<第40話> 文武両道
白石さんの教える国語はエリザベスとは違って丁寧で一つ一つ細かく分かりやすく教えてくれる。そして板書がきれい。黒板を押さえつけるように書かれた濃い字は非常に見やすく薄くて何かいてあるか分からないエリザベスより授業の質は間違いなく高い。一層国語担当は白石さんでいいと思った。エリザベスはめちゃくちゃ雑な人だから指揮官としてはとても尊敬するが教師として向いてはいないと思った。
「はい。今日の授業は終わりー。次は明後日ねー」
白石さんの国語が終わった。今回はいろいろあったが1時間近く白石さんの顔を眺めてられるこの時間は最高としか言い表せない。今日1日頑張れるパワーを貰った。
「はぁ?つまんねぇな白石となんかあればよかったのに」
佐倉カイセイが僕に冷やかしを入れる。佐倉カイセイは僕に不幸があるたびにこうやって煽ってくる。これ以上やるとお前が言い返せなくなるほどいじり倒してやるからな。
「佐倉カイセイって白石先生に当たり強くない??」
「あ?俺はあいつが嫌いなんだよ!」
「どうして??君に危害を加えるような人には見えないけど??」
「ああいうあっちに良い顔こっちに良い顔するお節介女が大っ嫌いなんだよ。あと普通に顔が無理」
なんだこいつ。しかし前文の言ってる意味は分かる。白石さんは少し八方美人なところはある。実際にみんなから好かれたいみたいな雰囲気出しているし。まぁ先生だから仕方ないんじゃないと思う。ていうかそれは河野ちゃんも似たところあると思うが??じゃあ逆にナナミみたいな態度とるやつは自尊心高いやつは嫌いって言うんだろ!これだから噂通り女子から人気あっても付き合うやつがいないのも少しわかる。後文の顔についてはもはや分からない。あれほど美人なのに無理って誰がタイプなんだよ。
佐倉カイセイとは話にならない。センスや好みがかみ合うことが一切ないし彼とわかりある日はいつ来るのだろうか。
そういえばテストについての発表があった。7月21日に学期末テストがあって国語、数学、理科、社会、英語の5科目それぞれ100点満点。出題傾向は前期の範囲全てだ。、、、とは言ってもその日はちょうど僕の継続契約か除隊かを決められる日だ、、、テストの点数を競うと約束したナナミには申し訳ないがそれは今度にしてもらおう。正直除隊の方が重要である。今回テストは捨てるか、、、
「ナナミー。勝負は今度にできないか?すまんな!テストよりもバーテックス勝たないと、、、」
「私が知らないと思った?さすがにミッキーが攻撃手引退はさみしいよー!テストはいいからバーテックス公式戦で絶対に1勝して!!絶対ね!!」
僕から処分について説明しなくても情報はアブトル中に広まっておりみんな僕がピンチだってことを知っている。だからこそみんなは僕が目の前を通るたび「応援してる」とそっと肩を押してくれる。絶対に1勝しなければ!たくさんの人がそう願ってる。今度は僕が皆の期待に応える番だ!!誰かのために、、、いやみんなのために!!
放課後学校に併設している自習室で第1種免許の過去問を解き始める。始めて3日目とりあえず黙読で全頁読破して2週目右ページに書いてある解説を見ずに順番に解き続ける。それが終われば答え合わせだ。だいたい50問中26問ざっと半分ってところかこの参考書で8割取らないと合格はきつい。
過去問の中に一つ気になる問題がある。「第75問 ABDの使用者は稀に人間の感覚を超越した特殊能力を開花させることがる。それをなんと言うか。答え:シックスセンス」
これはどういうことか??僕にはそういう能力あるのか?この問題だけイマイチぱっとしない。周りから聞いたことないしどんなものか感じたことない、、、後で詳しくシックスセンスについて白石さんに聞いて見ようと思う。
気づいたら左にはアオイがいた。彼女も同じように第1種免許の過去問を広げ漢字辞典片手に文字にフリガナを上に書きながら問題を解いている。話しかけないでそっとしておこう。
今日でドクターストップ最終日。明日から地下3階の演習ルームでレプリカと戦える。もう少しの辛抱だ。勉強は面白くないし飽きる。正隊員になるためだここを耐えなきゃ!
夜8時に学校閉まる。その後人気のいなくなったアブトルの個人ルームへ移動して閉館10時半まで過去問と睨めっこする。覚えることが多すぎて頭を抱えることもあった。アブトルを出るころには精神的にも体力的にも疲れ果てフラフラと歩道で左右に体を揺らしながら自宅に戻った。
「ただいま、、、」
「ハルト君お帰り!!」
汗だくのままソファにダイブする。疲れた後のソファは柔らかくて気持ちいい。テーブルにはご飯が乗ってるみたいだ。すぐさまソファから転がり落ちて「いただきます」の挨拶。きちんとした姿勢にうすぁり直して白石さんと対面しながら食事を始めた。
「はあ、、、本当危機一髪だったわ、、、マジで私たちの共同生活終わったと思ったー」
「白石さん。どうして僕の弁当と入ってる食べ物違かったんですか??」
「ハルト君に言ってなかったよね。今ダイエットしててお昼は野菜をメインにしているんだー。本当危なかったー」
「子供たち意外と勘がいいのね。最終手段に強引に黙らせる考えもあったけど私はエリザベス先生みたいに評判落としたくないし、、、こんなんで済んでよかった」
白石さんのグラスにはお酒が、、、今日は相当ストレス溜まってるのかな?
「白石さん。シックスセンスって知ってます??どういうのか教えてくれませんか?」
「シックスセンス??佐倉君とかは自分の命が危なくなるとすごく逃げ足が速くなるんだよ!河野さんならジュウシンの気配が感じ取れるよ。山崎さんなら、、、相手を見てどれくらいの強さか大雑把に理解できるとか、、、凄い能力というよりかはいつの間にか使えるようになってたパターンが多いような気がする。ハルト君にもそういう経験ある??」
「、、、、んあんまりないですね」
「そっかーシックスセンス目覚めるといいね!」
今日のハンバーグ相変わらずおいしい。ごちそうさまの挨拶すると、、、
「はるとく~ん。ここをうまくきりぬけて~そういいかんじ~そのまま、、、いいね!!」
白石さんはお酒がとても弱い。自分でも分かってるはずなのにどうして飲んじゃうのかな、、、
「よいしょ!!」
白石さんは誰もが認める華奢な体とは言え普通の大人の女性。重い、、、しかも僕の肩で意味不明の言葉をつぶやいている。白石さんのお風呂と着替えはいいや。そのまま寝室へ運ぼう。
「はるとく~ん。けっこうやさしいところあるじゃ~ん。おねえさんほんきできゅんとしちゃう~な」
こんなの飲み会で言った途端一瞬で共同生活は終わる。一番本人が気を付けないとうっかり自滅する。家の中ではいいけど外では絶対にお酒を飲んじゃいけない。目が覚めてから後悔しても遅い。
「白石さん!!そのままおやすみなさい!!!」
「これおわったらげ~むしよ~ね。おねえさんぜったいにまけないからあ」
毛布を掛けて寝室の電気を消した。後で録音した酔っぱらい白石さんの様子朝にでも見せようかな。自分で自分のことドン引きするかもね。
「えぇ!!!!昨日私こんなこと言ってたの!!!!」
予想通りドン引きした。無かったことにしてとか言われたけど紛れもなく事実だ。これには僕も心に鬼にして
「家では良いですけど。絶対に外でお酒飲まないでくださいね。約束破ったらゲーム1週間禁止とかどうですか??」
「それは困る!!!外では飲まないように気を付けます!!」
早朝から大騒ぎしている。さすがに近所迷惑だろう。今日は朝練があるからいつものルーティン身支度を整えて弁当確認し制服に着替えて家を出よう。
今日から演習ルームで練習できる!前からインストールしといた奥田ミヤビの戦闘データをレプリカにインプットさせて練習開始だ。奥田ミヤビは佐野カイセイと違って素早い動きは最初してこない。最初は防御態勢を主軸に時々チャンス伺いにカウンターを仕掛ける。さすが正隊員とあって序盤に倒すことは難しい。できればクライマックス「エネルギーエミッション」は彼のスロースタートが全開放される前、中盤には倒しておきたい。口で言うのは簡単だが相手もあの手この手で攻撃を阻止していく。そして最も厄介なのは彼のクライマックス「ニューディール」は時間経過のパワーアップを巻き戻すことで自分のエネルギーと体力を回復するという完全なる遅延技だ。それで彼のペースに持っていくことで後半パワーで削りきる。このことから「ペースクラッシャー」と言われている。今日もレプリカと何十試合を重ねて結果は全敗。まだ体も慣れたないことだし仕方ない。
残り1週間ちょっと、奥田ミヤビの完全攻略と第1種免許の勉強頑張んなきゃ。僕は意外と勉強と戦闘の両立は大変だなと感じた。




