上がる。
クラリスの笑みが下卑たものへと変わった。
「その懸命に立ち上がろうとする勇敢なお姿、さすが剣聖、さすが英雄、小生は興奮のあまりゾクゾクして濡れてきました♡」
「いぎっ!?」
「あ、ごめんなさい。つい脚を撃ってしまいました♡」
あのクラリスって女、サディストか。
可愛らしい顔して性格ねじ曲がってやがる。
俺とは相性が悪いな。抱くのはなしだ。
「くっ……卑怯ビッチ」
「何をおっしゃいますか。大会の規定通り、小生は遺物の真の力は出しておりません。それにしても本当に剣聖ですか? これではあまりにも――お粗末すぎません?」
その言葉がジュリエッタを立たせる。
「私は剣聖、ビルナスの英雄、あんなド田舎で地味に生きていた頃の私とは違うビッチ」
「なんですかそれ」
「どうせ生まれながらのお嬢様で、蝶や花やとちやほやされて生きてきたんでしょ。私は違うビッチ。冴えない幼なじみと冴えない人生を送るなんてまっぴら。有名になって望むがままの華やかで幸せな人生を手に入れるビッチ」
「……期待外れ、でしたか。英雄らしい矜恃を持った方だと思っていたのですが」
クラリスが弾丸を放つ。
しかし、先読みしていたジュリエッタが射線上を外れ、ジグザグに移動しながら再び距離を詰める。
弾丸は床に当たり跳弾した。
「そうそう、この程度で終わってもらっては困ります」
「余裕面、壊してあげるビッチ!」
「ゾクゾクします♡」
クラリスが斬撃を躱す。
ジュリエッタは追随して二撃、三撃と連続攻撃を繰り出した。
それでも相手は笑みをたたえ回避を難なくこなす。
「さっきみたいな攻撃は通用しないビッチ!」
「そのようですね。褒めてあげます、ぱちぱちぱち♡」
「馬鹿にしてるの!?」
「はい♡」
ギィンッ。甲高い音と共に、ジュリエッタの剣が跳ね上がる。
まさかあの距離で剣に弾丸を当てたのか!?
「チェックメイト♡」
「ひぃ」
もう一つの銃でジュリエッタの額を撃つ。
気絶したジュリエッタは床に倒れた。
「つまらない方でしたね。小生は濡れ損です」
クラリスは二丁の銃を指でくるくる回し、腰のケースに収めた。
恐ろしくつえぇ。
知らないで当たっていたらヤバかったな。
確かムスペルダム国の英雄でウォーレンってのも出場していたはず。
この調子だとその野郎はもっと危険だな。
なんせウォーレンは今代最強って噂だ。
◇
二回戦。
ゴラリオスにお情けでもらったような勝利で、俺は舞台へと立った。
対戦相手は滅殺道化団のリッティ。
俺はそいつを見た瞬間、俺の槍がむくむく起き上がった。
美味そうな乳と尻をほんの僅かな布で隠している。
揉み応えのありそうな淫靡な姿は、誘っているとしか思えない。
ヤリてぇ。涎が止まんないぜ。
「正々堂々としょうぶ――それ!?」
「ああ? てめぇが美味そうな身体をさらけ出しているのが悪いんだろうが。この大会は殺さなければ何してもいいんだぜ。ナニしてもなぁ」
「怖い……でも団長のお子さんの為に……わっしょいーい」
「おい審判、早く始めろ」
試合開始が告げられる。
さぁ、ヤリ合おうぜ。
まずはそのぺらぺらの胸の布から引きちぎってやる。
クワセロ、スベテヲウバッテヤル。
「辞退します」
「お?」
対戦相手が辞退を申し出やがった。
ふざけやがって、期待させてそれか。
ゆるさねぇ。今すぐ犯す。
俺は槍を放り捨て、リッティの胸の衣装を力任せに引きちぎった。
ぷるん、二つの塊が揺れる。
これだよこれぇ!
早く、早く俺にくれぇ!!
そのまま押し倒して首筋に舌を這わせた。
「いやぁぁあああああっ!」
「ライ選手、止めなさい! これはルール違反だ!」
「うるせぇ! 邪魔すんな!」
「スタッフは至急集まれ、ライ選手を舞台から下ろすんだ」
十人以上の会場スタッフが殺到し、俺をリッティから引き剥がそうとする。
放せ、ぶっ殺すぞ。
クソが。どうしてそこの美味い肉を食っちゃいけねぇんだよ。
俺が腕を振るえば数人が吹っ飛んで行く。
雑魚が、うぜぇんだよ。
全員をのしたところで、先ほどまでいなかった人間がいた。
数は三人。二人は見たことのある顔だ。
「貴殿は竜騎士にして誇り高き英雄のはず。何故そのようなことをする。肩を並べて戦った者として恥ずかしい」
聖蛇剣ジャリューナスの使い手であるクリスがなにやらほざいている。
「ビルナスも落ちましたね。このような下劣なものが英雄になるなんて。とても同格とは思えません。思いたくもない」
聖星銃ソフルデッドの使い手のクラリスが冷たい視線を向けた。
俺のアレがさらに固くなる。
そのすました顔を汚してやりたい。
悲痛な叫びを絞り出してみたい。
「こりゃあ尋常じゃないのぉ。放つ気配に禍々しさがあるわい」
「てめぇは?」
「儂はムスペルダムのウォーレンじゃ」
「ちっ、三人もお出ましかよ」
どう考えても分が悪い。
ここは大人しく退くべきか。
「わかったよ、大人しくする」
「審判、彼を失格としてくださいな。試合後の暴行行為はルール違反のはず」
「は、はい。ライ選手、大会規定により失格とする」
審判があっさり失格にしやがった。
一瞬、暴れてやろうかと思ったが、優勝したところでもうエリクサーには用はない。
最強の称号とやらも所詮はこの大会だけの話。
もうここには魅力を感じねぇな。
「ふん、帰るぞ」
「うん……」
俺はジュリエッタを連れて会場を後にする。
そして、エマが姿を消していた。






