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翌朝、二人が眠っているうちにマリノは小屋を出た。
さすがに周囲からはあの陰陽師くずれの男たちの気配は消えている。あの男たちが諦めたとは思えなかったが、このままここに留まっていれば、再びやって来るかもしれない。司のことは気になっているが、彼女に自分が何かしてあげられることはないだろう。
山を降りて町の中心部へ向かう。まだ朝も早く、小さな町でメインストリートには古びた喫茶店が一つ営業しているだけだ。
喫茶店に入って朝食を注文する。
妖かしとなって以来、空腹を感じたことはない。だが、それ以前までの生活習慣が身についていて、それを変えるとどこか気持ちが悪い。自分を育ててくれた祖母は、規則正しい生活を好む人だった。
店内には他に客の姿は見えない。店員が見慣れないマリノの顔を見て少し訝しむ表情をするが、いつものように軽く念ずることですぐに気にしなくなる。
トーストとコーヒーを口に運びながら、ぼんやりと店の片隅に置かれたテレビに視線を向ける。画面では地方のニュースが流れている。
――先日の火事についてのニュースです
若いアナウンサーが先日、街の一画の住宅が燃えた件を報じている。何気なく聞いていて、それが六花の言っていたものと酷似していることに気がついた。
警察の調べで、その火事が放火であることとまだ犯人が特定されていないことが報じられている。
(そうか)
――とマリノは思う。
六花が言っていた放火事件はつい数日前にこの街で起きたものということか。ならば犯人はまだこの街のどこかにいる可能性もあるのかもしれない。彼女は否定していたが、実はそういうことについても知っているのではないだろうか。
ドアを開けて中年の女性が顔を出した。
「ねえねえ、何か朝食作ってくれない?」
女性は顔なじみらしく、喫茶店の店主に親しげに声をかける。
「どうしたんです?」
「お客さんよ。昨夜、お客さんが3人泊まったの。ウチは素泊まりだから食事は用意出来ないって言ったんだけどね」
どうやらこの近所にある旅館の女将らしい。
「どこの人?」
「さあ、西の方の訛りがあるみたいね。なんか感じの悪い人たちなのよ」
「サンドイッチでいいですか?」
「ありがとう。助かるわ」
女性はそう言ってカウンターに腰掛けた。
(あの男たちかもしれない)
陰陽師くずれの男たちがまだこの町に留まっているのかもしれない。そう思いながらマリノはそっと店を出た。
早く町を出たほうが良いかもしれない。