43話 僕は武道大会に出場する2
衣装を着けたアマネ。
僕は破壊力抜群の姿に片膝を突く。
「なんて、恐ろしい、想像していた以上じゃないか」
「は、恥ずかしい……」
だぼっとした服装だが、後ろは大きく開いていて背中やお尻が丸見えだ。
下にはビキニを着ているようだが、むしろそれがエロい。
チラリと見えるビキニや肌を、つい目で追いかけてしまう。
「ママ、えろえろなの」
「やめて!」
アマネは顔を両手で隠して逃げ出した。
「やっぱりだめだったかい。あれしか女性用の衣装がないんだけどねぇ」
「団長、バニーガールの衣装があったじゃないですか。あれを改良すれば、もう少しマシな格好にできると思いますよ」
「そうするか」
団長とリッティは馬車へと戻っていった。
バニーガールかぁ。
まさに兎部族の為にあるような衣装。
こんなにも早く拝める日が来るなんて。
「――はわわ、まじまじと見ないでください」
「ごめん、それは無理」
「だんちょうさん、他に無いんですか!?」
「悪いね。ウチじゃこれが限界だね」
バニーガールの衣装を着けたアマネ。
すらりとした白い脚には網タイツが付けられ、お尻には可愛い丸く白い尻尾があった。
天然のうさ耳が衣装と相まって色香とキュートが同居している。
ちなみにメイクは眼帯を外して行っている。
ようは目を開かなければいいだけなので、僕もアマネも問題ないと判断したのだ。
こうしてみるとすぐにはアマネだと認識できない。
ま、今はぱっちり目が開いてて恥ずかしそうにしているけど。
「ママ、えちちだね」
「はうっ」
恥ずかしさに悶絶するアマネ、可愛いから一日中見ていたい気分だ。
よし、今日一日はアマネだけを見てすごそう。
「パパ、見て見て。エミリもメイクしてもらったなの」
「よく似合ってるよ」
「んふぅ、パパも面白い顔なの」
エミリの頭を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めて尻尾を振る。
よく見ればカラフルなワンピースを着ているではないか。
こんなのあったんだ。
団長の子供って女の子?
「アキトさん、アマネさん、傾注してください。今からウチが基本としている戦闘パフォーマンスを教えます。仮とは言え今はメンバーですから、しっかり覚えてもらいますよ。いいですね」
「俺からはジャグリングを伝授してやる」
リッティとニッキーがニヤニヤしていた。
◇
瞬く間に日が過ぎ、大会当日。
街の中心部にある闘技場へと街中の人が集まる。
その様子を僕は控え室の窓から、覗いて戦々恐々としていた。
「あんな大勢の前で戦うのか……」
「すぐに慣れる。始まればそれどころじゃなくなるからな」
「ニッキーは経験があるの?」
「ここは普段、奴隷と獣を戦わせて見世物にしてんだ。俺も団長に買われるまでこき使われていた。古巣、ってやつさ」
彼は手首をそっと見せる。
手錠がはめられていたようなあとがあった。
「団長には返しきれねぇ恩がある。リッティだってそうだ。それにウチは知名度は低いが、ちゃんと実力はあるんだ。ここらで名を売ってのし上がらねぇとな。それよりもちゃんと優勝してエリクサーを手に入れてくれよ」
「そっか、君は団長さんのことが好きなんだね」
「ば、ばかやろう! そんなわけねぇだろ!」
そっぽを向いたニッキーの耳は赤い。
ドアが開けられる。
「間もなく予選が開始されます」
「はい」
僕らは予選会場へと移動する。
「――決められた時間内に、騎士を相手に一撃入れることが本戦への条件です。相手を殺しても失格、制限時間を超えても失格。では開始」
ブロック壁で区切られた小さな部屋群、そこには完全装備の騎士が待ち構えている。
与えられた時間は一分。
一撃を入れれば本戦へと進める。
僕は部屋に入り、騎士と対面した。
「ぶはっ、なんだその格好。道化師が挑戦者とは世も末だな」
「ピエロだけどガンバるんっ! アハッ」
「せいぜい時間ギリギリまで粘れ。この銀狼騎士団を相手に持ちこたえられたらいい土産話になるぞ。道化」
予選が開始される。
騎士が突き出した槍を腕で跳ね上げ、がら空きの腹部へと滑り込むように入る。
すかさず掌底で鳩尾を打った。
これもアイラがよく使っていた技だ。
昔の僕ではできなかったが、今は似たようなことができるようになっていた。
戦闘を飽きるほど見てきたおかげかな。
もちろん本家ほど威力は無いけど、騎士相手ならこれくらいで充分。
手加減もしているので死んではいないはず。
「だま、された……」
騎士は意識を失い倒れる。
油断してくれたおかげであっさり合格だ。
意外にいいかも、ピエロ。
◇
一次予選を百人ほどが勝ち抜いた。
問題なくここまで全員が残っている。
お次は二次予選。
さらに数を減らす為に十人ほどでバトルロイヤルを行うらしい。
「なんだこいつ、まったく攻撃が当たらないぞ!」
「ほっ、はっ、へっ、ワァオ! 怖いなぁ、アハッ!」
「気味が悪いピエロだ」
僕は教えられた通り、道化師として演じる。
滅殺道化団のモットーは目で楽しめる戦闘だそうだ。
で、僕が今やっているのは、かつてサーカスに所属していた団長が編み出した新しい戦闘方法らしい。
変則的な回避と攻撃、尚且つ外見と言動で油断させ相手に隙を作らせる。
奇抜だけどこれが意外に効果があるのだ。
「くっ、こいつは後回しだ」
「あれ~、僕はもういいのかな? アハッ」
「今回の大会はヤベぇ奴がいやがるぜ」
剣士は僕を諦め、別の相手を探して駆けて行く。
そして、残った剣士と剣士が相打ちとなって、僕はなにかをすることもなく二次予選を抜けた。
「かんぱ~い」
酒場でジョッキを打ち合う。
全員の本戦出場が決定、お祝いに団長が奢ってくれることになったのだ。
ちなみにエミリは大会不参加である。
本人は参加したがっていたが、僕とアマネが全力で止めたのだ。
理由は……この街の為かな。
「これでトーナメントに出場だねぇ。残ったのは三十二人だったか、誰一人欠けることなく全員が入れたなんて、あたしゃあ嬉しいよ。うううっ」
「だんちょー、泣かないでくださいよ」
「あ、そうそう。これリッティの新しい衣装だから」
「だんちょー!?」
ビキニのようなきわどい衣装を団長はリッティに渡す。
僕とニッキーは思わず唾を飲み込んだ。
恐らく相手は、彼女と対面した瞬間に敗北を悟るに違いない。
リッティの戦闘方法は絞め技や寝技だ。
それはきっと幸せな敗北だろう。
「アキト、あたしゃぁあんたに期待しているからね!」
「わっ」
団長に肩を組まれ、頬にキスされる。
「アキトさんが安心して優勝できるように、三位を必ずとりますから。わっしょーい」
「わわっ」
リッティは僕の顔を胸に押し当て、景気よく声をあげる。
「アキト?」
「これは不可抗力で……」
アマネさん、目が笑ってないんですけど。