10話 遺跡の街で思い出作り1
日間総合4位に日間ハイファン3位にあがりました!
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街を出て二日が経過。
僕達は森の中を通っていた。
「地上はとても広いですね。壁が見えません」
「果てを確認した人がいないからね。どうなってるのかは分からないよ」
「つまり果てがない?」
「さぁ、そこまでは」
ゆっくりのんびり進む。
日が差し込むここは気持ちが良い。
時々、小鳥がいて心地よい鳴き声を聞くことができる。
するとアマネがうさ耳をピコピコさせて、すっと左手を右手で掴んだ。
「アキト、大好きです」
「どうしたの急に」
「こうして触れながら気持ちを伝えられるのは幸せだなと」
幸せそうな彼女の表情を見ると、僕も幸せな気持ちになる。
ただ、まだ僕も彼女も手を繋ぐのはぎこちない。
できれば次は僕から手を繋いでみたいな。
「僕も大好きだ」
「ふふ、恥ずかしいです」
アマネが顔を赤くするので、僕も顔が熱くなった。
ウチの嫁は可愛すぎる。
時々心臓が破裂しないか心配になるくらいだ。
「あれが空中遺跡の街ですか」
「そう、パーラだ」
道の先にあるのは巨大な構造物。
サイズの違う円盤をいくつも積み重ねたような形をしている。
あれは大昔の空中遺跡が地上に落ち、その遺跡を利用して造った街だ。
空中遺跡は一つだけじゃなく、今もいくつか空を飛んでいる。
ちなみに稼働している遺跡はバリアのようなものが張られ、ワイバーンでも近づくことができないそうだ。
空中遺跡の街パーラでは、今も遺物が発見されているらしく、一攫千金を求めて冒険者が集まっている。
かつて僕もジュリエッタと共に、遺跡ダンジョンに挑戦したことがある。
「早く、早く」
「街は逃げていかないよ」
アマネが好奇心全開で、僕の手を引く。
街の中へ入ると、賑わう大通りが眼に入った。
店先では使い方の分からない遺物が大量に売られ、大勢の客が買っていた。
「あれはなんでしょうか!」
「声を遠くに届ける遺物だね」
「こっちは!?」
「冷たい風が出る遺物」
「向こうは!?」
「えーっと、魔力で走る車だったかな」
ここにあるものは全て、失われし知識と技術で作られている。
遺物とは、その大部分が現代では再現不可能なのである。
なぜ失われたのか、理由は未だはっきりとしていないが、僕達はぼんやりと邪神のせいだと考えている。
たぶん古代文明を滅ぼしたのは邪神なのだ。
「これ、素敵ですね」
アマネがとある商品を指さす。
それは女性用の防具一式だった。
装飾が施され質も良さそうな印象を受ける。
ただ、サイズがずいぶんと小さく、アマネほどの細さでないとつけられない感じだ。
その隣には同じデザインの男性用の防具一式があり、こっちは誰でもつけられそうだが、売れ残っているところをみるにかなり高いのだろう。
「おじさん、これとこれいくら?」
「400万と600万」
「高いな」
「そりゃあそうさ。どっちも古代の上位戦士の防具だ。軽くて丈夫で見た目も良いとくりゃあ、安くは手に入れられんよ」
アマネとバトンタッチ。
「おじさま、合わせて100万ほど安くしていただけないでしょうか」
「でもなぁ」
「お願いします。ここの方はとてもお優しいとお聞きしました」
「よし、売った」
店のおじさんは、さらりとアマネに流されて値下げしてしまった。
アマネほどの美女にお願いされては断り切れないだろう。
もちろん早々に値下げしたおじさんも商売上手だ。
気分が良くなった僕達に、別の商品を勧め始める。
結局、三点購入することになった。
さっそく防具を装着する。
どうやら遺物の防具にサイズはあまり関係ないようで、装備すると勝手に体に合わせて調整してくれる。
「驚いた、すごく軽い」
「さりげなく小物入れがあるのもいいですね」
良い買い物をした。
このフィット感は普通の防具では得られない。
おまけにアマネとお揃いだ。
◇
僕達は適当な食事処に入り夕食をとる。
この街の食事処はどこもボリューミーで美味しい。
冒険者は大食いだから、自然とこうなったのだろう。
一人分のはずなのに三人前はありそうなパスタの山。
まぁ、僕もアマネも結構食うので、ちょうど良いくらいだが。
「ここでは観光だけですか?」
「いや、せっかくだし地下ダンジョンに挑もうかと思ってる。わざわざ買うより、自分で掘り出し物を見つけた方がいいかなと思って」
「それは名案ですね。実は地下ダンジョンに興味があったんです」
地下探索にアマネは乗り気だ。
空中遺跡の街パーラには、地下ダンジョンが存在する。
もともとそういう風に造られていたのか、たまたまそうなったのかは定かではない。
複雑な入り組んだ迷路のような遺跡内部では、魔物が住み着き、今なお冒険者によって遺跡が発掘されている。
「――実はかつてここでとんでもない物が発見された。一つあれば二つ目もあると考えるのが人、それ以来多くの人によって探索が行われているんだ」
「そのとんでもない物とは?」
「S級遺物」
S級遺物とは、その他の遺物とは一線を画す桁違いの性能を秘めた物。
現在確認されているのは六つ。
それらはいずれも国家が所有し、厳重な管理によって保管されている。
「S級遺物……聖剣や聖槍と呼ばれる品々ですね」
「そう、だから血眼になって探しているんだ。売れば億万長者だからね。一攫千金も夢じゃない」
「でも、これだけ探して見つからないとなれば、もうないのではないのでは?」
「その可能性もあるだろうね。でも夢があるだろ?」
本当は遺物なんてどうだっていいんだ。
彼女との冒険の思い出を作ることが目的なんだからさ。
二人で得た遺物が思い出の品になればいいかな、なんてくらいの考えだ。
「さっそく明日、行ってみようか」
「はいっ」
翌日の朝。
気温もまだ低い時刻。
僕らは、広場にある入り口から内部へと進入した。
迷路のような石造りの通路を進み続ける。
「時々見る看板のような物はなんでしょうか」
「あれは大昔の案内らしい。えーっと、この先に医療用の部屋があるそうだ」
ぱらぱら、本をめくりながら解読する。
この本は古代文字の読み方が書かれた書物だ。
街の書店で購入してみたのだが、まだまだ勉強中である。
どうして今になって勉強を始めたのかと言えば、この旅行で役に立つかと考えたからだ。
それに昔から、古代文明にはときめきを感じていた。
ジュリエッタはそういうの、まったく興味なかったから、こうしてきちんと触れる機会も少なかったのだが、今は好きなだけ調べることができる。
「いにしえの時代の建造物、わくわくしますね」
「だよね。するよね」
「はい。かつてここに人が暮らしていたと思うとロマンがあります」
「ううっ、なんだか涙が出そうだ」
「?」
「ブギィイ!」
お、さっそくスモウオークのお出ましだ。
剣を抜こうとすると、先にアマネが出て三連突きを喰らわせる。
敵は頭部、胸、腹に三つの穴が開けられ、倒れた。
「やっぱり竜姫だと余裕か」
「油断は禁物です」
「だな」
僕は手早く素材を剥ぎ取る。
ここの魔物はそこそこ強いので、売ればいい金になる。
まだ2億以上金はあるが、できる限り使わないつもりだ。
旅は何があるか分からない。
突然、大金が必要になることだってある。
その後、僕達は広い空間へと出た。
「ずいぶんと深いですね」
アマネが手すりから下をのぞき込む。
ここはダンジョンの中心にある、巨大な吹き抜けだ。
各層をぶった切るようにして深い峡谷があり、無数に橋が架かっている。
下を見ると各層が縞々模様に見える。
あの一つ一つに広いエリアがあり、今もなお遺物が発掘されているのだ。
「あの人達は何をしているのですか?」
「集めた遺物を上げているんだ。各フロアにはアレを使って下りる」
谷を上下する複数の大きな籠。
籠はロープで吊されていて、強力な巻き取りができる遺物によって、吹き抜けを素早く移動していた。
アレを使わなくても階段はあるのだが、なんせ遠回りだ。
吹き抜けを通り抜ける方が移動は早い。
僕は空いている籠を見つけ、金を払う。
「何階までだ?」
「そうだな……五十階層まで頼む」
「最下層ねぇ、悪いがあの辺りは魔物が強すぎて、手前の四十八階層までしか送ってやれない」
「それでいいよ」
籠はするする降り始めた。
アマネは、下をのぞき込んだり通り過ぎるフロアを眺める。
搭乗者がランタンで上に信号を送れば、籠はぴたりと止まった。
「籠を呼ぶ時は三回明かりを点滅してくれ。じゃ」
籠は上がっていった。