22話 僕は再会する
執筆作業の都合で数日お休みします。
僕らはしばらくグリンピアに滞在することに。
ここでの目的は三つある。
・装備の新調
・結婚指輪の作成
・地下空間の捜索
一つは達成したので、残り二つ。
「――指輪っすか?」
「そう、君に結婚指輪を作ってもらいたいんだ」
「指輪、指輪っすかぁ。やったことはないけど、挑戦はしてみたいかな。少し時間をもらいたいっす。必ず最高のものを作って見せるっすよ!」
ナナミはサムズアップして胸を揺らす。
腕の良い彼女なら、専門外でも素晴らしい指輪を作ってくれそうな気がしていた。
デザインはシンプルに、できるだけ頑丈に、予算は一千万まで。
長く使う物だ。妥協はしたくない。
「あとさ、この辺りで穴ってないかな」
「どのくらいの大きさっすか?」
「奈落サイズ……はさすがにあれば僕も知ってるか。深すぎて誰も近づかないような縦穴かな」
「穴は覚えがないっすけど、人が近づかない坑道ならあるっすよ」
「ありがとう、そこに行ってみるよ」
ナナミに場所を教えてもらい、僕らはその坑道へと向かう。
「誰も近づかないわけだ」
「放置されて長いようですね」
坑道は半ばで崩れ塞がれていた。
さすがに僕とアマネでも、この量の岩と砂利を退かせられない。
坑道を管理している人によれば、この場所はこの辺りのもので一番古いそうだ。
鉱脈もなさそうなので今も放置されているのだとか。
この先に地下空間への入り口がある可能性はかなり高い。
しかし、こうなっていては諦めるしかなさそうだ。
下手に触れば、生き埋めになってしまう。
「ふんふん、綺麗な石ころ見つけるなの♪」
「次を探した方が早そうだ」
「ですね。気になっていたのですが、そんなに急いで地下空間を探す必要があるのでしょうか。今の場所でも十分にやれていますけど」
「たぶん僕が生きたまま落ちてきたことで、マオスは安全性に疑問を抱いたのだと思う。あの場所がいつまでも見つからずにあるとは限らないからね」
「なんだかアキトを利用しているようで申し訳ないです」
「僕はなんとも思ってないよ。マオスの判断は当然だし、僕も村の一員として役に立ちたかったからね」
それにこうして新婚旅行ができるのも、ある意味ではマオスのおかげだ。
きっかけがないと旅行なんてそうそうできないからね。
エミリが獣モードで坑道の壁を掘っている。
アマネが抱き上げれば、鼻先と前足が土にまみれていた。
「また服を脱ぎ捨てて、ダメですよ」
「ごめんなさいなの」
「それで綺麗な石は見つかりましたか?」
「まだ探してる途中なの」
「もう行きますから、顔を拭きましょうね」
「あう」
アマネがハンカチでエミリの鼻を拭く。
◇
店の前に四人の冒険者らしき集団がいた。
対応しているナナミは、頭を掻いてひどく不機嫌そうな顔。
「あ、帰ってきたっす」
「あの方々が蜜月組ですか――」
三つ編みをした女性が振り返った。
僕の心臓が強く収縮する。
一番見たくなかった顔だからだ。
「そこにいるのは、もしかしてアキト?」
「ジュリエッタ……」
そこにいたのはかつて僕が在籍していた『蒼ノ剣団』だった。
剣聖のジュリエッタ。
竜騎士のライ。
拳王のアイラ。
賢者のエマ。
なぜか四人の頭頂部がハゲている。
いや、今はそんなことどうでもいい。
ハゲなんてこの状況では些細なことだ。
「奈落に落としたはずなのに……どうやって」
「この通り生きているよ」
「どうして、どうして素直に死んでくれなかったの」
ジュリエッタが剣を抜く。
その言葉と行動に、僕はどうしようもなく悲しい気持ちになった。
君は、あの時のままなんだね。
もう昔の君はどこにもいないのか。
「なんだよ、てめぇ死んでなかったのか」
「ライ」
ジュリエッタを押し退けライが顔を見せる。
相変わらずニヤニヤしていて余裕たっぷりだ。
君は出会った時からずっと、自己中心的で周囲の都合を考えない人間だったね。
恨まない、なんて考えてたけど嘘だったよ。
奥底で渦巻く怒りが、あの日の痛みをこいつに味わわせろって囁いている。
「もしやこの方達が?」
「そうだよ。僕の前の仲間だ」
「なんだその女、めちゃくちゃ美味そうじゃないか。アキト、俺とお前の仲じゃないか、ちょと味見させろよ。なぁ」
僕は瞬時に剣を抜き、ライの喉元に突きつける。
「っつ!?」
彼は反応できず、状況を理解するのに三秒を要した。
そして、驚き共に一歩下がる。
「以前とは動きが違う……? どうなってんだ?」
「僕らに何の用だ」
「ちっ、まぁいい。王様がてめぇら蜜月組を捕まえろってお達しを出してんだよ。依頼のついでに探していたが、なんだ案外面白い話みたいだったな」
陛下が僕らを?
もしかしてS級遺物の件だろうか?
献上しただけで捕まるようなことはしていないと思うけど……それともそれが不味かったのか。
「何をしでかしたのかは知らねぇが、ここで取り押さえて、てめぇとガキだけ突き出せば最高に楽しいことになりそうだな」
「ねぇライ、新しい女を増やすのは気が進まないのだけれど」
「エマと同意見だ。三人で十分じゃないか」
「アキトもその女も殺すべきよ。それが一番」
「ごちゃごちゃうるせぇな! 俺の言うことを聞けねぇのか!」
ライは槍を抜いて戦闘の意思を露わにする。
対する僕は正眼に構えた。
ジュリエッタが剣を向ければ、アマネも槍を構える。
「アキト、大人しく死んで。貴方は私にとって邪魔でしかないの」
「これが旦那様の幼なじみですか。聞いていたよりもひどいですね」
「え、ただの仲間じゃないの?」
「私は妻です。もしかしてまだご結婚されてないのですか」
「くっ、アキトが結婚……あのアキトが私よりも先に幸せに。許さない」
遅れてアイラとエマが構え、エミリとナナミも構えた。
一触即発の緊張状態が形成され、それぞれがにらみ合う。
ライも先ほどの抜剣で、僕を警戒しているようだ。
腐っても竜騎士ということだろうか。
ズズン、地面が僅かに揺れ、街の端で白い土煙が昇る。
道に逃げ惑う人々が流れ込み、至る所から悲鳴が響いていた。
ライが男性を捕まえ声を荒げる。
「何が起きてやがる。おい、てめぇ説明しろ」
「ひぃ、魔族が、魔族が攻めてきたんだ!」
「魔族……だと? ちっ、行くぞ」
彼は舌打ちして、ジュリエッタ達とその場所へと向かう。
先日のゴラリオスの件もある。
無関係とは言えない。
ひとまず僕らも向かうことにした。
「どこだ蜜月組、再び力比べをしようではないか!」
「ここにいるのは分かってんのよ。大人しくアタイのペットになりな。三人ともじっくり可愛がってあげるからさ」
街を護る外壁の一部をぶち破って、ゴラリオスとアスファルツが侵入していた。
数日前に戦ったばかりなのに、もうやってくるなんて動きが性急だ。
おまけに位置までばれているなんて、魔族は油断ならない。
「おい、ゴラリオス、てめぇなんでここにいる!」
「これは想定外。まさかビルナスの英雄までいたとは。てっきりオーブの守護に向かっていると思っていたが」
「ヒューマンは足が遅いから、大方もたついてるところで重なっちまったじゃん。でも、ここで足止めしたら好都合ってことっしょ」
「俺を無視して、こそこそ話をしてんじゃねぇ!」
飛び出したライが二人に槍を振るう。
――が、矛先はゴラリオスの人差し指で止められていた。
「なっ!?」
「弱い。まるで成長していないではないか。これではまた、新たな毛をむしらねばならぬな。次はどこがいい?」
「ライ!」
「これが剣聖かい。まるで雑魚じゃん」
ジュリエッタの剣を、アスファルツが躱してみせる。
びしっ。
鞭がジュリエッタの手を打ち、剣が地面に落ちた。
だが、敵は笑みを浮かべたまま攻撃をしかけない。
「拾いなよ。抵抗してもらわないと気分が萎えるんだよ」
「剣聖の私が、なんて屈辱」
「ぶふっ、その頭でよく言えたよね」
「殺す!」