24話 剣聖と竜騎士の落ちて行く日々4
俺達は国王の依頼でムスペルダムへと向かう。
さらにその道中で、蜜月組なるパーティーを探すよう言われた。
クソが、どうして俺達がそんなことをしなければならない。
英雄である俺を顎で使いやがって、ムカつくぜ。
そこへ情報収集をしていたジュリエッタが戻ってくる。
「この街に蜜月組が来たらしいわ」
「じゃあさっさと捕まえてこい。どうせ雑魚だろ」
「それがもう次の街に向かったって」
てことは今はグリンピアにいるってことか。
手間掛けさせやがって。
犯罪者なんかどうでもいいんだよ、今はゴラリオスだ。
忌々しいクソ魔族が。あいつのせいで女を抱けなくなっちまったじゃねぇか。
どいつもこいつも声をかけりゃあ離れていくし、ジュリエッタ共も妙に夜を避ける、つるつるなせいでやっと捕まえた女にも大笑いされて逃げられる始末だ。
「ライ?」
「なんでもねぇ。さっさとグリンピアに行くぞ」
ジュリエッタを連れて俺は街を出る。
「蜜月組? ああ、ウチにいるっすよ」
胸のデカい鍛冶師の女の言葉に、俺は笑みを隠せなかった。
そいつらを捕まえて衛兵に突き出すだけ。
後は勝手にどうにかしてくれるだろう。
仕事の次いでとは言え、ジジイの依頼は全てこなしておいた方がいい。
立て続けの失敗で評価はがた落ち。
今後の扱いを考えれば無視できねぇ。
一応、あれでも一国の主。媚びておいて損はねぇしな。
「あ、帰ってきたっす」
「あの方々が蜜月組ですか――」
ア、キトだと??
そこにはかつて殺したはずの男がいた。
どうなってやがる、どうしてアキトが生きているんだ。
あいつはあの時、ジュリエッタが腹をぶっさして奈落に落としたはずだ。
どう考えても生きているなんてあり得ない。
じゃあジュリエッタが裏切ったのか?
いや、心底驚いている顔を見る限り、それはないだろう。
「奈落に落としたはずなのに……どうやって」
「この通り生きているよ」
「どうして、どうして素直に死んでくれなかったの」
ジュリエッタが剣を抜く。
だが、俺は手で制止し、前に出る。
よく見ればアキトの隣にとんでもない美人がいるじゃねぇか。
「もしやこの方達が?」
「そうだよ。僕の前の仲間だ」
「なんだその女、めちゃくちゃ美味そうじゃないか。アキト、俺とお前の仲じゃないか、ちょと味見させろよ。なぁ」
槍でアキトの野郎をぶっ倒そうとした瞬間、俺の喉元に切っ先が向けられていた。
こいつ!?
いつ抜いたんだ!??
アキトは以前とは違う雰囲気を纏っていた。
馬鹿な、使えない荷物持ちのはずだぞ。
無意識に足が下がっていた。
「以前とは動きが違う……? どうなってんだ?」
「僕らに何の用だ」
「ちっ、まぁいい。王様がてめぇら蜜月組を捕まえろってお達しを出してんだよ。依頼のついでに探していたが、なんだ案外面白い話みたいだったな」
くくく、こいつが蜜月組なら好都合じゃねぇか。
だって犯罪者なんだろ?
ジジイが命令するくらいだ、そうとうやべぇことしたに違いねぇ。
死刑になるのなら面白いだろうなぁ。
「何をしでかしたのかは知らねぇが、ここで取り押さえて、てめぇとガキだけ突き出せば最高に楽しいことになりそうだな」
「ねぇライ、新しい女を増やすのは気が進まないのだけれど」
「エマと同意見だ。三人で十分じゃないか」
「アキトもその女も殺すべきよ。それが一番」
「ごちゃごちゃうるせぇな! 俺の言うことを聞けねぇのか!」
槍を抜いて戦いに備える。
アキトの野郎も剣を構えやがった。
マジかよ、この俺と本気でやり合うつもりか。
足手まといだった荷物持ちが?
女をとられてなにもできなかった腰抜けが?
クソ笑える。
格の違いってものを教えてやるよ。
てめぇじゃ一生、俺には届かねぇってな。
「アキト、大人しく死んで。貴方は私にとって邪魔でしかないの」
「これが旦那様の幼なじみですか。聞いていたよりもひどいですね」
「え、ただの仲間じゃないの?」
「私は妻です。もしかしてまだご結婚されてないのですか」
「くっ、アキトが結婚……あのアキトが私よりも先に幸せに。許さない」
へぇ、結婚したのか。
だとしたら余計に燃えるな。
人妻を奪うのは結構好きだぜ。
ズズン、地面が僅かに揺れ、街の端で白い土煙が昇る。
◇
魔族に敗れた俺達は、宿に籠もっていた。
無様だ。
ありえねぇくらいに。
「ひぐっ、眉毛が……ビッチ」
「うるせぇゲス! いつまで泣いてんだよ、ゲス!」
「だってビッチ」
手鏡で何度も確認してすすり泣くジュリエッタに、無性にイライラする。
アイラは塞ぎ込んで何やら考え事をしているようだし。
エマは放心状態で天井をずっと見上げている。
なんなんだこの状態は。
これが英雄のパーティーか。
クソが。
またもや毛をむしられ、おまけに語尾まで変えられた。
これなら素直に殺された方がマシだった。
生き地獄じゃねぇか。
ちくしょう、ちくしょう。
ゴラリオス、アスファルツ、ただぶっ殺すだけじゃ済まさねぇからな。
悔しいが今の俺達には奴らに敵わない。
どこかでさらなる力を付けるべきだろう。
それと、S級遺物もだ。
魔族との力の差を埋めるには、強力な武器が必要だ。
もう一度、試練への挑戦を申し出るか?
そう、拒絶されたのはなにかの間違いだ。
俺が所有者になれないなんてどう考えても間違っている。
「……抜けるブヒ」
「あ?」
アイラが立ち上がって荷物をまとめ始めた。
「なんのつもりゲス」
「パーティーを抜けるって言ったんだブヒ」
「馬鹿を言うなゲス。てめぇは俺の雌ブタだろうが」
アイラは俺の手を弾いて拒絶した。
「あんたと一緒にいても、アタシは強くなれないブヒ。それどころか己を見失い弱くなっている。今のアタシに何が足りないのか、それを探しに行くブヒ」
「はぁ? 足りないもの? 意味わかんねゲス」
「とにかくアタシは抜けるブヒ」
あいつは一人部屋を出て行った。
はっ、言い訳しているがようは心が折れたってことだろ。
付いてこられない奴はどこへでも消えればいい。
まだ雌ブタは二匹いる。
それにあいつは反抗的で意見が合わないことも多かった。
しかし、俺を振った感じはムカつく。
ぶっ殺すか。
俺は槍を持ってアイラを追いかけた。
お、いたいた。
ちょうど人気のない路地に入ろうとしている。
「アイラ」
「?」
アイラが声をかけられ振り返る。
槍が腹に突き刺さった。
「ぐぼっ!? ライ、?」
「てめぇがつまんねぇこと言うからだぞゲス。心の底から詫びながら死ね」
「きさま、」
伸ばす手を俺は蹴る。
あー、くそ、服に血が付いたじゃねぇか。
「「あ」」
路地から出たところで、アキトと一緒にいた鍛冶師とすれ違う。
相変わらずいい胸してやがる。
「あの時の」
「失せろゲス。殺すぞ」
「ひぇ」
鍛冶師は逃げて行く。
今は女なんかどうでもいい。
俺が今欲しいのは、力だ。
力、力、力、力、力。
俺こそが最強。
俺こそが頂点でなければならない。