プロローグ
―――魔法使い、だなんて言葉はどこに行っても溢れていて説明をするまでもないと思う。
自然を越えた超自然的現象なんて説明しているんだかしていないんだかよく分からない言葉でひとくくりにされる。まあ要するに奇跡みたいな力ともてはやされ童話やファンタジーの小説に必ずと言っていいほど出てくるわけだが、実際はそんないいものでもない。
現実世界、とくに最近では携帯電話なんてものが出回り、世界の裏側にいる人から電話がかかり、ちょっといじれば様々な情報を手に入れて、外出先でも迷うことはない。
よく考えれば、二百年前にそんなものがあるって過去の人に教えてあげればきっとみんな笑うだろう。
それ、なんて魔法だい? ってさ。
要するに何が言いたいかと言えば、魔法だなんて言葉は現代社会に通用するはずがないってこと。
だってそうじゃない。
鉄の塊が空を飛び、見えない電波で膨大な情報を手に入れ、現実かと思うほど精密なリアルを再現する画像技術があり、自分と同じ体を生み出すクローンがあり、宇宙あるいは海底まで到達できる機械を作り上げる。
そんな世界に生きているわたしたちは別に魔法にすがる必要はない。
わたしのお師匠様が言っていたことだけど、科学に及ぶ魔法はないって話が頷ける。
魔術師や錬金術師達が鞍替えして科学者になったって話はわたしたちの中では通説で、自分の孫の孫、そのまた孫を生け贄にして魔道へと通じる奈落にたたき落とすなんてことをする必要はなく、自分の子供達の成績表をのんびり眺めながら学校教育に任せて自分はゆっくりと普通の仕事をすればいい訳なのだから。
で、本題なのだけど。
私がぐちぐちと文句を言うのは正当性があると思うわけよ。
そんな平凡で平和に過ごせば苦労もない世界なのにどうしてか私の一族はまだ魔法にご執心で私の将来はご愁傷様。
普通にしていれば一生遊んで暮らせるだけの資産を切り崩し、私のことを投げ捨てるようにお師匠様に任せて自分たちは神秘の魔術を探しに秘境ツアー。
私は泣く泣く一般人のふりをして学校生活をしながらチマチマと暗い地下室で古くさくてカビの生えた書物を読みふけるのだ。
ほんと、世の中は上手くいかない。乙女の青春をなんと思っているのだろうか。
文句をいっても何かが変わるというわけではないのだけど、もし私の心の声がとどくなら少し知っておいてほしい。
私の名前は、東雲 連珠。
絶滅危惧種に指定されそうな、うらぶれた―――魔法使いだ。