31話 僕はかつての君を思いながら決別する
お待たせしました。第二章開始です。
第二章からは更新を週1~3にいたします。
その方が結果的に早く進められるかと。
ジュリエッタは剣を抜き正眼に構える。
あの日を彷彿とさせる殺意の籠もった眼差しだった。
「僕に戦う意思はない。ジュリエッタ、いい加減目を覚ましてくれ」
「アキトのくせに説教ビッチ? 弱くて頼りない奴が、剣聖である私に? 先生に気に入られたくらいでいい気にならないでビッチ」
「どうして分からないんだ」
ひどく悲しい気分になる。
僕は、君達と関わらないと決めたんだ。
なのに、なぜ関わろうとしてくるのか。
君は僕じゃなく、ライを選んだんだろ。それでいいじゃないか。
こんなのまったくもって意味がない。
「くくく、どうした、またあの時みたいにびびってんのかゲス」
「違う。君やジュリエッタの愚かさに……ひどく悲しんでいるんだ」
「はぁ? 悲しむ? 恐怖で頭がおかしくなったゲスか?」
「やっぱり君をパーティーに入れるべきじゃなかったよ」
全ての始まりはライをパーティーに加入させたことだ。
あれがなければこんなことにはなっていなかった。
……やめよう、後悔したところで過去は変わらないし、アマネとの出会いは僕にとってかけがえのないものだ。
むしろこれで良かったんだ。
「あれには心底ムカついたビッチ。結婚式を見せてせいぜい気分が良かったでしょうね。おあいにくさま、近く私もライと挙式をあげるのよビッチ」
「へぇ、それはおめでとう。ご祝儀をださないとね」
「いらないわよ! あんたはここで死ぬビッチ」
ジュリエッタは距離を詰め、下から切り上げる。
反射的に反応した僕は、抜剣から斬撃を防いでみせた。
ぎりり、剣と剣が擦れ合い不快な音が響く。
「褒めてあげるビッチ。まぐれでも、この私の切り込みを防いだのだから」
「ありがとう。まぐれじゃないけどね」
「七段になったそうね。どんな手を使ったのビッチ」
「普通に実力でとったけど?」
「ありえないビッチ! 私ですらまだ二段だというのに!」
「じゃあ僕の方が強いってことかな」
ぶちっ、ジュリエッタからなにかがキレる音がした。
もちろん煽っているのは自覚している。
幼なじみだからどこに逆鱗があるのかはよく理解しているからね。
彼女は剣に自信を持っている。
剣聖であることにも誇りを感じているのだ。
「はぁぁああああああっ!!」
「――剣が?」
ジュリエッタの剣が呼応するかのように輝きを強める。
ただの新しい剣かと思っていたけど、もしかしてこれは聖剣??
だとしたら危険だ。一度下がるべきか。
「死ねゲス、アキト!」
「させません」
隙を狙いライが槍を突く。
が、素早く間に入ったアマネが槍の柄で矛先を止める。
「邪魔すんなゲス、ビースト!」
「卑怯です。貴方に戦士としての誇りはないのですか」
「誇り? なんだそりゃあ、食えるのかゲス?」
「言って分からないなら身体に直接たたき込むしかないようですね」
アマネとライの戦いが始まる。
一方でエマとエミリはぼんやり見合っていた。
「子供と戦う趣味はないわウホッ」
「ぷふっ、ウホっておもしろいなの」
「仕方ないのよ。呪いだからウホホッ」
「あははははっ、もうやめるなの! 笑い殺されるなの!」
「お姉さん泣きそうウホッ」
ジュリエッタの剣は輝きを増していた。
それと同じくして、彼女の剣圧も上昇して行く。
「すごいでしょ。これが聖剣の力ビッチ」
「身体能力の上昇かな」
「それだけじゃないビッチ。でも、貴方程度がこの先を見ることは――え?」
「パワーなら、僕も自信があるんだ」
ジュリエッタの剣を押し返す。
まだ半分も力を込めてないけど、彼女にはこれくらいで十分だ。
想定外の事態に、ジュリエッタはあわてふためく。
「どうして!? 聖剣の力はこんなものじゃないでしょビッチ!」
「いい加減止めよう。僕は君を殺したくない」
「ふざけないでビッチ! あんたは良くても、私には殺したいほど目障りなのよ! あーもう、どうしてあの時ちゃんと死んでくれなかったのビッチ!!」
「ジュリエッタ……」
本当に変わったね。
そんなことを言うような子じゃなかった。
ライが、君をどうしようもないくらいに変えてしまったんだね。
「ぺっ、死ねビッチ!」
唾を吐かれる。
だが、僕は表情を変えず微動だにしない。
もう説得は無理だと悟った瞬間だった。
瞬歩でその場から移動、ジュリエッタの背後に回り首筋に刃を当てる。
「そん、な……どうやってビッチ?」
「修行をし直した方がいいよ」
明らかに以前より腕が鈍っている。
長く見てきたからよく分かるよ。
以前の君を尊敬していた。
剣聖になってもたゆまぬ努力を続けていたからだ。
だからこそ許せない。
彼に高みへ導いてもらったんだろ。
逆に弱くなっているじゃないか。
「ぐはっ、なんなんだこのビースト、ゲス」
「その程度で速さに自信を抱いているのですね。可哀想な人、きっと弱い相手としか戦ったことがないのですね」
ライは片膝を突き、肩で呼吸をしていた。
矛先を向けるアマネは、涼しい表情で髪を風になびかせる。
エマに目を向ければ、彼女は両手を挙げる。
「三対一で戦うなんてごめんウホッ」
「君は相変わらずだね」
「貴方もね。良い男になったじゃない、そっちに――やめておくウホッ」
ライが睨んだことで、エマは黙り込んだ。
ふとアイラがいないことに気が付く。
パーティーを抜けたのだろうか。
もう余所のパーティーだ。余計なことを言うべきじゃない。
僕は剣を収める。
「余裕ぶって、これで勝ったつもりビッチ?」
「勝敗なんてどうでもいいよ」
荷物を拾い上げ、アマネとエミリのもとへと行く。
「負けたビッチ、荷物持ちで足手まといだったアキトに! うわぁぁぁあああっ!!」
「ちくしょう! なんなんだあのビースト、俺は聖竜槍を持ってんだゲスよ! 負けるなんてありえねぇだろゲス!!」
遠くから聞こえてくる叫び
僕は悲しさに胸が締め付けられた。
「大丈夫ですか、アキト」
「うん。少しだけ手を繋いでもいいかな」
「いくらでもどうぞ、愛しい旦那様」
アマネの手を握り、落ち着きを取り戻す。
するともう片方の手を誰かが握った。
目を向ければエミリがニシシと笑みを浮かべていた。
「今から戻って、顔面が腫れ上がるほどボコボコにするなの」
「それは遠慮するよ、あはは」
「ですが、本当に良かったのですか?」
「うん。今回だけは見逃すことにしたよ。もちろん次はない。再び刃を向けることがあれば、その時は容赦なく殺す」
これはなんというか、ちょっとした仕返しなんだ。
ライは僕に遠回しに、パーティーを抜けるように言ったそうだ。
覚えてないけど。
つまり一度は僕を見逃すつもりだった、ってことだ。
だから僕も一度だけ見逃すことにした。
まぁ、幼なじみだから、元仲間だから、なんて気持ちがないわけでもない。
元々殺すつもりなんかなかったからね。
でも、再び刃を向けるなら僕ももう甘い顔はできない。
ジュリエッタだろうが斬り殺す。
できればそんな日が来ないことを祈っている。
「あの二人、S級遺物を所持していましたね」
「そうだね。それは少し羨ましいかな」
「ふふっ、剣を造ってくれたナナミに怒られてしまいますよ」
「うわぁぁ、今のは聞かなかったことに!」
ナナミには感謝しているんだ。
素晴らしい双剣を造ってくれたことを。
おかげで聖剣と渡り合えることもできたんだ。
「ママ、あめ玉」
「はいはい」
アマネは懐から袋を取り出し、あめ玉を一つ取り出す。
それをエミリの口に入れてあげた。
「あむあむ、しあわせなの~」
のほほんとしたエミリに微笑みつつ、僕らは故郷に向けて進んだ。