<第2話> 最悪な人生
僕は大人を信じない。大人は平気で嘘をつく。
僕はあの日の後近くのスラムで暮らすようになった。ここにいるやつはろくでもないのばかりだ。純粋な子供は大人の甘い誘惑にすぐ乗っかってこの町を去っていく。もう二度と帰ってこない。僕はそうやってこの町で暮らしていくうちに一緒に暮らしていた友達を失っていき誰も信じることができなくなった。大人はあの手この手を使い僕らを騙して奴隷のように働かせて使い捨てる。この町ではそれが当たり前であって「騙されるほうが悪い」のは常識だ。
スラムが僕の心そして人生を大きく変えてしまった。
「続いてのNEWSです、本日2020年5月10日でカドガウラ進攻から5年が経ちました。各地で遺族を中心に追悼式が行われ悲しみと復興の期待に包まれています」
「カドガウラに新型爆弾が投下されて現時点の調査で死者は15万人、行方不明者は推定20万人と言われていて本世紀最大の爆破テロと言われています」
大人はまた1つ嘘をついている。僕は5年近くNEWSを見ているが白い化け物の情報はTVで一度も見たことはない。政府にとってやつらは隠しておきたい存在なのか?はぁ、、、聞いてて耳障りだったので画面にひびの入ったブラウン管のTVを消した。
僕の家は1度天井が崩れて廃墟と化したところを勝手に住み着いて3年だ。
僕はがれきの山に埋もれた廊下を抜けて台所へ行き上の棚から1かけらのパンを手に取る。上の棚なら安心だと思ったがパンに3か所穴が開けられていた。
僕はそのパンをカバンにつめてすぐに家をでて自転車を探し始めた。
職場へ向かうといつも道端で倒れているやつがいる。こういうやつはそう命も長くない。最後はカラスの餌になるかだれかが食べてしまうだろう。ここでは人を食べる行為は当たり前だ。そこまでしないと生き残れないやつは大勢いる。
辺りはごみが積み重なっていて大きな山がポツンポツンと存在している。政府やよそのやつがこそっとごみを捨てていくここは「無法地帯」ってやつだ。だからここでは法律なんて通用するはずがない。政府からも期待されず見放された都市ジョウホクなのだから。でもごみがたくさんあることは時に便利なことだってある。僕は便利に思うことのほうが多い。僕の家具はだいたいここにお世話になっているからだ。
そうこうしていると職場に着いた。僕はこの場所でごみの山に登り大きなごみを抱え下山してトラックに詰め込む作業を炎天下の中で行う。
1日の報酬は2日分の食事、これでも他の所に比べればましである。
あの道端で倒れているやつは雇い主に奴隷のように働かせて食事を与えず、使い捨て乾電池のように動かなくなって捨てられたのだろう。
ここにいる人たちは誰もコミュニケーションをとらない。きっと僕と同じようにひどい仕打ちを受けてきたのだろう。お互いに理解しているからこそ会話しないという不思議な人間関係が形成されていく。
このつまらない流れ作業を行っているうちに太陽は真上を登り休憩の時間になった。
僕はすぐにごみの山の頂上に登りカバンからパンを取り出して草木の生えない街をじっくり眺めている。
僕はこの景色が一番好きだ。上から見るごみの山は遠くから見ると意外とカラフルで雲一つない青空ととても相性がよい。ここにいるとなんだか自分の生きている世界がものすごく狭いもの何だと感じる。ごみを美しいとまで思うようになる。大人たちのようにごみは裏切ったりしない。僕は素直なものに心が惹かれてくのだ。
遠くを眺めていると3番街の道路に見たことないバイクが1台止まっていた。傷一つない真っ黒なボディにライトがピカピカと輝いていて。遠くからみても茶色の背景にひときわ存在感を放っている。
「あのバイク気になるなぁ、、、」
僕はこのバイクを見て物珍しさにを惹かれてもしかしたらここに珍しいお宝が眠っているのではないかと感じ背中に黒い羽根が生えたような気持ちで職場を黙って抜け出し3番街へ向かった。
3番街へ着くとあの黒いバイクは止まっている。よく見るとバイクは洗濯機には寄りかかっていて捨ててあるというよりは止めてある状態であった。エンジンもかけっぱなしでどこへ行ったのだろう。
「なんだよ、人のものかよ」
さすがに僕は人のものだと明らかにわかるものは盗もうとしない。ただ持ち主もいないので近くにあったごみの山に入り持ち主を探した。
「すいません誰かいますかー。あんなところに置いていると盗まれますよ」
僕は親切に持ち主に呼び掛けた。この町で置いておくということは盗んでもいいですよっと言っているのと同じことだ。多分持ち主はこのバイクといいこの辺の人ではないのだろう。
一向に持ち主は出てこないので近くにあったごみの山に入っていきさらに大きな声で呼びかけた。
3番街のごみ山は僕の家の近くにある6番街とは違って家電とか到底に及ばないほど大きなものが多く、長さ数十Mに及ぶ鉄骨やコンクリートでできた壁、さらにヘリコプターのボディなど家庭から出るようなごみとは思えないものがたくさんあった。まぁ3番街は普通の(普通ではないだろうけど)市民が暮らす住宅街だから。
僕は飛行機の車体と思われるものをよじ登りさらに奥へと進んだ。飛行機の車体は荒々しく削られていてペイントは剥げ、色は薄っぽくなっている。
奥へと進むと大きな鉄の塊みたいなのがゴロゴロ転がっている。それと同時に黄色と黒に塗られていた警告表記のようなものまで多く見るようになった。ここには危険なものがたくさん落ちているのだと思いちょっと怖くなっていく。あのバイクの持ち主はこんなところに何の用があるのだろう。
さらに進むと空に雲がかかり暗くなっていった。ここで引き返すべきか、いや持ち主を探さなければ。ここに来てはいけないと僕に呼び掛けているようにも思えるし、、、僕の心の中で葛藤し続ける。
様々な色が不協和音に混ざり合い混沌としているごみの大地の中に穴が何か所かあった。そこに恐る恐る入っていくとコンテナに赤いスプレーで
「D-1038」
と書かれていたその隣に剥がれかけた
「重要廃棄物」
のシールが貼ってあった。
僕は興味本位でその扉を開けると中には、重金属で出来た巨大な足のようなものがぎっしり詰まっている。これには思わず腰を抜かした。いったいこれは何なんだ?なんでこんなところに大量の足が?僕は何もかも分からなくなった。
その先のコンテナも大量の足、その先も、さらにその先も、ひとつひとつの足は微妙に形が違く無残に引きちぎられた状態で雑に保存されている。
僕は恐怖のあまり手足が震え先に進む勇気を失った。もう帰ろう、ここに僕は来てはいけない。
僕はコンテナと反対の向きを一目散に来た道をまっすぐ帰り穴から抜け出した。
僕は穴から抜けると外では雨が降っていて遠くでは雷が鳴っていた。
空にはたくさんの飛行機が飛んでおり、いったいどうなっているのわからない。
その瞬間空から青い光が僕の目の前に現れた。僕は思わず目を閉じる。
僕が目を開けるとごみの大地に僕が一人だけいる。空は土砂降りで稲妻が見えた。周囲を見渡すとさっき空にいた飛行機が燃え上がっている。
僕は一人であったが決して僕だけではない
僕が振り返るとその後ろには、
口に青白い息をはなった神々しいかつ邪悪な牙をもつあの化け物がこっちを見てよだれを垂らしていた。