<第35話> 穏やかな日々
「、、、もうハルト君!安静にしてなきゃダメでしょ!!」
「すいません、、、」
僕は苦しい痛みを抱えながら白石さんの肩を借りてなんとか立ち上がる。元あるベットに戻り体を横にした。
「白石さん、、、今日は学校はありますよね?」
「ハルト君の意識が回復したって聞いたから職員室から駆け付けたんだよー。この後授業も無いし今日だけはずっとハルト君と一緒に居てもいいかなー」
「、、、そうだった!ちょっと買い物してくるね!ゆっくりしてなよー!」
白石さんは何かを思いついたようで白い部屋の扉を開けてどこかへ向かっていった。
1時間後、、、僕は白石さんが帰ってくるまで体を動かすことすら出来ないので眠くもないのに目をつぶりこれからのことについて考えてた。勝てば正隊員、負ければクビか、、、考えれば考えるほど辛くなっていく。天地の差くらい変わってしまう人生のターニングポイントが1分1秒刻刻と迫っている中この先の未来が不安でしかない、、、あと看護師から昼ご飯出されたけど味が薄すぎてこんなの人間が食べる料理じゃない。白石さんの料理で舌が肥えたのが原因で不味いという感覚を少しづつ覚えてしまった。
「ハルト君持ってきたよー第1種免許の過去問!あとハルト君絶対病院の料理美味しくないって言うと思うから料理も作ってきましたー!」
弁当箱の中身は炒飯と手作り餃子だった。もーーーーたまらん!!美味いこれこそ求めたご飯よ!!
「ハルト君もぉー顔が美味しいって言ってるよー」
スプーンや箸が止まることなく進んでいきあっという間に弁当の中身を空にした。ごちそうさまでした。
白石さんは学校で作業があるらしいので部屋一人で過ごす。白石さんに持ってきてもらった第1種免許の過去問を広げ4択問題をひたすら答えていく。内容は比較的に当たり前の問題のもあるABDの各部分の名称や使い方はバーテックスやってれば自然と身に着くしジュウシンの名前とか習性はテキスト見ればある程度分かってくる。今の課題としてはアブトルや正隊員に定められた細かいルールやバーテックス公式戦での禁止事項や規定などの細かくてついつい見落としてしまう問題は頻繁に間違える。こういう細かいことは全部白石さんに任せきりだったから全然分からないのも当然だ。動けない合間にしっかり勉強しなきゃ
ガラガラガラ!
「ミッキー!心配したんだよ!!」
「ミキ君!おはようー」
「ミキ。退屈そうだな」
1801小隊の3人が僕の見舞いにやって来た。今日も通常通り学校があったらしくて授業終わった瞬間みんなでここに来てくれたみたいだ。河野ちゃんから今日の授業分のプリントを貰って少しの間どうでもいい話を交わした。
「ミッキー学校いつ来るの??」
「明日には行けそうだよー」
「本当に!!明日学校で会おうね!!」
3人もそれぞれアブトルでやることがあるらしい。僕は彼と彼女らに「じゃあな」と手を振り3人が扉を閉めるまで暖かく見送った。その5分後くらいにも竹下が見舞いに来てくれた。彼曰く僕と一緒に練習したくてウズウズしているようだ。僕は竹下と一緒に練習することを約束してその後彼もアブトルで用事があることを伝えそちらへ向かっていった。みんな僕のこと心配してくれていてここに来れば悪い顔一つも見せず僕に楽しくなる話を持ち掛けて雰囲気を和やかにしていく。この状況は以前住んでいたジョウホクではありえなかったことである。ミカサに引っ越してきて僕が心の底から友達と言える人がたくさんできた。これが最近僕が手に入れた幸せである。
その日の夜も第1種免許の過去問を広げ左ページで問題を回答しながら右ページの解説を熟読する作業を繰り返す。後半は問題の難易度が上がっていき僕の知識だけじゃ解答できない問題が増えてくる。特に隊員同士の手話を用いた伝達方法や地形構造を生かした戦術の立て方や力学の問題とかは物理が分からないのですごく難しい。本を読んでいくうちだんだん眠くなっていき集中力が持続しなくなっていく、、、僕はそのまま毛布をかけずにベットで寝てしまった。
朝、白石さんと一緒に診察室に入って医師の診断を元にレントゲン撮影や健康状態を隅々まで調べられる。その結果はあと数日もすれば痛みは消え今まで通り生活することができると下されて今日退院が決定した。よし家に帰れるぞ!白石さん曰く僕のABDや戦闘服はアブトルが全て大切に保管しているらしい。僕は白石さんが持ってきた替えの洋服に着替えて荷物をバックに詰めこんで病院から離れていった。
「ハルト君。遅刻して学校行く?」
「はい行きたいです!!」
アジサイの葉っぱに乗っかっている透明の雫は眩しいくらいに差し込む朝日を反射してダイヤモンドのように遠くから輝いて見える。地面のアスファルトは昨日の夜の雨によってか蒸していて下からスチームのようにもわもわと上へ熱気が漂う。今は梅雨入り、植物の多いこの地域では雨の存在によってもともと美しい植物がさらに引き立つことがある。ジョウホクにいた時はあれほど雨が嫌いだったのにこっちに来てから雨の印象はガラリと変わり最近は好きになりつつある。僕と白石さんは美しい並木道をたった2人だけで歩いて行き中学校へ向かっていく
白石さんとは昇降口で別れて授業中で静寂とした廊下を音を立てず歩いていく。3年1組の扉をこっそり開けて教室の様子を伺うと時間割通り数学の授業をやっていた。僕の休んでる間に授業は追いつけないほどさきに進んでしまっていることがわかる。僕は後ろ扉をゆっくりと開けてそっと、、、そっと入っていく。なんとか一番後ろの僕の席に到着して引き出しの中強引に詰め込んである数学の教科書を取り出す。(置き勉をしていることはみんなに内緒にしてくれ)。遅れたことも知らん顔のままノート広げ顔を下に向けていかにも勉強してますオーラを出す。河野ちゃんが横耳を入れてくる
「ミキ君たぶん先生にバレてるよー」
「、、、!!!河野ちゃんどうすりゃいいんだよ!」
「ミキ!遅刻してきたんだからここの問題の解答黒板に書いて見なさい」
マズい!!全然分からねーし!ていうか3日間授業出てない人にそこそこ難しい問題出すか??
「ミキ君これは復習だよ。ミキ君が授業に出ているときにやった問題ー」
「河野ちゃん今日のお願い!ノート見せてくれないかな!」
「ジュース1本だったらどう?」
「分かった分かった!、、、ありがとう」
河野ちゃんからノートを受け取り薄くて小さな文字で書いてある内容をそのまま黒板に複製した。
「ミキ!正解だ」
教室のみんなから拍手をもらったが河野ちゃんを見てみるとかわいい顔して眉毛をちょこちょこ動かしている。「約束通り奢ってね」のサインだろうか、、、
ガランゴン!
「ありがとーミキ君!!困ったらいつでも呼んでね!」
「おいおい。僕は河野ちゃんの財布じゃないんだぞ」
「私はジュースに困ってたの!困ったときはお互い様でしょ?ね!」
まぁしゃあないか、、、河野ちゃんにはいろいろ助けて貰っているし自販機のジュース1本くらい安いものか、、、あぁ佐倉カイセイ
「なんか楽しそうでしたけどー?」
「なんだよー。僕はただの財布だよ」
「財布になれるだけありがたいと思え」
こいついちいち面倒くさいなもういっそ河野ちゃんに告白しろよ。佐倉カイセイってクールなやつだと思っていたけど案外バカなのか??今度はナナミか、、、俺の手を取って全力でおねだりしてくる
「ミッキー!私にもジュース1本!!」
「お馬鹿さんに奢るジュースはないよー!」
「もぉー!!!ミッキー大っ嫌い!、、、なんちゃって!」
相変わらず平和な日常が1,2週間ぶりに帰って来たようだ。こういう下らない毎日が僕にとって一番の幸せと気付く。




