<第58話> N°8(ナンバーエイト)
四方エイジ、通称エイちゃんは僕がカドガウラからジョウホクに移動して間もないころに出会った少年だ。住むところもなく炎天下の日中に熱気のあまり先が見えなくなったアスファルト道路を下を向きながら歩いていた。一面誰かが許可なく捨てたゴミばかり、ちゃんと処理もされてないので目の前を通ると毒物のような危険な臭いがする。首元に汗が流れ落ち白いシャツが黄ばんできたころ鼻を抑えながら左に見上げると、、、
「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた看板が破壊されていてその奥にドラム缶から火を噴きだす様子を眺めている人がいた。それ以外にどこから引っ張ってきたか分からない水で洗濯をする子連れの母親。ゴミとゴミの隙間を行き来するたくさんの人。トタンで出来た家で暮らす人々。立ち入り禁止にも関わらずそこにはゴキブリのように勝手に住み着く人々がたくさんいたのだ。
僕はその先が気になってグニャグニャに曲げられたフェンスをまたいで超え事実上「第4ゴミ処理場」の中に入った。中央部にはゴミとゴミを積み重ねたドーム状の建物がある。そこが一番栄えていたのでとりあえずそこへ向かってみることにした。
中に入るとガラクタを積み重ねた壁にどこから引っ張てきたか分からない電気によって輝くネオン。どこで使うか分からない部品やこの辺では珍しい魚などは高額で取引される、いわゆる「闇市場」と言われる場所だ。
「おい!ガキがうちの店に来るな!金が無いなら帰るんだな!」
「そこは何とか!45円でパンを1つでいいんで!!」
「懲りないやつだな!金のないやつは働き手を見つけるか諦めて死ね!」
大柄の男に服をつまみ出され追い出される少年。彼は少年を通りに思いっきり投げだした。
「おい!お前もこいつの仲間か!ガキは二度と来るなよ!」
下を向いた少年はボソッとつぶやき始めた。僕はピクリとも動かず少年の頭をじっと見つめている。
「、、、情けないだろ??でもこうするしかないんだ、、、ガキだと生活する金は稼げないんだよ!」
「、、、」
僕は苦しみながら上げる彼の訴えに何も返答することができない。この姿を見て僕の近い将来が容易に想像できるからだ。
「あざ笑えよこの姿!、、、俺はこうやって人知れず死んでいくんだ!お前には分かるわけないだろ、、、その服を見ればお前良いところの育ちだな!!」
「分かるよ君の気持ち!僕の親は昨日死んだ!多分僕もここで暮らすことになる、、、」
僕は少年の着ている油汚れで黒く染まった元白いシャツに触れ彼の体を胸いっぱいに抱きしめた。彼の顔を覗き込むように顎を上に持ち上げる。その表情は涙と油汚れでぐちゃぐちゃになっていた。彼の表情そのものがジョウホクという世界のカオスさを表現しているとも思っていた。
二人はドームの外へ行き商店街外れの鉄骨で作った公園みたいな広場でどこから拾ってきたか分からない木材を組み合わせたベンチに座って詳しい事情を聴いた。
「俺の名前はエイジ、もうここで暮らして2年になる。両親はもういないよ、、、君は??」
「僕は三木ハルト、元々カドガウラに住んでたけれどここに逃げてきた。両親はその時に死んだ。ここに来て2日目かな、、、」
お互いこれからどう生きていくのか露頭に迷っていたのでその辺りで意気投合していろいろ語り合った。よくよく聞いてみると彼は僕と同年齢。なのに彼はこの年齢でバイクを乗り回しているらしい。だけど体格にあってないのかよく転倒してその都度大泣きしているらしい。二人の息はとてもピッタリなので日が沈みかけていることにも気づかず話していた。
「これからどうしようかなぁ、、、ミキいい考えある??」
「んー2人でちゃんと働く場所探すのはどう??」
「、、、それ最初やろうと思ったけどこの辺りの雇用全部回ったけど落ちたわ!」
「そっか、、、」
将来について考えていると二人は結論を出せずに行き詰ってしまった。僕の出す案のほとんどはエイジがやっていて失敗しているものだった。すると目の前にさっと黒い猫が通る!
「ん!!何だよ!、、、猫かよ、驚かせないでくれ」
その猫は鮮度の高い魚を口にくわえ奥にいる子猫たちに魚を分け与えた。魚をくわえていた親猫は子猫に魚を分け与えたのにも関わらず一口も食べようとしない。しかもこの辺に魚が取れる綺麗な水なんてないのでこの魚はどこから持ってきたのだろうか?
僕はその様子を見てひらめいてしまった。それは悪の行動だと知っていても生きるためにと理由づけ歯止めが利かなくなってしまっている。
「エイちゃん、、、良い考えを思いついた。あの猫のようにこっそり市場に入ってちょっとだけ盗むのはどうよ??」
「ミキ!それはマズいって!さすがに盗むのは!!」
「盗むのは悪いことなのは分かってる!!だけどもうこれしか方法はないと思う。このまま餓死するのと泥棒として長い人生を生きる。選ぶならどっちにするんだよ!僕は絶対に泥棒を選ぶ。エイジならどうする?」
「落ち着けよ、、、他に方法はまだあるって、、、」
「じゃああるのかよ!エイちゃん言ってみてよ!」
「、、、ねぇよ」
「なぁ、、、これしか方法ないと思う。僕たち二人は泥棒になる運命なんだよエイちゃん、、、」
「、、、、分かったよ。だけど仕事みつかったらもう泥棒辞めよう」
こうして二人は8番街の小さな広場で泥棒になることを誓った。結成場所の8番街の名前を取って2人から構成される盗賊集団の名前は「N°8(ナンバーエイト)」と名付けられた。




