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1時間後――
窓から西陽が射し込んでいる。
マリノは小さな窓から外の様子を伺い、あの男たちが近づいてこないことを確認してから、再び六花のほうへ視線を向けた。
「あなたたち、これからどうするの? ずっとここに?」
「さてな。ずっとここにいるというわけにもいかないが、この娘のように不器用な存在では街中にはいられないからな」
「私に手伝えることはある?」
「その必要はない。その娘のことは私に任せておけ」
「その子に復讐をさせるつもりなの?」
「いいや」
六花はすぐに首を振った。「そんなつもりはない。私は何もさせるつもりなどない。だが、この娘がそうすることを邪魔するつもりもない」
「何も? なら、どうして一緒にいるの?」
「興味を持ったので、行動を共にしているだけだ」
六花の口調はそっけなかった。
「いつまで?」
「さあな。だが、そう長いことはないだろう」
「どうして?」
「近いうちにこの娘は消えるかもしれないからな」
「消える? どうして? まさか、妖かしって復讐をすると消えるの?」
かつて消えていった少女のことを思い出していた。
「妖かしとして自らの復讐をするくらいのことは当たり前のことだ。だが、あの娘の場合は別だ。この娘は妖かしとして不安定なのだ」
「不安定?」
「妖かしにもいろいろある。永遠の生命とも言えるほどの長い年月を生きる者。一時的に妖かしとなったものの消えていく者」
その言葉にマリノはハッとした。
「どうして消えていくの?」
思わずマリノは聞き返した。それはマリノにとって何よりも興味のあるものだったからだ。
「妖かしは魂の存在だ。妖かしとして存在するためには心を安定させられるかどうかが問題だ。不安定な者はもともと妖かしとして存在すべきではなかったのだ。妖かしとなるかどうかはその者の性分の問題だ。辛いことがあった時、人を恨むこと、人を憎むこと、それによって自分を支えられる者こそが妖かしとなる。だが、あの娘はもともとそういう者ではない。つまりはお前とは違うということだ」
「気のせいかしら? 私、バカにされてるの?」
「ただの事実だ」
否定は出来ないが、六花の口ぶりにはやはりカチンとくる。
「私の恨みがそんなに強いというの?」
頭の中に妹のミラノの顔が思い浮かぶ。確かに今の自分を作ったのはミラノかもしれない。あの事故さえなかったら、こんなことにはなっていないだろう。そうならないために家を出たはずなのだが、それでも心の中に妹へのそういう感情があるのだろうか。
だが、六花はジロリとマリノを見てからーー
「お前の場合は少し違うかもしれないな」
「え?」
「恨みとは違う理由かもしれないな。つまり、普通ならお前は妖かしとはなっていない」
「じゃあ、どうして私は妖かしに?」
それはマリノも知りたいと思っていたことだ。
「さあな、そんなこと私が知るわけがないだろう」
「言いっぱなしなのね。無責任だわ」
「私に何の責任があるというのだ? それは私よりもお前のほうがわかっているはずだろう」
「どうして?」
「恨みとは違う感情で妖かしになったとすれば、それを知っているのはお前だけだからだ」
思わずマリノは目を逸した。六花もそれ以上追求しようとはしなかった。
すでに周囲は闇に包まれはじめている。