13話 剣聖と竜騎士の落ちて行く日々2
ビルナス王宮の謁見の間。
国王は玉座から厳しい眼を向ける。
「――オーブを砕かれたと?」
「申し訳ありません」
「…………ぶふっ、ぶふふ」
国王は、俺達を見て失笑した。
ジュリエッタやアイラは、顔を真っ赤にして恥ずかしさに震える。
俺は拳を握りしめ、怒りで血管が切れそうになった。
絶対に殺す、灼熱のゴラリオス。
「おほん、しかしすでに魔族が動いていたとは。オーブは残り三つ、なんとしてでも守りきらねばならん。貴殿達にはドルリジア国へと向かってもらう。そこでオーブの防衛をおこなうのだ」
「ですがドルリジアにも英雄が」
「協力要請があったのだ。すでに魔族がオーブを狙って攻め込んできているらしい。ドルリジアの戦力だけでは、守り切れないと判断したのだろう」
国王は続ける。
「加えて貴殿達にはS級遺物の試練に挑戦してもらう。知っての通り、我が国には二つのS級がある。いずれか、もしくは両方、を所有することができれば、流れを変える大きな戦力になるはず」
俺はほくそ笑む。
ようやくS級遺物を入手できる。
最高クラスの武器さえあれば、あんな魔族にいいようにされなかった。
さっさと渡せば良いものを、出し渋るからこんな結果になったんだ。
全部てめぇの責任だ、クソジジイ。
部屋に二つの武器が運び込まれた。
聖剣マスティア。
聖竜槍レイバーン。
白と金の神々しい外見に、俺の期待は膨らむ。
「ではジュリエッタ、其方から挑戦せよ」
「はい」
ジュリエッタが聖剣へと歩み寄る。
あいつが聖剣を手に入れるのはほぼ確実。
歴代剣聖はアレを使って数々の偉業を成し遂げてきたんだ。
間違いがなければあいつもその例に漏れない。
そんなことより俺だ。
早く、今すぐに、あの槍を、俺の物にしたい。
あれさえ手に入れれば世界最強。
邪神ですらクソ雑魚。
倒した俺は間違いなく生ける伝説となるだろう。
そして、歴代最強の竜騎士として歴史に名が刻まれる。
そうなれば金も女も地位も名誉も何もかもが欲しいがまま。
何をしてもおとがめなしだ。
愚民共をぶっ殺しても、家に火を付けても、目の前で家族を犯しても無罪放免。
最高じゃねぇか。
クソ共から何もかもを奪いたくてうずうずするぜ。
「聖剣マスティアよ、我が呼びかけに応えよ」
ジュリエッタの握った聖剣が輝き始める。
そのまばゆい光によって、ジュリエッタの頭頂部も輝いて見えた。
「あぐっ……これが、試練?」
試練が始まった。
S級遺物は所有する為に試練を受けなければならない。
そうでなければ真の力を発揮しないのだ。
だが、試練の内容は過酷。
運が悪ければ死、そうならなくとも大きなダメージを負う。
無事に手に入れるには所有者になるしかない。
「いぎっ!?」
突然、苦しみだした。
「あぎぃ、ひぎぃ、ふぐぅ、あぎぃいい!?」
ジュリエッタは、必死に剣を手放そうとするが離れない。
後ずさりして恐怖の表情を浮かべる。
玉座にいる国王が怪訝な表情となった。
騎士も兵士も全員が、彼女と聖剣に注視する。
「ああ、あああああ」
からん、聖剣はジュリエッタの手から滑り落ち、床に転がった。
ジュリエッタは白目を剥いて、ちょろちょろと床を濡らす。
そして、うつ伏せで倒れた。
失敗。不合格。
聖剣はジュリエッタを資格なしと判断した。
ちっ、役立たずが。
剣聖のくせに聖剣も手に入れられないのかよ。
兵士が状態を診る。
「ダメージはありますが、命に別状はありません」
「ならば安心だ。手に入れられなかったのは非常に残念だが、S級遺物とは相性もある。別の遺物で認められる可能性もゼロではない。彼女には次に期待していると伝えておけ。では次の者、試練を受けよ」
俺は槍を掴み、掲げた。
さぁ、ようやく俺の番が来たぞ。
結果は分かりきっている。
見ている奴らに教えてやれ、誰の物かと言うことを。
「聖竜槍レイバーンよ、我が呼びかけに応えよ」
直後に、激しい目眩と頭痛が襲う。
視界はゆがみ槍を持つ手がビリビリ痺れた。
どこからともなく声が聞こえる。
『汝は我を持つに値しない。失格』
「はぁ、ふざけん――」
んぎぃい!?
ぎゃぁぁあああ!??
電流のようなものが全身に駆け巡った。
耐えられない激痛。
かつて味わったことのない痛みだ。
だが、槍は手から離れない。
脳みそを焼かれているような感覚だ。
俺は、ようやく槍を手放し倒れた。
「ふひ、ふひひひひ」
体が痙攣して勝手に笑い声が出る。
じょろじょろと出てしまい、股間が濡れてしまった。
おがじい、ごんなばずでは……。
「その者を連れて行け」
「はっ」
兵士に引きずられて部屋を出た。
◇
ドルリジアへと向かう道中、俺達はほとんど言葉を交わさなかった。
試練の出来事は宮殿にいる全ての人間に知れ渡った。
今頃は王都中の人間が知っている頃だろう。
俺は、S級遺物に拒絶された。
これがどれほど頭にくる出来事か。
俺だぞ、不可能を可能にする竜騎士のライ様なんだぞ。
ぜってー諦めねぇ、必ず最強の武器を手に入れてやる。今回はたまたま上手くいかなかっただけだ。
俺こそが世界最強。
俺こそが頂点だ。
S級を所有するのも俺でなくてはいけない。
「もう最悪、きっと陛下に軽蔑されたわ」
「なに言ってる。ちょっと盛大に漏らしただけだろ」
「あの時のジュリエッタの顔、思い出したら傑作だわ」
「この頭といい、最近ついてない」
揺れる馬車の中で、ジュリエッタが溜め息を吐いている。
光が反射して眩しい。
俺もアイラもエマも目を細めた。
ちっ、あのクソ魔族。
俺の毛までむしり取りやがって。
とにかくゴラリオスさえ倒せば髪の毛は元に戻るんだ。
今度こそ俺が最強だと証明し、あの自慢だった髪を取り戻してやる。
それともう一つ、今回は他国の英雄との合同作戦だ。
外に格の違いを見せつけてやらねぇとな。
「其方達がビルナスの英雄達か」
俺達はドルリジア王宮の謁見の間で、国王に一礼する。
この場には、この国の三人の英雄も同席していた。
「精一杯協力させていただきます」
「うむ、剣聖らしく……じつに凜々しい。頼りにしているぞ」
「早速本題なのですが、魔族はどこまで侵入を?」
「すでに国境を越えている。オーブの収めている神殿に攻め込まれるのも時間の問題だ」
国王は「詳細はそこの三人に聞くといい」と丸投げする。
リーダーらしき金長髪の男が、俺達に一礼する。
「必ずオーブを守り抜きましょう」
「こちらこそよろしく」
はっ、弱そうな奴だ。
せいぜい俺の強さを拝ませてやろうじゃないか。
よくみりゃ、あのシーフなかなかいい体してやがる。
ついでにあの女を寝取ってやってもいいな。
強引に一発やれば、すぐに俺のものだ。
「ところで君達の武器は、S級遺物じゃないのかい?」
「その言い方、まさかてめぇは」
「貴国の聖剣や聖竜槍ほどじゃないが、強力な遺物を僕も授かっているんだ」
腰には聖剣と似たデザインの剣があった。
俺は歯噛みする。
こんな奴が手に入れられて、どうして俺が弾かれる。
良い気分だったのが、いきなり最悪だ。
寝取りはやめだ。
こいつを戦いの最中ぶっ殺す。
自慢気にS級遺物をちらつかせる奴には、俺による天罰をくださねぇとな。