異世界入り
目を覚まして一番最初に感じたのはここは何処だろうと言う疑問だった。取り敢えず目に見える状況から整理しよう。
目の前に広がるのは何処までも続きそうなだだっ広い草原だ。僕が住んでいた山形の中でもこれ程広いものは無いだろうと言えるだけの面積はあるだろう。爽やかな風も吹きぬける。
目に映るこの光景で最も異質なものとして言えるものは美少女がゲームなどで見るようなモンスターみたいなものに追われていることだろう。まあ、少し離れているからまだ危険は無い。少女の方もまだ余裕がありそうだが、助けも必要だ。
「アバババ、と、とにかく、助けませんと!」
さてここが何なのかも分からないとはいえ善良を絵で描いたようなこの少年には助けないと言う選択肢は無かった。
早く助けなければと勇んで駆け出して見ると
「あ、武器になりそうなものがない。」
と気付く。するとこの少年は踵を返し、
「仕方ない。見捨てるか。」
と切り捨てた。この外見も善良そのもののような少年 山場 司は結構ドライな性格だった。
〜完〜
「いや、見捨てるなーーー!」
と少女が凄い剣幕でこちらにダッシュしてくる。
「あ、どうも。僕は山場司。宜しくお願いします。」
「あ、こちらこそ。ミスティア・レッドローズといいます。」
「ミスティアさんですね。覚えておきます。ではまた!良い旅を!」
「お互い良い旅を送れるといいわね!さようなら!」
と言うと別々の方向に向かって行く二人。さあ、これから司少年にどのような冒険が待っているのか!
〜完〜
「っっっって、違うだろーーー!」
ミスティアは司に向かってダッシュして飛び蹴りを放った。
「痛いですね。何ですか。」
「何ですか、じゃないわよ!何でナチュラルに立ち去ろうとしてるの!何で見捨てようとしてるの!助けようとか思わないの!物語の都合的にも!あと地の文も何かモノローグで終わったみたいな感じ出さないでくれない!腹立つから!」
「長いツッコミやめて下さいよ。もう少しコンパクトになりませんか?どっかの眼鏡のツッコミ役の少年見習って下さいよ。」
「うるさい!いいから助けてちょうだいよ!私外獣どもに追われてきてるんだけど。と言うか、見なさいよ。さっきからずっと側にいたけど空気読んで襲って来ようとしないで待っててくれてるんだから。」
「と言うか何でこの外獣?待っててくれてるんですか。親切すぎません?」
「知らないわよ!と言うか何で見捨てようとしたの!言いなさい!お姉ちゃん怒らないから!」
「いや誰がお姉ちゃんですか。あとそう言う言葉信用できませんよね。絶対怒りますよね。」
司は頭を掻きながら呆れたように言うと、
「まあ、はっきり言って武器、若しくは武器になりそうなものが無いんですよね。」
「はあ、甘ちゃんだこと。武器が無いと戦えませんって言うの?本当に甘いわね。せめて盾位にはなろうとか思わないのかしら。」
「結構理不尽ですね、ミスティアさん。と言うかこの外獣?とか言うの、殺してもいいか分からないから武器を探してたんですけど。」
「はあ?いや、ころしてもいいけども、逆じゃないの?普通殺すために武器を探すんじゃない?」
「いや、僕は武器がないと戦闘=殺害ですから。取り敢えず殺してもいいんですね?」
「んじゃやって見なさいよ。言っとくけどそいつら強いわよ。レベル20の私でも半分倒すのが限界だと思うし。ま、無理でしょうね。貴方みたいなもやしっ子には到底無理よ!」
と言うとミスティアは司に背を向けてからもう一度ふりかえり、
「ま、どうしてもと言うなら、泣いて喚いて頼んでくるようなら、協力してあげ…」
と途中で言葉を切り、唖然とした。なぜなら
外獣は全て血の海に沈んでいた。
「あ、もう終わりましたよ。なので協力はいりません。」
まるで散歩でもしてきたかのように彼は気安く言った。しかしミスティアを襲っていた外獣はとても強い方で10体揃えば小さな村を一つ潰せるくらいの力は有ったのだ。
それがわずか一分かかったかも分からないうちに全て死んでいたのだ。驚かない方がおかしい。
だが少年にはできていた。何故なら彼は元の世界では世界最強、最悪の暗殺拳「竜殺しの雷をも凌駕する滅殺拳」を習得、奥義も会得していたのだから!
「いや、名前長い!ダサい!厨二臭い!」
とミスティアの叫びが草原に響き渡った。