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<第18話> 黒い相棒 

「ミキ君早速だけど適正テストやってもらうよー」



そう言って奥のトレーニング機材がそろっている部屋に僕は門脇さんに案内される。最初に行うのは管の付いたマスクを口に装着させられて動く床<ランニングマシーン>を30分以上走ってくれと言ってきた。






「苦しい、、、」



「もう半分だから我慢してー」



門脇さんに励まされているが意識が朦朧としているので言葉をあまり理解することができずただ前を向き苦しいながらも走り続ける。最初は走るだけなので簡単だろうと思って半分ナメてかかっていたが10分、、、15分と経過していくと思うように体に酸素を供給することができず手足にだんだん力が入らなくなり思考もできなくなっている。これが有酸素運動か、、、トレーニングルームの窓ガラスの向こう側に白石さんが立っていてこっちをずっと眺めている。、、、なんとか目標の30分完走は達成してその瞬間僕はマスクを脱ぎ捨て地面に倒れこんだ。仕事しか今までしてこなかった僕には持久走はめちゃめちゃ苦しい。



次は懸垂だ。門脇さんが目標100回と宣言して奥の2メートル近くの鉄棒に宙づりにされる。門脇さんが「用意始め!」と同時にタイムボードが動き始めた。僕はジョウホクにいた時山に積んである家具などの重たい荷物を廃品回収車に積む作業をしていたこともあってか懸垂は止まることなくスムーズに進んでいき特に苦しい思いをすることなく目標の100回をあっという間に達成した。



その次は握力。右手と左手それぞれ2回ずつ計測器についている引き金部分を強く握るだけだ。これは特に苦しい思いをすることは無い。これも仕事の経験もあってか両腕少なくとも50kgは超えた。



最後に反復横跳びを行う。3本の線を左右に体を移動させて線が自分の足に触れたら一回とカウントされる。門脇さんが30秒で70回を目標と宣言する。



「よーい始め!」



こういうのは昔から得意だ。瞬発力は誰よりも高い自信があるし背が低い分素早く動かないと体の大きい人には勝てない。汗水で顔がびしょ濡れになりながら無我夢中で左右を往復した。




今度は机に座らされて筆記のテストのようだ。門脇さんが30分間時間を測り時間内に50問のマークテストを回答するだけである。そのテストの内容は特に難しい知識とかは出題されてはなくこの状況だったらあなたならどうしますかみたいな心理テストっぽい出題が多い。




全てのテストが終わり門脇さんが僕の計測データをパソコンにすべてまとめている。処理が終わるまで時間がかかるらしくコンピュータによる結果を待ち続ける。僕はその結果をどきどきしながら待っているとどうやらコンピューターが僕の成績分析を終えたみたいで画面に表示されたのは五角形のグラフだ。



「ん??この結果!ミキ君、、君のデータはアブトルの中では珍しいものかもしれない、、」



「どういうこと?門脇君?」白石さんが聞き返すと



「今君ライデン使ってるんだよね、、、君の使っているライデンの武器種、近距離は他の武器に比べては適正度が高いが他の隊員に比べるとはるかに劣っている」



「、、、つまり僕は戦闘員に成るのをあきらめろってことですか」僕が質問すると門脇さんが笑いながら


「まぁまぁ落ち着いてー。これを見てよ!OTの値がずば抜けて高いだろ。この値が高いってことは君の相性抜群の武器・ABDはまだ開発されていない可能性が非常に高い。OTに所属する武器群は使う人次第ではとんでもない神器になったり、はたまたその使い方を誤るとモンスターを生み出してしまうから僕たち研究員にとってははものすごい魅力を持った武器群なんだ」


「その中でも君は他の人に比べ体幹や機動力といったバランス力は高いが特に固執したところもない。だがあきらめてはいけない。君には最大の武器がある!君は他の人に比べ短期集中能力がずば抜けて高い、いや規定範囲外だ。それを新しく作る武器・ABDに組み込もう!」



「、、、つまり僕はどういうモノが向いているのですかね?」と再び質問すると



門脇さんがかなり頭を悩まさている。僕に向いている武器はないってことを暗示させているようだった。



「逆転の発想で武器を持たないってどうですか?」



白石さんがそう言う、、、けれどさすがに戦闘知識が一つもないとはいえ武器をもたないというのは常識外れだしそれはないだろう、、、白石さんの突然の発言に恥ずかしく思っていたが



「それいい!!!んんーなんだか思いついてきたぞ!!!」


といい豪快な手さばきでキーボードに文字を入力して集中モードに入った。僕が門脇さんに話しかけてもこっちを見るそぶりも見せない。





「、、、できたぞ!ミキ君よ!!」



パソコンに映し出されていたのはABDのイメージ図で腰に巻くベルトと後ろにはエネルギー噴出口と呼ばれる丸いパイプのもの。さらに他のABDにはついていない補助エネルギータンクと書いてある細くて短い棒のようなものがついていてボディは真っ黒だ。ABDを画面内で起動すると黒ての一部分が緑に発光して噴出口とエネルギータンクが真っ二つに開きその中から緑色のターボみたいなのが4個噴出している。最高にかっこいい!今までたくさんのABDを見てきたがここまでかっこいいのはない。



「ミキ君に完成予定だけどおおまかなABDの使い方を説明するよ、、、、」



僕は門脇さんから長々と武器の説明を受けた。他のABDとは全く違い誰もが予想できない戦闘スタイル、どこで使うかわからないタイミング、何もかもが斬新すぎて理解するのにとても時間がかかった。そのABDは遅くても5日後には僕のところまで届けてくれるそうなのでその間できる限り戦闘スタイルを磨きその合間に少しでもライデンを使いこなすように練習しようと思った。新しいABDが届くのがとても楽しみだ!



門脇さんに2人で礼を言い研究室を出た。



研究室を出てすぐ僕は白石さんと別れ地下3階の演習ルームに戻りひたすら佐倉カイセイの戦闘データをプログラムしたレプリカを使って試合を何十回も繰り返した。



ライデンをレプリカに向けて振り真空波を3本出して右斜め左突き上と攻撃したが全てレプリカにガードされる。佐倉カイセイを模したレプリカがそのすきに手裏剣を投げ込もうとした瞬間に自分の体がスローモーションに感じるようになり一瞬の判断でレプリカの背後に回り込んだ。佐倉カイセイの動きに慣れてきたと言えよう



うおおおおおおおお!!!



僕が勢いよく真上から剣を振り下ろすとレプリカが背後に気付き避けようとするがもう遅い。脳天ではなかったが後頭部に斜めに切り込みを入れることに成功した。初めてレプリカが攻撃を受けた。



するとレプリカはギリギリ生き残って佐倉カイセイも使っていたオレンジ色のボールと剣を使って全力で攻撃してきたのでバク宙で間合いを取ろうとしたが前方から手裏剣が飛んできて全力で横に逸れようと思ったが横に転倒。



最後はレプリカがものすごい勢いで剣で僕の腹を何度も刺して試合は終了した。この試合も負けではあったが僕はレプリカ相手にやっと傷を残すことができた。それは佐倉カイセイを倒す大きな進歩であると言えるだろう。すごくうれしかったしここまで努力してきてよかったと思った。この調子で頑張るぞー。




僕は朝6時から8時まで16時半から夜22時半までみっちり演習ルームに籠ってただただレプリカとひたすら試合をこなしていった。白石さんが言うには多くの人からバーテックスの申し込みがあるみたいだが全部戦いたい人がいるって理由ですべて断っているらしい。過密スケジュールで練習してると聞いて多くの人が僕をいじってくるが竹石はもちろん多くのクラスメートが演習ルームにたびたび顔を出すようになりジュースとか置いて行ってくれる。優しい人もいる中そのほとんどがお前にできるはずがないと馬鹿にするやつである。(特に上級生)



それを白石さんが黙ってずっと見つめている。僕が演習ルームに籠っているときも藍田塾や司令室から近くの個人モニターですべての試合をチェックしているらしい。僕はジョウホクにいた時からミカサに来るまで誰も信じてこれずに生きてきた。だけど白石さんは僕が決めた目標がどんなに無謀でどんなに不可能だと周りから言われ続けても「ハルト君ならできる!!」と僕の背中をプッシュしてくる。





信じるとは人が信じる信じないどうこうよりも誰も信じなくても自分が正しいと思うものを、全力で何かを守りたいものをめげずに戦い続けることだと


僕が今まで信じてきた「信じる」は本当に薄っぺらいものだった。あの時のエリザベスの言葉「大人を信じるな!自分が正しいと思ったものを追求しろ、、、」って言うのは、、、僕に本当はこういうことをあの状況で伝えたかったのだろうに、、、気付いたのは今更だ。







5日後 




いつものように演習ルームでレプリカと対戦していると門脇さんが入ってきて



「ABD出来たよ!付けてみて」と言う



僕は白石さんを呼び出してABDを腰に巻いて起動する。するとABDは真っ黒なボディの一部分が緑に発光し始める。噴出口とエネルギータンクが真っ二つに開きその中から緑色のターボみたいなのが4個噴出す。体

からものすごいパワーがみなぎってくる!!





僕は残り1週間この自分専用のABDをつけてレプリカと戦い続けた。このABDを使っていくうちにだんだんと使い方を理解していきいつの間にかレプリカをやっと倒すことに成功した。このABDは恐ろしく強い。可能性は無限大にあり相手がどんな動きでも対応する、もはや全能の機械である。このころからバーテックスのルールに合わせて白石さんとコンビを組みが細かい指示をオペレーター「白石ルナ」の通信機を通して行うようになる。



最初はバラバラだったが間隔や合間の取り方、テンポ、波長がうまく重なるようになり抜群のコンビネーションですいすいとレプリカを倒すことができるようになっていく。ここまで来れたのも白石さんが最後まで僕についてきてくれたから。僕らの持ち合わせる波は一つに重なっていった。




気づけばあの試合から13日が経っていた。バーテックス公式戦は第3演習ルームで行われることが発表される。僕たちは練習を早めに終え家に8時には帰ってきて体のケアを入念に行っている。



「ハルト君!!絶対明日は勝つよ!!」



「絶対勝ちますよ!!白石さん!」



僕と白石さんはそう誓い夕食を並べ笑顔でお互いにコップを持ち上に突き上げた。














「あんたがこんな時間まで残っているなんて珍しいわね」



薄暗い地下3階の個人ルームの中でエリザベスがそう話しかけるとそこにいたのはパソコンをじっと眺めている山崎ナナミだった。ここで電気もつけないでずっとハルトとレプリカの試合を見続けていたらしい。



「ナナミー。弱いやつには興味ないんじゃないの?」



「うるさい!黙れ!!」



そう言ってパソコンを閉じてエリザベスを睨みつけた。



「エリザベス。なんで三木ハルトをこの学校に入れたの?あいつ説明できない不思議な匂いがする!」



「さぁね。私の目が腐っているから?あんたに理由教えたって私の腐ったセンス理解できないでしょ?」



そう言いエリザベスが立ち去ると山崎ナナミはボソッと



「三木ハルト、、、なんだか癖になっちゃう」



そう言ってパソコンを起動して試合観戦を再開した。

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