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1.異物混入 弐


「あれ? 連珠どこいくの?」

「ちょっと忘れ物!」


 私はサツキにそう言って教室を飛び出した。

 廊下を早足で歩きながら目的地の最短ルートを刻む。


《状況、分かってる? シノ》

《我が輩も今気がついた。ここまでの侵入を許すとはなかなかやるな》


 頭の中に渋い声で返答が来る。私の町の霊脈を管理する自律型の使い魔だ。

 名前はシノ。歳は人間で言うところの四十歳。なぜかダンディなおじさまの人格を好む。私の教育が悪かったのだろうか?

 なんか落ち着いているのがムカつくし。人ごとだと思いやがって。


《ああもう。落ち着いてるんじゃないわよ! 一大事よ、一大事!》

《で、あろうな。規定通り校舎を要塞化する。死ぬなよ、レンジュ》


 こんな日が来るなんて・・・。そりゃちょっとは考えていたからこそ屋敷と学校をがっちがっちに要塞化しているんだけども。

 この学校には霊脈のライン上に建てられていて、私の魔力を流さずとも地下の霊脈を動力源とする結界魔術を起動させることができる。省エネっていうやつだ。自分の魔力を使わないので意外と構築するのが難しく、融通が利かないのが難点か。


 ああもう、どうしてこうなったんだろ?

 こういう日の為に、ダミーの祭壇を作って私のことがバレないように何重もの対策しているのに・・・。ここだって起動させなきゃただの学校。私みたいにうら若き魔術師が土地を管理しているだなんて誰にもわかりっこない。


 そもそも他人の管轄地に飛び込むなんてよっぽどの馬鹿だ。

 魔術師の勝負とは、霊脈の取り合いというボードゲームみたいなもので、それを制せば土地の力を全部自分のものにできる。

 普通、魔術師なら霊脈確保の小競り合いをしつつ、半分ほど奪われたら交渉ってのが筋ってもんじゃない?

 いきなり乗り込んでくるなんてのは、素手で要塞に乗り込むようなもので、ランボーみたいな活躍をしないかぎり勝てる見込みはない。ランボーは映画だから成功するのであって現実は不可能だ。


 私は同級生達の間をすり抜けて階段を上り、屋上へとたどり着いた。

 ガチャンと分厚いアルミ製の扉を越える。


 この県立東雲北高校は高台の上にあって、屋上だと他の家屋から見えない立地だ。

 さすがにここまで来ると私の中の覚悟も決まった。


―――やられる前に、やる。


 なんて啖呵よく言い切れればいいのだけどまぁ普通の女子高校生に命のやりとりを即座に決意するなんてことができるわけでもなく。

 さりとて魔術師がその決意を決めかねているなんて冗談にもならない。

 

 つまり、私は中途半端にこう思うわけだ。


―――穏便にお引き取り願おうってさ。


《それはどうかと思うぞ、レンジュ》

《うるさい。普通の女子高校生を舐めるな。私は日和見主義なの!》

《その立派な胸を反らせて言うことでもないな》

《セクハラ使い魔は黙っててよ》


 失礼なヤツだ。霊脈ラインがつながっているとはいえ、乙女の心の声を聞くなんて。しかも人格はダンディなおじさまなのだからセクハラだ。


 そんなことはいい。いまはお客様を出迎える用意をしなければ。

 

 私は目をつむって、屋上の中心で呟く。

「―――先手黒、天元」


 その言葉、呪文が風に乗った瞬間に世界が切り替わる。


 ここに、私の自我が世界を支配する。

 私の身に移した魔術という形が世界を覆い、その自我で生み出されたルールに世界が従う。


 それで敵の魔術師をバババっとやっつけるような魔術ができたらいいのだけど、私の魔術はひじょーに地味だ。地味すぎて自分自身でもビックリする。

 東雲一族の叡智なんて安いものだ。

 そんなんでも私には大事な秘術。上手いこと付き合わないと死んじゃう。


 私が場を作り上げたのと同時に衣擦れのような小さな音がした。


「君が、東雲連珠か?」

 思ったより若い声。艶のあるような、もうちょっと歳をとって磨けば渋くていい声になりそうな男の子の声。


 私は目を開ける。

 相手は屋上の(ふち)に立ってローブをなびかせて私を見下ろしていた。


「そうよ。人の縄張りに土足で上がり込んでくるなんて礼儀のなってない人ね」


 舐められないように挑戦的にいってはみたものの、相手はどこ吹く風。


「無礼は承知の上、だがこちらも事情が事情なだけに許してほしい」


 あら?

 なんか思っていたのと違う。意外と、話が通じる?

 ちょっと期待を込めつつ私は嘆息気味にお願いする。


「事情は聞いてあげるから、その物騒な魔術止めてくれない?」


 ほんと物騒な魔術だ。びんびん魔力が漏れて、いつでもお前を攻撃できるんだぞって感じ。

 他人の魔術ってのは神経を逆なでする。魔術というのは自我で世界を無理矢理従わせるものだからその人の嫌なところを押しつけられているような気分になる。


 その魔術師は右手で自分の眼帯をひと撫ですると首を振った。


「申し訳ない。俺は君を攻撃しなければならないからな。それは聞けない」


 げ、やっぱ無理だったか。

 つか攻撃しなければならないって何よ?

 迷惑! 迷惑すぎる!


「名乗るのを忘れていたな。俺の名はシィーラ・ゼル・レーウィング。いざ尋常に―――」


 あ、やばい。

 本気で来る。


「決闘を申し込む。狂月霊光(ルナ・ルークス)

「花月」


 紙一重、光が屋上で爆発した。

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