11話 遺跡の街で思い出作り2
「けほっけほっ、ずいぶんと埃臭いですね」
「あまり人が来ない場所だかららね。一気に五十階層まで行くよ」
僕達は橋から飛び降り下の橋へ着地。
また橋から飛び降り、五十階層の床に着地した。
五十階層はほとんど手つかずな為か、瓦礫が散乱し、歩くだけで大量の埃が舞い上がる。
他にも上から落ちてきたゴミなどが大量にあった。
上の階層と違い、非常に薄暗く空気がピリピリしている。
それでいてどんよりとした雰囲気があった。
「グルルル」
「ガルゥ」
「シャァァ」
瓦礫の陰からぞろぞろ魔物が現れる。
イエロースパイダー。
レッドスケルトン。
デスバブルジェル。
グレートマウス。
「アマネは見てて」
「はい」
剣を抜き、強く地面を蹴る。
僕は瓦礫を足場にして、空中を何度も駆け抜けた。
ずさぁ、滑るようにして足を止めれば、魔物は全滅していた。
「さすがですアキト」
「アクロバティックな動きは初めてだったけど、そこまで難しくはなかったよ」
二人で素材を集める。
あと、食べられそうな肉も集める。
不味そうに見えて、実は美味かったりするんだよな。
「最下層なら、なにかあると思ったんだけど」
五十階層は他のフロアと比べると、損壊がひどい。
空中遺跡が地上に落ちた際、地下ダンジョンのある部分は地面に埋まってしまったそうだ。
そのせいで最下層のあるここは、モロに衝撃を受けてしまった、らしい。
ここに人が来ないのは、危険な魔物が多いから、という理由の他に袋小路が多いからだとか。
僕らはともかく、その他の冒険者にとってここは死と隣り合わせなのである。
「これは使えそうですね」
「リュックか。質も良さそうだし、劣化も少ない。中も――あれ」
中に手を入れてみれば、ずいぶんと広く感じた。
というか明らかに、見た目のサイズと収納スペースが合っていない。
もしやこれは希に出てくる遺物。
ストレージバッグなのでは。
「アキト、こちらにもリュックがありました」
「ストレージバッグが二つ、デカい収穫物だぞ」
リュック一つで、リュック三つ分。
二つあるから六つ分だ。
これで荷物が増えても気にしなくて済む。
「どうやって見つけたんだい」
「瓦礫をひっくり返したらありましたよ?」
なるほど、瓦礫の下か。
他の奴らだと持ち上げられない瓦礫でも、僕達なら簡単に移動させられる。
てことで片っ端から瓦礫をひっくり返す。
「ありました!」
「こっちもあったよ」
それぞれの物を見せ合う。
アマネの見つけた物は、向こう側が透けて見える薄い長めの布。
僕は抱えられないほど大きな金属の筒だった。
「見てください、落下速度が緩やかになりましたよ。それに移動もできます」
「へぇ、じゃあ空中で攻撃されてもすぐに反応できそうだね」
アマネは衣を纏い、ふわりと横に移動しながら着地した。
見た目も良いしかなり使えそうだ。
次は金属の筒だ。
僕らはそれに首を傾げる。
「どうやって開けるんだろう」
「ここが押せそうですね」
「ほんとだ」
赤いでっぱりを押してみる。
ピピピ。
金属の筒から音が鳴り、蓋のような物がひとりでに開き始めた。
「子供??」
中に入っていたのは、丸まって眠る裸の女の子だった。
腰まである長いブロンドの髪に、頭部には丸く小さな茶色い獣耳があった。
さらにお尻からはふわふわの大きな尻尾が出ている。
ビースト族なのだろうが、どこの部族なのか見当が付かない。
少なくとも僕の記憶にはない獣人だ。
抱きかかえて持ち上げる。
「……ん」
「ちゃんと生きてるよ」
「待っててください、すぐに布を」
アマネが毛布を取り出し少女の体にかける。
歳は6歳程度。
容姿は非常に愛らしい。
とりあえず床に置いて、僕とアマネは話し合う。
「やっぱり古代人の子供だろうか」
「かつてこんなことは?」
「いや、聞いたこともない。初めてのことだよ」
遺跡から生きた人間が出てくるなど、普通ではあり得ない。
国に知らせるべきか。
だが、たぶん渡せばこの子は、一生檻の中で過ごすことになるかもしれない。
なんせ前例のない生きた古代人なんだ。
とてもではないが、あっさり解放してくれるとは思えない。
そのことをアマネに伝えると、彼女は表情を変えた。
「そんなのあんまりじゃないですか。この子にも自由に、この世界を謳歌する権利があるはずです」
「僕もそう思う」
僕もアマネも答えは出ていた。
この子を目覚めさせたのは、僕なんだ。
僕にはこの子を導く責任がある。
せめて安心して生活できる家族と家を見つけてあげないと。
アマネがそっと手を握る。
「私達は夫婦です。二人でなんとかしましょ」
「ありがとう」
ぱち。
女の子が目を覚ます。
「ここ……どこ……なの?」
「おはよう」
「だれ?」
とろーんとした眼で、僕とアマネを観察する。
「なにか覚えていることは?」
「ないの」
女の子はぶんぶん首を横に振る。
つまり記憶がない?
困ったな。
「名前は?」
「しらないの」
「少しでも思い出せることはないか」
「なんにも覚えてないの」
少女は不安そうな表情となる。
次第に唇をかみしめ、大きな目がうるうるし始めた。
不味い、泣きそうだ。
どうしようアマネ。
「よしよし、怖くないからね」
「ぐすっ」
アマネが抱きしめて頭を撫でる。
少女は恐る恐る彼女の背中に腕を回し、抱きしめた。
すると茶色い大きな尻尾がぱたぱた揺れた。
泣きそうだった顔は安心したように緩み、アマネの腕の中でしきりに匂いを嗅ぐ。
「ママ」
「え」
「ママ!」
「アキト……」
アマネが不安そうな顔で僕を見た。
少女は僕を指さす。
「パパ!」
「僕?」
「そう、パパ!」
パパって、まぁいいか。
今は彼女の好きなように呼ばせよう。
とりあえず名前からどうにかしないとな。
「よし、君はエミリだ」
「良い名前ですね。あなたは今日からエミリですよ」
「エミリなの! エミリ!」
エミリは立ち上がって裸で走り回る。
その動きは子供とは思えないほど速く身軽だ。
彼女が突然、ボフンと煙に包まれる。
「「えぇ!?」」
煙の中から現れたのは、茶色い獣。
つぶらな瞳に、目元には垂れ目っぽい模様があった。
全体的にふっくらしていてもふもふしている。
「エミリ、なのか?」
「そうなの」
エミリは獣状態で走り回り、僕らの元へ戻ってくると、しきりに顔をペロペロなめる。
犬のようにも見えるが、なんとなく違う気もする。
そんなことよりどうなってるんだ。
ビースト族が変身するなんて聞いたことがない。
もしやこれが古代人の力なのか。
それともエミリが有するスキルの効果とか。
「すごくもふもふしてて気持ち良いですね」
「ぐえ、なの」
エミリを抱きかかえたアマネが、すやぁと眠りに落ちた。