46話 僕は武道大会に出場する5
なぜこんな場所に……。
周囲から向けられる視線と目のやり場に困る数多くの商品に、僕は恥ずかしさから顔が猛烈に熱かった。
「エミリもブラジャー着けたいなの」
「なはは、その胸ではまだまだ早いっすね。ウチくらいにならないと着ける意味ないっすよ」
「虎おっぱいにならないとダメなの!? ガーン!」
「綺麗な形を保たせる為には、早めに着けておくのも手ですよね」
女性陣が楽しそうに会話をしている。
こんなの僕抜きでも良かったと思うけど。
近くにあった下着を手に取る。
おおおっ、なんだこれ!
スケスケだしアソコの部分に布がない!
こっちはガータベルトってやつかな、アマネが着てくれたらきっと最高だろうなぁ。
はっ、いけないいけない。
こんな場所で妄想を膨らませるなんて。
「見て、あの人下着を持ってニヤニヤしてるわ」
「まぁいやらしい。きっと肉欲に飢えたどすけべなんだわ」
慌てて下着を元の場所へ戻す。
違うから。僕は肉欲に飢えてないから。
すけべなのは自覚してるけど。
「アキト?」
「違うから!」
「?」
さっ、と背中でエロ下着の棚を隠す。
「後ろの下着を見ていたのですか?」
「ちがう、よ」
「どうして見せてくれないのです」
「なんでだろ。おかしいな、身体が勝手に」
のぞき込もうとするアマネを身体で阻止する。
みるみる訝しげな表情へ変わった。
「夫婦に隠し事はよくありませんよ。さ、見せてください」
「それは……」
「エミリ、ナナミさん」
「卑怯だ!」
二人に強制的に移動させられる。
下着を手で開いたアマネは秒で顔が真っ赤になった。
それはスケスケの穴あき下着。
「アキトが望むなら……着ます。すごく恥ずかしいですけど」
「そっちじゃなくて、もう一つの!」
「もしかしてこちらがアキトの好みですか」
「そう、アマネにガータベルトを着けてもらいたかったんだ!!」
店内にいた女性が頬をピンクに染めてひそひそ話を始める。
しまった。
しなくていい告白をしてしまった。
「変わった下着ですね。私にはよく分かりませんが、アキトが喜ぶなら購入しましょうか。とりあえず試着してみますね」
アマネはガータベルトをもって試着室へ。
そうか、アマネの村にはあんな下着がない。
スケスケ下着のエロさは理解しても、ガータベルトの魅力は初見では分からなかったんだ。
「ナナミも着てみてなの」
「ウチもっすか? エミリちゃんの頼みなら断れないっすね」
なぜかナナミもガータベルトを持って試着室へ。
残されたエミリは「えろえろなの」とスケスケ下着を眺める。
「どうっすか」
「かわいいなの」
カーテンが開き、ナナミが下着姿で現れる。
腹筋のある引き締まったくびれ、胸には深い谷間ができていた。
それでいて赤い下着が白い肌を強調している。
肉付きの良い太ももの存在感が、逆にT字の小さな布を蠱惑的に見せていた。
「あんまりじっと見られると、恥ずかしいっす……」
「ごめん!」
つい凝視してしまった。
ナナミもスタイル抜群の美女。
僕には刺激が強すぎた。
「パパを誘惑するななの、この虎おっぱい」
「あんっ、着ろって言ったのはナナミちゃんっすよ」
「この、このこの」
「ひんっ、揉んじゃだめっす」
一体何が行われているのだろうか。
父親として止めるべきだろうけど、不思議とそんな気が起きない。
「アキト、どうですか」
アマネがカーテンを開いた。
おおお、想像以上だ。
これはヤバい。
白いガータベルトを着けたアマネ。
すらりとしたほどよい肉付きの手足に、折れてしまいそうな細いくびれ。
柔らかそうな白い肌は艶があってきめ細かい。
下着に大切に包まれた胸もアマネが動く度にふるり、と揺れて思わず生唾を飲み込んでしまう。
服を着ている時は分からないが、なかなかの大きさなのだ。
さらに柔らかそうな脚は長く、太ももの付け根には小さな逆三角ができていた。
垂れたふわふわのうさ耳に見上げるような眼。
僕がどのような感想を抱いているのか不安な様子だった。
「変、じゃないですか? なにか言ってください」
「僕は幸せだよ」
「涙!?」
最高すぎる。今すぐお持ち帰りして愛でたいくらい。
満足度でいうなら200%だ。
不思議と力が漲って今夜は寝られる気がしない。
「こっちですよ、わっしょーい!」
とある建物の前で手を振るリッティ。
隣にはニッキーと団長もいた。
実はこれから温水プールというものに入る。
この街には未だ稼働している遺跡がいくつかあって、その中でダントツで人気なのが温水プール施設なのである。
下着屋へ向かったのも、元を正せば水着を購入することだったのだが、結局水着は売ってなくて、そのあと専門店で無事に手に入れた。
「ナナミの連れは誘わなくてよかったの?」
「なに言ってるっすか。ずっと一緒にいたじゃないっすか」
「へ」
視線を巡らせカスタードを探す。
いた、建物の陰からこちらを見ている。
しかもちゃんと下着や水着を購入しているようで、しっかり紙袋を抱きかかえていた。
ごめん、ぜんぜん気が付かついてなかった。
「そんじゃ男共に、あたしらのボディを見せつけてやりますか」
「だんちょ~、待ってください~」
団長に続いて僕らも施設へと入る。
◇
温水施設は円柱を半分に割ったような建物だ。
天井はガラスに似た透明な板が一面に張られ、室内なのに日の光が差し込む。
素足で踏み出せば砂を踏んだ。
施設の機能らしく、定期的に波が打ち寄せる。
水際では多くの客が水浴びやボール遊びを楽しんでおり、若い女の子達が水着姿で飛び跳ねて胸を上下に揺らす。
「こいつはたまんねぇぜ」
「……?」
「そうか、素顔を見せるのはこれが初めてか」
短髪の細身の男性がニヤリとする。
もしかしてニッキー?
い、意外にイケメンだ。
「男は脱いで穿くだけだから出てくるのが早いねぇ」
紫色のビキニを着けた団長が更衣室から出てくる。
その身体は男の視線をこれでもかと受け止め、イヤリングを揺らして不敵な笑みをたたえる。
まさに大人の女性。
官能的な色香がまんべんなく放たれている。
ニッキーはでれぇ、と鼻の下を伸ばした。
「やっぱ団長だな。ますます惚れるぜ」
「そう言えば団長って結婚してるんだよね?」
「数年前に亡くなったんだよ。ああ見えてナイーブだから触れるなよ」
「う、うん」
遅れてリッティとナナミとカスタードが出てくる。
「カスタードってぜんぜん喋らないんですね。わっしょい」
「しかたないっす。色々あって人を怖がってるっすから」
「…………」
メイクを落としたリッティは可愛らしい顔だちの女性だった。
ただ、とんでもなく面積の少ないビキニを着ている。
あれは噂のマイクロビキニでは……ごくり。
ナナミは赤のビキニ。
歩く度に胸がゆさりと揺れていた。
一方、カスタードは顔に包帯を巻いていて素顔は隠したまま。
胸は控えめだが、筋肉質でスリムな体つきは実に健康的でいい。
そこでふと腹部に目が留まった。
ごく最近、塞いだような傷跡。
カスタードは僕の視線を察して、ナナミの背後へ怯えるように隠れた。
「ごめん」
カスタードはふるふると首を横へ振る。
見られたくないものだったらしい。
「パパ~、見てなの!」
「よく似合ってるね」
水着姿のエミリが飛びつくように抱きつく。
ふりふりのついた可愛らしい水着だ。
アマネも現れ、僕はその素晴らしさに固まる。
薄いピンクのビキニに、上からフード付きの前開きの服を着ていた。
彼女はうっすら顔を赤くし、目を潤ませている。
わざわざ眼帯を外して来てくれたらしい。
「アマネ、僕と結婚しよう」
「もうしてますよ!?」
「そうだった。すでに奥さんだった」
「ふふ」
アマネは顔をほころばせ、僕の腕に腕を回した。
「遊びましょうか」
「うん」
「じゃあ、俺は全員の飲み物を買ってくるぜ」
「ありがとうニッキー」
ニッキーを除いて僕らは水辺へ。
全員で揃って勢いよく水の中へ飛び込んだ。
「あ」
「え」
「うそ」
「紐が緩かったかねぇ」
「…………」
ぷかりと浮かぶ複数のビキニ。
エミリ以外の女性の胸が晒される。
おお、おおおお、おぱ、おぱぱぱ。
鼻血が出た。