表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/78

40話 僕は故郷へと帰還する6

あけましておめでとうございます!

本年もどうかよろしくお願いいたします(*^▽^*)


 険しい山道を登り、エルダーのいる場所へと向かう。

 この辺りは村人でも近づかない領域だ。


 それ故、道らしい道もなく方向感覚と土地勘を頼りに行くしかない。


 しかしながら僕らは、優れた身体能力を有していることから、山で遭難する確率は極めて低い。

 常人じゃ回り道する難所もすいすい行けるわけだし。

 村を目指してひたすら直進もできなくもない。


「パパ~。ママ~、はやくーなの!」

「いつも以上に元気だなぁ」

「変身のお勉強と言っていますが、単純にドラゴンを見てみたいだけのようですよ」

「そうなの?」

「ふふっ、エルダーを見てからずっとそわそわしてましたから」


 でも気持ちは分かるよ。

 エルダーはカッコイイドラゴンだ。


 僕も日が暮れるまで、エルダーを見つめていたことがある。


 そのくせ怖くて近づくこともできなかったけど。


「なんだか歩き慣れたように進みますね。アキトもエミリも」

「へ?」


 指摘されて気が付いた。


 知らない道のはずなのに、エミリも僕も惑うことなく進み続けているのだ。

 ぼんやりと行くべきラインが見えているというか、ちょっと気持ち悪いなこれ。


 生い茂った草を掻き分け、崖の上へと出る。


 下から見るよりここは広いようだった。


「エルダーなの!」

「エミリ、待つんだ。まずは僕から」

「え~」

「不満そうな顔をしない」

「なぬ~」


 むにゅ、とエミリの両頬を指で挟む。


 さて、向こうに敵意があるか確認しないと。


 崖の上で丸くなって眠るエルダードラゴン。

 時折、風が吹いて雄々しいたてがみが揺れていた。


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 ぱちり。エルダーがうっすら目を開く。

 すると大きく目を見開き、静かに身体を動かした。


 おっと、警戒させたか。


「キュゥゥン」


 エルダーは甘えるような声で、頭部を地面すれすれまで伏した。


 予想してたのと違う反応。

 ただ、同時に当然とも思える気がした。


 ゆっくりと近づいて顔に触れる。


 エルダーは顔を擦り付け再び甘えるような声を出す。


「ラージ」


 声に振り返ると、エミリがぼーっとこちらを見ている。


「ラージ、久しぶりなの……」

「キュゥゥン」


 ずきんと頭に痛みが走った。


『ラージ、君とはお別れだ』

『キュゥゥン』

『次会う時、僕は君を忘れているかもしれない。許しておくれ』

『お父様、そろそろなの』

『うん。いつかまた会おう』


 閃光のような映像と声が、頭の中にほんの一瞬だが浮かんだ。


 ラージと呼ばれたドラゴンはまだ若く、僕の後ろにはエミリに似た美しい女性がいた。


 なんだこの記憶。

 どうして僕にこんなものが。


「カッコイイなの!」

「可愛いですね」


 ぼんやりしている間に、エミリとアマネはドラゴンに触れていた。


「エミリ、大丈夫なのか」

「なんのことなの?」

「さっきラージって」

「この子の名前なの? うん、ぴったりなの!」


 あれ、忘れてる?

 自分で言ったことなのに。


 それとも今のは僕だけが見た幻覚なのか。


「懐かしいなの」

「会ったことあるの、エミリ?」

「ううん。でもそんな気がするなの」


 エミリがぽろりと涙を流した。


 エルダー――ラージの眼にも涙が。


「アキト?」

「え? あれ、おかしいな」


 僕の目からも涙がしたたり落ちていた。


 たぶん僕はこのドラゴンを知っている。

 生まれる前から。


 表現が正しいのかは分からない。


 そう言うしか表現しようがないのだ。


「君はずっとこんなところにいて寂しくなかった?」

「グルッ」

「そうだよね。寂しくないわけないよね」


 僕はラージに飛び乗った。


 この座り心地、やっぱり懐かしい。

 何度もここに座った気がする。


「さ、アマネ」

「はい」


 妻に手を差し出し引き上げた。

 後はエミリだけ。


「エミリ?」

「今なら――」


 エミリは空中でくるんと回転して変身する。

 出現したのはもう一頭のエルダードラゴンだった。


 とうとうドラゴンへの変身ができるようになったのか。


「パパとママが小さく見えるなの」

「エミリが大きくなったんだよ」

「グルゥ」

「ラージが付いてこいって言ってるなの」


 ラージは翼を大きく開き、風の流れを読む仕草を見せてから崖から飛び降りた。

 遅れてエミリも飛び立つ。

 

 村の上空を旋回し、真上から一望する。


 これが僕の育った村。


 真下ではわらわらと村人が集まり、僕らを見上げていた。





「また会いに来るよ」

「グルゥ」

「もし村人がやってきても攻撃しちゃだめだよ」

「グル!」


 穏やかな眼には知性を感じさせる。

 世界は広いな、こんなドラゴンもいるのか。


 僕は二人を連れて山を下りようとした。



「御達者でアキト様」



 振り返ればラージがこちらをじっと見ていた。


 聞こえた声は、君のものなのかな。


 こんな話を聞いたことがある。

 永く生きたドラゴンは、人以上の知恵を付け人語を解すると。


 僕はラージに笑顔で手を振った。



 ◇



「もう少しゆっくりしていけばいいのに」

「そうよ、あと一ヶ月いなさい。ね、エミリちゃんもそう思うわよね」

「ジィジ、バァバ、大好きなの!」

「「えへへぇ」」


 こらこら、二人とも顔がだらしないよ。

 デレデレすぎて見てられない。


 だいたい一ヶ月もいたら、なし崩し的に一年以上引き留められそうだ。


 急ぐ旅じゃないけど、のんびりしすぎるのもそれはそれで問題だし。


 あともう一つ気掛かりがある。

 アマネが子供を産んだら、エミリが粗雑に扱われないかだ。


 その点は僕もアマネも注意するべき点だけど、二人にも平等に接してもらえるようにお願いしたい。


「――ふっ、我が息子ながら愚かだな。エミリちゃんの可愛さは、下手をすると生まれた孫よりも強いかもしれん」

「エミリちゃんって私達のツボを押さえてるのよねぇ。もう可愛くて可愛くて、生まれてくる孫は期待しているけど、エミリちゃんほど愛せるか心配だわ」

「あ、うん……」

「なんだか不安になってきました」


 アマネの不安を払拭する為に励ますが、僕も内心で不安だった。


 恐るべきはエミリの掌握術。

 たった数日で両親がエミリに堕とされていた。


「心配するななの、生まれてくる弟はエミリが愛情を注ぐなの」

「弟と決まったわけじゃ……」

「じゃあ弟と妹にするなの」

「そう上手くゆくものじゃ……もういいや」

「なの?」


 子作りの知識がないエミリは、小首を傾げる。


「またね。父さん母さん」

「すぐにまた来るんだぞエミリちゃん」

「アマネさんもお元気でね」


 まったく僕の心配をしてないな、あの二人。


 山の方を見ると、ラージが起き上がってこちらをじっと見ていた。

 次に来た際は、肉でも持っていってあげよう。


 道沿いに歩き出せば、アマネがそっと指に指を絡ませてくる。


「次はどこに行くのですか」

「それなんだけど。この地図によると、ドルリジア国の近くに地下空間がありそうなんだ。遺跡も多い国だし、観光するにはいいかなって」

「美味しい物、たらふく食べられるなの?」

「たぶんね」


 アマネがそっと頬にキスをする。


「どうしたの?」

「えへへ、急にしたくなりました」


 彼女は恥ずかしそうに顔を赤くした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] え?これだけ?^^; と、とりあえず!あけおめでーす!
[一言] あけましておめでとうございます。 今年も更新頑張ってください。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ