<第11話> 苦悩・結成
「私河野マイ!ミキ君よろしくね」
僕と身長は変わらないくらい。見た目とてもか弱そうな感じで向こう先まで透き通るくらいの白い肌。艶のある黒髪ショートカット。しっかりとした眉毛を持っていて目元が少し明るい。肌が白いためか頬が鮮やかなピンク色である。王道の清楚系どうみても賢そうな真面目ちゃんに見える。この子となら仲良くできそうだそう思い僕は彼女によろしくと返して前を向く。
「んじゃホームルームは終わり。1時間目の準備しな」
エリザベスが宣言するとみんな一斉にしゃべりだした。このクラスはちゃんと教育されているなと気が付き少し感心する。クラスメイトたちは廊下にある個別のロッカーから数学の教科書を取りに入っている。すると河野ちゃんが
「ミキ君ってどこから来たの?」
と質問してきた。ここでジョウホクって答えてしまうと昨日の白石さんみたいに気を使われてしまう。その雰囲気を壊さないためにも
「結構遠いところからだよー。だからさミカサのことよくわからないんだ」
曖昧な返事で答える。
「なになに気になるー」そう言ってしつこく迫ってくる。困らせないよう少しは抵抗する素振りを見せながら笑って誤魔化す。それでも河野ちゃんはとても気になっている様子で目が輝いているように見える。僕は河野ちゃんの攻めに追い詰められるように
「ジョウホクだよ。あそこは何にもないよ!」
ちょっと怒り気味で返してしまった。多分河野ちゃんに引かれただろうなぁそう確信する。
「ジョウホク?すごいところじゃん!!ねぇねぇミキ君の前の家どんな感じだったの?動物とか飼ってた?もしかして仕事してた?どんな仕事してたの詳しく教えてよー」
彼女の青い目はさっきよりも輝き始める。その態度から彼女はとても興奮していることが感じられる。ほんとこの子は好奇心旺盛な子でよかった。ジョウホクと聞いてこんな熱心に質問してくる人なかなかいないから。
「なんでジョウホク出身って聞いて引かないのか?不潔な貧乏人なんだよ?」
「この学校でジョウホク出身っていう人全くいないからーかなぁ。みんなミカサ市街のお金をいっぱい持っている家族の息子、娘だからプライベートの話をしててそういうのつまんないのー」
やっぱりここに来る学生だ。そこそこお金は持っている。僕の歩んできた人生とは違う道を歩いているのは当然だしここの生徒たちは家族から愛されてこの学校に入っているんだなと。だから僕の気持ちなんか理解してくれる人なんて滅多にいないのかと思うと少し寂しい気持ちになる。しかし河野ちゃんは舗装された大きな階段よりもいつ崩れてもおかしくない瓦礫の塊のほうが新鮮味があるんだと思う。僕は嬉しい気持ちでいっぱいになり熱心に質問してくれた河野ちゃんにはすべての質問に答えた。
あれこれ話していると話のオチが付いたところで
「ミキ君ってさぁ。どの塾に所属するか決めたの?」
河野ちゃんにいきなりわけのわからない質問をされた。
「塾なにそれ?学校とは別に勉強するところがあるのか」
「まだ決めてないんだー。塾っていうのは勉強はもちろんのことアブトルで訓練や練習試合を塾がスケジュールを組んで攻撃手をサポートしてくれるところだよー」
そんなところがあるのかと感心していると河ちゃんは続けて
「アブトルには大きなところで4か所あるよ。栄進、慶優会館、ルート、藍田塾。大きな塾のほうがたくさんバーテックスに参加することができるし友達もできやすいよー。私は栄進に入ってるよー」
なるほど塾か。早く友達を作るには塾に所属すればいいのか。いい考えだな。白石さんに後で聞いてみよう。
河野ちゃんと話が盛り上がっているうちにチャイムがなりその途端にみんな席に駆け込み始めた。右手の扉が開き出てきたのは40代前半くらいのスーツを着た男だった。
「んじゃ授業を始めていきますよー」
河野ちゃんが言うには数学の前山っていう先生らしい。授業は比較的にわかりやすいと言う。
「はい。この公式覚えて。これを1か月後にはすらすら暗唱できるようにしてください」
何だこれ。前山先生は黒板に書いてある式を因数分解とか言ってたけど僕の常識の範疇ではありえないことがたくさんある。なんで数学の式に英語入ってんだよ。aとかbって僕の知ってる数学にこんなの出てきたことないぞ。
あ。そいういうことか。僕がジョウホクで過ごしていた5年間全く学校に行ってなかったからaとかbの意味分からないまま14歳になったんだ。気が付くと僕は5年間学校に行ってないことをすごく後悔した。右で河野ちゃんは真剣な顔で聞いており先生が出してきた問題をすらすら答えていく。僕の予想通り河野ちゃんは頭がよかった。僕は河野ちゃんを邪魔するわけにはいかなかったのでノートに写した数式と睨めっこを始める。結局何も理解できないまま成果を得ることなく1時間目は終わった。
休憩時間みんながロッカーへ教科書を戻しているとき僕は河野ちゃんに
「数学全然分からなかった、、、さっきの授業の内容詳しく教えてほしい!ジョウホクにいたとき学校行ってなくてさー」
「分かったー!。私が教えてあげる!」
僕のために河野ちゃんが付きっきりで今日の数学授業分の内容を丁寧に教えてくれる。
どうしてここでaやbの文字を使うのか分数と割り算は近い関係だとか()の計算方法など僕が分からない小学生の内容まで手を抜くことなく説明してくれた。彼女は優しい。きっとこのクラスでも人気者に違いない。
「ありがとう河野ちゃん!」
「いつでも聞いてねー。今度そのお返しにミキ君のこともっと教えてね!!」
ほんと河野ちゃんが隣でよかったと思った。だが河野ちゃんに数学を教えてもらっているときに誰かに見られてるような気がした。そして僕を見てこそこそ笑っている。僕は勉強こそやってこなかったけど5年で培われた怪しい気配を察知する能力はひと1倍優れている自信がある。だがどのやつがこそこそ笑っているか分からない。クラスは40人いるので探すのは大変だと感じて気にしないことにした。
この後も2,3,4時間目と続いた理科,社会,英語は全然分からない。数学と同じように悩み、ノートに書いてずっと理解できないまま考え事をしていた。
お昼のチャイムが鳴りクラスメイトは突然机まるごと席を移動して仲のいい友達とご飯を食べる準備を始める。僕は特に一緒に食べる相手もいなかったので唯一話せる河野ちゃんに声をかけようと思ったが彼女にも女の子の友達がいてそっちに行ってしまった。僕は周囲を観察していると女子集団がこっちを向いてこそこそとなにか話している。僕の勘では悪いことは言われてなさそうだ。
そんなことはともかく白石さんが作った弁当を開けてみた。、、、中にはサンドウィッチが入っている!口に運んでみるとやっぱり美味い!食事が一番幸せー。いやただただ白石さんの料理のファンなだけだ。
とりあえず5,6時間目は詳しく説明するほど特に変わった印象は無かったので残りは何とか気合で乗り切った。
「こっからのトレーニング頑張ってじゃあまた明日」
エリザベスが帰りの挨拶するとクラスメイトは机から離れていきアブトルへ向かっていく。よくわからず周囲をキョロキョロしていると白石さんがドアの前に立っていてこっちに手招きしている。僕は白石さんに近づいていき
「今日のお昼美味しかった?」
「美味かったです!、、、ところで白石さんに聞きたいことがあるんですけど、、、僕にアブトルの塾を紹介してほしいんですが」
「またまたまた~ミキ君せっかちなんだからぁ」
白石さんが僕の気持ちに応えてなのか急ぎ足で2階連絡通路へ向かった。
「はいこれー」
白石さんから渡されたのは自分の名前が入った名札だ。右側にある長方形の枠に囲まれた自分の写真は昨日あの写真屋さんで取ってもらった時のやつだ。この名札を白石さんに言わるがまま目の前の扉にかざしてみるとドアのロックがガチャっと外れる音がした。扉を開けると昨日も見たあの巨大なエントランスが待ち構えている。二人はエントランス奥のエレベータに入り昨日訪れた地下3階のボタンを押してエレベーターは演習ルームは向かい始める。
エレベータの扉が開くと目の前には複数の画面モニターがある。そこを左にずっと奥を通っていくと青色の看板をした建物があった。よく見てみると藍田塾って書いてある。
「ここ私が所属している攻撃手サポート塾。藍田塾よ。この青がトレードマークだから」
白石さんが名札の紐を指さすと紐の部分に青で藍田塾って書いてある。扉の前に自分の名前が入った名札をかざすと扉が開き始めてその中には白石さんと同じように青の名札をしているスーツを着た男性が3人立っていることに気が付いた。
「白石さん。この子が例の??」この中で一番年上そうだが30歳いってないくらいの男性が言った。
「そうですよー。応接室に連れていきますね」
今日で2度目の応接室だ。藍田塾は名前の通り青い椅子だ。座ってしばらく待っていると白石さんが登場して丸眼鏡をかけている。これがまた似合っている。
「一応形だけね」と小声で言い
「私ミカサ中学校3年1組副担任兼藍田塾担当サポーターの白石ルカです」
「ふぅ。簡単に言うと私ミキ君のクラスの副担でもありミキ君の練習や試合をサポートする担当なの」
僕と白石さんでコンビが結成した。このコンビが後に大きな影響を与えるとは本人たちも含め誰一人知らなかった。




