表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/78

31話 僕はかつての君を思いながら決別する

お待たせしました。第二章開始です。


第二章からは更新を週1~3にいたします。

その方が結果的に早く進められるかと。


 ジュリエッタは剣を抜き正眼に構える。

 あの日を彷彿とさせる殺意の籠もった眼差しだった。


「僕に戦う意思はない。ジュリエッタ、いい加減目を覚ましてくれ」

「アキトのくせに説教ビッチ? 弱くて頼りない奴が、剣聖である私に? 先生に気に入られたくらいでいい気にならないでビッチ」

「どうして分からないんだ」


 ひどく悲しい気分になる。

 僕は、君達と関わらないと決めたんだ。


 なのに、なぜ関わろうとしてくるのか。


 君は僕じゃなく、ライを選んだんだろ。それでいいじゃないか。


 こんなのまったくもって意味がない。


「くくく、どうした、またあの時みたいにびびってんのかゲス」

「違う。君やジュリエッタの愚かさに……ひどく悲しんでいるんだ」

「はぁ? 悲しむ? 恐怖で頭がおかしくなったゲスか?」

「やっぱり君をパーティーに入れるべきじゃなかったよ」


 全ての始まりはライをパーティーに加入させたことだ。

 あれがなければこんなことにはなっていなかった。


 ……やめよう、後悔したところで過去は変わらないし、アマネとの出会いは僕にとってかけがえのないものだ。


 むしろこれで良かったんだ。


「あれには心底ムカついたビッチ。結婚式を見せてせいぜい気分が良かったでしょうね。おあいにくさま、近く私もライと挙式をあげるのよビッチ」

「へぇ、それはおめでとう。ご祝儀をださないとね」

「いらないわよ! あんたはここで死ぬビッチ」


 ジュリエッタは距離を詰め、下から切り上げる。

 反射的に反応した僕は、抜剣から斬撃を防いでみせた。


 ぎりり、剣と剣が擦れ合い不快な音が響く。


「褒めてあげるビッチ。まぐれでも、この私の切り込みを防いだのだから」

「ありがとう。まぐれじゃないけどね」

「七段になったそうね。どんな手を使ったのビッチ」

「普通に実力でとったけど?」

「ありえないビッチ! 私ですらまだ二段だというのに!」

「じゃあ僕の方が強いってことかな」


 ぶちっ、ジュリエッタからなにかがキレる音がした。


 もちろん煽っているのは自覚している。

 幼なじみだからどこに逆鱗があるのかはよく理解しているからね。


 彼女は剣に自信を持っている。


 剣聖であることにも誇りを感じているのだ。


「はぁぁああああああっ!!」

「――剣が?」


 ジュリエッタの剣が呼応するかのように輝きを強める。


 ただの新しい剣かと思っていたけど、もしかしてこれは聖剣??

 だとしたら危険だ。一度下がるべきか。


「死ねゲス、アキト!」

「させません」


 隙を狙いライが槍を突く。

 が、素早く間に入ったアマネが槍の柄で矛先を止める。


「邪魔すんなゲス、ビースト!」

「卑怯です。貴方に戦士としての誇りはないのですか」

「誇り? なんだそりゃあ、食えるのかゲス?」

「言って分からないなら身体に直接たたき込むしかないようですね」


 アマネとライの戦いが始まる。


 一方でエマとエミリはぼんやり見合っていた。


「子供と戦う趣味はないわウホッ」

「ぷふっ、ウホっておもしろいなの」

「仕方ないのよ。呪いだからウホホッ」

「あははははっ、もうやめるなの! 笑い殺されるなの!」

「お姉さん泣きそうウホッ」


 ジュリエッタの剣は輝きを増していた。

 それと同じくして、彼女の剣圧も上昇して行く。


「すごいでしょ。これが聖剣の力ビッチ」

「身体能力の上昇かな」

「それだけじゃないビッチ。でも、貴方程度がこの先を見ることは――え?」

「パワーなら、僕も自信があるんだ」


 ジュリエッタの剣を押し返す。

 まだ半分も力を込めてないけど、彼女にはこれくらいで十分だ。


 想定外の事態に、ジュリエッタはあわてふためく。


「どうして!? 聖剣の力はこんなものじゃないでしょビッチ!」

「いい加減止めよう。僕は君を殺したくない」

「ふざけないでビッチ! あんたは良くても、私には殺したいほど目障りなのよ! あーもう、どうしてあの時ちゃんと死んでくれなかったのビッチ!!」

「ジュリエッタ……」


 本当に変わったね。

 そんなことを言うような子じゃなかった。


 ライが、君をどうしようもないくらいに変えてしまったんだね。


「ぺっ、死ねビッチ!」


 唾を吐かれる。

 だが、僕は表情を変えず微動だにしない。


 もう説得は無理だと悟った瞬間だった。


 瞬歩でその場から移動、ジュリエッタの背後に回り首筋に刃を当てる。


「そん、な……どうやってビッチ?」

「修行をし直した方がいいよ」


 明らかに以前より腕が鈍っている。

 長く見てきたからよく分かるよ。


 以前の君を尊敬していた。


 剣聖になってもたゆまぬ努力を続けていたからだ。


 だからこそ許せない。

 に高みへ導いてもらったんだろ。

 逆に弱くなっているじゃないか。


「ぐはっ、なんなんだこのビースト、ゲス」

「その程度で速さに自信を抱いているのですね。可哀想な人、きっと弱い相手としか戦ったことがないのですね」


 ライは片膝を突き、肩で呼吸をしていた。

 矛先を向けるアマネは、涼しい表情で髪を風になびかせる。


 エマに目を向ければ、彼女は両手を挙げる。


「三対一で戦うなんてごめんウホッ」

「君は相変わらずだね」

「貴方もね。良い男になったじゃない、そっちに――やめておくウホッ」


 ライが睨んだことで、エマは黙り込んだ。


 ふとアイラがいないことに気が付く。

 パーティーを抜けたのだろうか。


 もう余所のパーティーだ。余計なことを言うべきじゃない。


 僕は剣を収める。


「余裕ぶって、これで勝ったつもりビッチ?」

「勝敗なんてどうでもいいよ」


 荷物を拾い上げ、アマネとエミリのもとへと行く。


「負けたビッチ、荷物持ちで足手まといだったアキトに! うわぁぁぁあああっ!!」

「ちくしょう! なんなんだあのビースト、俺は聖竜槍を持ってんだゲスよ! 負けるなんてありえねぇだろゲス!!」


 遠くから聞こえてくる叫び

 僕は悲しさに胸が締め付けられた。


「大丈夫ですか、アキト」

「うん。少しだけ手を繋いでもいいかな」

「いくらでもどうぞ、愛しい旦那様」


 アマネの手を握り、落ち着きを取り戻す。


 するともう片方の手を誰かが握った。

 目を向ければエミリがニシシと笑みを浮かべていた。


「今から戻って、顔面が腫れ上がるほどボコボコにするなの」

「それは遠慮するよ、あはは」

「ですが、本当に良かったのですか?」

「うん。今回だけは見逃すことにしたよ。もちろん次はない。再び刃を向けることがあれば、その時は容赦なく殺す」


 これはなんというか、ちょっとした仕返しなんだ。


 ライは僕に遠回しに、パーティーを抜けるように言ったそうだ。


 覚えてないけど。


 つまり一度は僕を見逃すつもりだった、ってことだ。

 だから僕も一度だけ見逃すことにした。


 まぁ、幼なじみだから、元仲間だから、なんて気持ちがないわけでもない。


 元々殺すつもりなんかなかったからね。

 でも、再び刃を向けるなら僕ももう甘い顔はできない。


 ジュリエッタだろうが斬り殺す。


 できればそんな日が来ないことを祈っている。


「あの二人、S級遺物を所持していましたね」

「そうだね。それは少し羨ましいかな」

「ふふっ、剣を造ってくれたナナミに怒られてしまいますよ」

「うわぁぁ、今のは聞かなかったことに!」


 ナナミには感謝しているんだ。

 素晴らしい双剣を造ってくれたことを。


 おかげで聖剣と渡り合えることもできたんだ。


「ママ、あめ玉」

「はいはい」


 アマネは懐から袋を取り出し、あめ玉を一つ取り出す。


 それをエミリの口に入れてあげた。


「あむあむ、しあわせなの~」


 のほほんとしたエミリに微笑みつつ、僕らは故郷に向けて進んだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 良い点でもあるが悪い点として、優しい所。 [気になる点] タイトルからとうとう、何らかの始末を幼馴染につけるのかと思ってたんですが、これだと奴等懲りませんね(まあ主人公的には、これが最後だ…
[気になる点] 先生立ち会いの元の真剣試合でも無いし、そのまま斬り殺しても良かったのでは…? [一言] 「ざまぁ」が足りないなんて話ならば「殺さない」かわりに聖剣(?)を取り上げるor破壊するor剣が…
[一言] 更新待ってました! 第2章も楽しく拝見させていただきます!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ