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<第26話> ジョウホクの悪夢

「こちら5番街。交通規制も終わり今からバリケード展開します」



「了解。間もなくそちらに1615小隊が向かう」



アブトルの技術員が5番街通りの交通規制を終えて通信機を左手に持って現在の状況を報告する。5番街はうす汚いかつネオンが輝くジョウホク1番の繁華街だ。虫の巣のように店と店の合間に簡易テントで建てたお家や靴磨きをしますと書かれた段ボールを持った少年少女。酔いつぶれたまま死体として放置されていたりと華やかな金の装飾が施された建物のが多いわりに地面に広がる世界は地獄を絵に表したようだ。



「このあたりでなにかおこったのか??」



服の右肩部分に大きな穴をあけた少年が技術員に話しかけた。



「ごめんな。機密情報で君には教えて上げられないんだ」



アブトルのルール上ジョウホクの住民にジュウシンは出現するまで避難命令を出すことができない。先に情報が出てしまうとジョウホクの問題に関わってくる。政府管轄外都市とはそういうものなのだ。今日は曇り気温は25度。今日がこの町の最大の悪夢になるかもしれないと心の中ではそう思っている。ジュウシン出現予想時刻は午前11時時39分。あと3時間ほどだ。この町も跡形もなくジュウシンに破壊されるのだろうと思うとなんだか少し悔しい気持ちになる。





白石さんは先にアブトルに向かっていった。僕はその後に家を出てナナミに会うために2階のエントランスで待ち合わせしていた。



約束の時間は7時。退屈だったので腕や足をまっすぐ延ばし眠気覚ましにいろいろ体を動かしていると



「ミッキー!おはよ!」



「よぉー」



ナナミが僕に手を振ってきてこっちに向かって走って来た。朝のアブトルは行きかう人もいないので結構思いっきり走れる。そしてナナミが僕の目の前に飛び込んできて



「ミッキー何も言わなくてもいいよ。私のために来てくれるだけでも嬉しいんだから」



僕の首に両手で絡んでいきハグした。思っていたよりもそれは深かった。かすかに簾のように棚引く長い髪の毛からまるで花畑にいるような気持ち安らぐ匂いがする。小声で優しく言ってくるところが本来のナナミのか弱さであり繊細な部分でもある。長い時間この状態が続きナナミが手を下ろして



「私絶対に帰ってくるから!」



そういいエレベーターに向かって走りどこかへ消えてしまった。ナナミは以前の戦闘服姿とは違く白と黒で構成されたへそが見えないセパレート。化粧は前と変わらず派手である。髪色は前回とは違く髪の根元に黒を残し全体が金髪であった。両耳にはやはりイヤリングをつけている。ファッションセンスが高い彼女の細い体にピッタリつくられた専用の服なんだなと思った。




午前8時、全部隊がアブトルを出てジョウホクへ軍輸送用車で向かった。ジョウホクの様子は地下3階のモニタールームで放送される。僕はそのモニターの目の前で1801小隊の様子を見守ることにした。



「ミキ!まだ練習に来れないのか?」



竹下がこっちに向かってきた。竹下はこの状況でもレプリカを使って練習しているらしい。



「俺こういうの見ると悔しくなるからあえて見ないんだ。俺には戦闘を見守るよりも自分には他にやるべきことがあるから」



いつも会えば長話してしまう竹下もそれだけを言って立ち去る。僕はずっとモニターを眺め戦闘が始まるのを待っていた。






「こちらエリザベス。昨日の作戦通りあなたたちは予定通り6番街の大通りを防衛。そこは違法居住者が多くいるからできるだけ被害は少なく抑えるように。隙があるならそのままセントラルクロスに向かいこの作戦の元凶キングを倒しに行きなさい。幸運を祈る」



エリザベスからの通信命令を車内で聞く1801小隊の3人。ワゴン車運転席後ろの席でカイセイと私が隣に座り奥にはナナミちゃんがいる。ナナミちゃんは下を向いたまま微動だにしない。



「ナナミちゃん大丈夫かな?」



「心配しなくても大丈夫だろう。こいつは何ていったって最強の戦士なんだから」



いつも自信満々のナナミちゃんがこういう感じなのはおかしいと思った。最近ナナミちゃんはミキ君が来てからいろいろ変わっている。なんていうか人間らしくなったっていうか今までの鉄仮面のような冷酷な感じで周りの人にあまり関心がない人だと思ってたけど本当は感情豊かな人なんじゃないのかなって。



「カイセイは怖くないの?」



「俺だって本音は怖い。でも戦わなければ誰がジョウホクを守れる!」



カイセイはやればできる人。悔しい思いをしてきても自分の力で克服してここまで上り詰めた。カイセイの頑張る姿は準隊員時代からかっこよかった。本当に強い人は人一倍努力している。だから弱い人の気持ちをよくわかっている。カイセイは本当良い人なのにどうしてみんなわかってくれないのかなぁ。



そうこう考えているうちに車は泊り目的地の6番街大通りに到着した。ドアを開けると目の前に広がっているのは強い風が一瞬でも吹いたら崩れちゃいそうなお店。家の増設を何度も繰り返していびつな形になってしまったお家。水をくむためにバケツを持って歩いているおじいちゃん。積み重なった瓦礫の山などミカサでは見ることのできない地獄のような景色が映っている。匂いは少し臭い。いろいろなごみが混ざり合って独特で気持ちを不快にさせる何とも言い表せない臭い。ミキ君はこんなところに住んでたの?思っているよりもずっと辛そうだなって思った。私はミカサに住んでてよかったぁ。



それはアブトルで見た時よりも雲が深くなったことで暗くなり周りではライトをつけ始めている。



「残り40分。直ちに準備していつ来てもおかしくないから!」



私たちは作戦通り6番街の大通りバリケード下に3人横一列で並んだ。だんだん緊張してくる。この後ものすごいバトルになることはなんとなく分かっているから



「1801小隊、、、OKね。今全部隊が所定の位置に着いた。そのまま待機して」



「出現時間が狂った!!ダメだ!セントラルクロス付近に高エネルギー反応!!来る!!」


セントラルクロス方向に白い光の筋が見えて思わず目を閉じてしまった。



バリバリバリバリバリバリバリバリィィ!!!!!!!!



、、、目を開けると空には数え切れないほどの様々な形をしたジュウシンがセントラルクロスから各番号街に飛んでいきバリケード前にビームを吐く大型ジュウシン「セイガ」が。左を向くとボロボロの住宅地に落ちてったのは小さなビームを出すパネルを飛ばしてそのパネルで侵入不可能なネットを作る「アステロイド」。右のごみの山に落ちてったのは黒くて細身で私たちより少し大きいくらいのジュウシンがこっちを向いて笑っている。あんなの始めて見る。新型かな???




「こんなの聞いてないぞ!バリケードの意味ないじゃねーかよ!とりあえず3人で手分けして戦ってくれ。絶対に住民の避難を優先させてくれ」



ジュウシン1人で戦うことさえなかったのにこれを手分けしてって、、、もうこの状況は絶望としか言い表せない、、、




タイムリミットまで残り2時間

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