<第12話> 戦闘開始
僕は白石さんに連れられて藍田塾を出ていき第12演習ルームに案内された。後ろポケットにしまっていた名札を扉にかざして開けると中には第1演習ルーム同様何かが置かれていることもなく白い箱のような空間が広がっている。
すると白石さんが閉めてあるロッカーを全て開けて
「これが規定ABD。アブトルのルールで定められた規格で作られていて多くの人が安全で使いやすいいわゆる量産型ねー。」
「このABDとは別に実際に対ジュウシン用に攻撃手の体格に合わせた1個1個オーダーメイドの正隊員ABDもあるよ」
正隊員という新しい単語を聞いて疑問が一つ浮かんだ。
「正隊員ってどういうことですか?」
「ああ言ってなかったっけー?アブトルには準隊員と正隊員の2つあるんだよー。正隊員に昇格するには準隊員在籍中に第一種免許の取得とアブトルにいる指揮官長からの入隊許可証をもらわなければいけないのー」
「それって難しいんですか?」
「第一種免許はミキ君が真面目に勉強すればきっと取れるよー。でも問題は入隊許可証。あれは指揮官長がこの子をうちの隊に入れたい!って思うほど戦闘能力が高い人じゃないともらえないの」
「、、、でもいい考えがあるよ!!アブトルでは定期的にバーテックスの公式戦を多くやってるからたくさんの試合に参加して指揮官に見てもらえればミキ君をスカウトしたいっていう人もいずれかでてくるかも!!」
「白井さん決めました!僕正隊員目指して頑張ります!!」特に悩むこともなく僕は正隊員になることを大きな目標として掲げることを白石さんに誓った。住ませてもらってる白石さんや学校に入れてくれたエリザベスに恩を返すにはこれしかない。だから迷わず決意できた。
「じゃあさっそく武器決めよ!」
白石さんが僕にさっき紹介した量産型の規定ABDを渡してきた。僕はベルトの固定部分を外しそれを腰に巻き手で腰の位置に来るように調整する。規定ABDの入っていたロッカーの隣にまた大きめのロッカーがもう一つ開けてある。中にはぎっしりと多種多様な武器が余裕すらなく詰め込まれていた。
「今日はSHにしようかー。、、SHって片手で持てる軽量武器のことだよー覚えときなー」
それに応えるように頷くことしかできない。今日出てきた単語は非常に多く一つ一つ覚えるのが大変だ。すると白石さんがロッカーの中をゴソゴソとかき分け始めた。やっとの思いでロッカーから取り出したのは長さ30cmくらいの短刀ナイフである。
「これはサーペンター。敵の背後にすぅって入ってて首元をスパッと切る暗殺に近い武器だよー」
白石さんに渡され試しに持ってみる。見た目よりも想像以上に軽い。持ち手の先から緑の発色光が放出している。発色光部分に一たび触れると生物はもちろん薄い壁くらいなら切断することができる。アブトルの技術は現在実用化されている化学技術の遥か先を進んでいた。サーペンターを軽く振ってみた感想はどうしても牽制に弱いため槍などのリーチの長い武器には負けてしまう。しかし敵の背後に回りやすく確実に倒すことができるのはとても強い。総合的には少々扱いにくい武器だなと感じる。
僕はサーペンターを使うことは諦めロッカーの元ある位置にしまった。また白石さんはロッカーの中をあさり出してサーペンターとは違う形状の武器を取り出した。長さが足元からへそくらいある黒くて細長い武器だ。
「これはアビスの槍。ミキ君奥のほうにアビスを投げてみてー」
普通に考えて槍を投げたら投げた方向に真っすぐ飛んでいくだけだ。とりあえず僕は白石さんに言われるがまま右手で持ち勢いよくアビスを投げてみた。アビスは投げた方向にまっすぐ飛んでいき奥の白い壁に刺さった。すると壁に刺さったはずのアビスがテレポートして投げた右手に戻って来る。これには思わずビックリする。そうアビスは打撃だけではなく遠距離から槍を投げて攻撃することができる。白石さん曰く上級者になるとアビスを棒高跳びのように使い高く飛んでジュウシンの上に乗ったりすることもできるらしい。僕の想像していた戦闘より立体的に戦えるな感じた。この武器はとても気に入ったが他の武器ももう少し見て見たかったのでアビスをロッカーの元ある場所へしまう。今度白石さんがロッカーから取り出したのは昨日僕が実際に触ったライデンという日本刀に模した武器だ。
「ライデンにもすごい機能あるんだよー」
白石さんはそう言って僕にライデンを渡してきた。振ってみてと白石さんは言うのでとりあえず左から右へ横に振ってみるとライデンの緑に発光している刃が横に振った軌跡に波が発生しその波は真っすぐ進んでいった。ライデンから発生した波は実際に切るときと同等の威力がありアビスと同じように近距離攻撃だけだく遠距離にも対応していることが分かる。ライデンを使ってみた感想は動きに支障がでないくらい軽く他2つの武器よりも断然に扱いやすそうだと思う。、、、とりあえず今日はライデンを使うことに決めた。
「じゃあ練習開始といきますかー!!なんかあったらまたここに来るから」
そう言ってタブレットのような端末でスイッチを押すと白い空間の中央にジュウシンの動きを完全再現したあの白いジュウシンを模した「レプリカ」が現れてこちらに攻撃をしかけてくる。僕はわけのわからないまま棒立ちしているとレプリカのパンチを思いっきり食らって練習は終了した。でもパンチをもらったはずなのに痛くない。仮想空間の中ではダメージを食らってもダウンしても現実世界の痛みとは直結しないのだ。
僕は何度もこのレプリカを使って練習した。数十回やっていくうちにABDをつけた状態での素早い動きに少しづつ慣れていきライデンの上手な使い方とかをある程度理解したような気がしてた。だがレプリカには全く歯が立たなく攻撃も多くて2、3回しか当たらない。倒すこととなるとまだ先の話だ。
「ミキ君ちょっといい?」
白石さんが演習ルームの扉を開ける。僕は戦闘を中断させて「どうしたのですか?」と聞き返すと
「早速個人戦のオファーが来たんだけど名前は、、、え?佐倉カイセイって、、佐倉くんって正隊員の子だよねミキ君に何の用があってオファーしたの?」
「白石さんは佐倉カイセイと知り合い何ですか?」
「知り合いってなにも藍田塾の看板選手よ!バーテックストッププレイヤーが今日練習を始めた人に勝負を挑むことなんて普通はありえないよ!!、、、いや逆に考えてみよう。これはミキ君にとって正隊員になるためのチャンスかもしれない!正隊員との試合負けても注目度は高いはず!!」
「ミキ君この試合出てみない?もう二度とこないビックチャンスかも!!」
「でも僕まだ練習始、、」
「大丈夫!負けてもいい!新人が正隊員と勝負しているところはたくさんの人が注目するからミキ君の名前を広げるのに絶好の機会だよ!」
、、、確かに白石さんの言う通りだと思う。僕は特に悩むことなく白石さんの意見に賛同して
「ぜひ!!僕出てみます」
「早速行こ!!」
僕と白石さんは急いで集合場所の第17演習ルームに向かった。
第17演習ルームに着くと中央に佐倉カイセイらしき一人の青年とさっき藍田塾の受付にいた眼鏡をかけてるスーツの男が二人、僕たちを待っていた。するとスーツの男が
「白石さん。個人戦のルールですが3本勝負、オペレーター無しでどうでしょ?」
「分かりました。それでいきましょう」
「白石さん個人戦って何ですか?」
「バーテックスとは別に選手同士のやり取りで行う。いわゆる練習試合よー」
白石さんはそのルールで承諾して大人たちは離れていき目の前には佐倉カイセイらしき男が立っていた。
「俺は佐倉カイセイ、三木と同じ3年1組だ。よろしくな」
僕もよろしくと返事してロッカーの中からABDとライデンを取り出した。その時アナウンスが鳴り始め
「戦闘開始まであと3分。ABDを起動してください」
僕の後ろで白石さんが不安そうに見守っている。僕はABDを腰に巻いて佐倉カイセイの様子を眺めていた。すると佐倉カイセイはすでにABDをつけておりボディは真っ白で横のスイッチを押すと赤に発色してABD本体が変形した。このABDの型は始めて見る。これが正隊員だけ持つことが許されたオーダーメイドABDか。
白石さんの言う通りこの試合はたくさんのモニターで生中継されて多くの人が見ていることが分かる。新人と正隊員の試合に目が離せないのだろう。
「戦闘開始まであと30秒。ABW起動してください」
僕はライデンを手に取り緑色に発光させる。一方佐倉カイセイはABDのサイドから赤く輝く鋭いものを4つ取り出し「セット」という掛け声と同時に50cmくらいの短刀に変形しそれを両手で持っている。
「おい三木。特殊推薦枠の力見せてくれよ」
と佐倉カイセイは睨みつけながらあざ笑い戦闘開始のブザーが鳴り始めた。




