アスタリア国の王族 やってやりましょう!
ピア帝国の帝都に最も近い島にアスタリア国第二王子がいた。一般人はおらず、鬱蒼と生い茂る草木の中に佇む小さな白い建物があるだけ。
第二王子の名はタリアム・トマ・アスタリア。十五歳。ピア帝国によって流刑地にいる。
「兄上が!助かったのか!」
タリアムは忍びからの知らせに思わず声をあげた。安堵の溜め息を吐き、どっかりと椅子に座り込む。しばらく俯いていたが、やがて顔を上げるとその目には涙がうっすら溜まっていた。にやり、不敵な笑みを浮かべ、兄とはまた違う底光りする目を開く。
帝国第二皇子ウィルはある場所へ向かう。城内からかなり離れた場所にある部屋の前で立ち止まると、引き連れていた従者を下がらせて声をかけた。
「エレアス殿、よいですか」
しばらくすると了承の声がしてそっと中に入った。
あの頃から少しばかり態度が和らいだ気がする。ウィルはエレアスを見て、自然と笑みがこぼれた。
「ユドリアム王子が竜使いの一族によって救出されたそうだ」
「・・・!」
エレアスはウィルの言葉に全身を震わせ、口元を手で覆った。涙が頬を伝い、その場に泣き崩れる。エレアスは俯いたまま涙を拭くと、強い意志を秘めた目をウィルに見られぬようそっと隠す。
(兄上、私も頑張ります)
「そうか。兄上が」
アエイネスの元に訪れた忍びがすっと姿を消した。一人っきりになった廊下で、懐から鞘に嵌った短刀を取り出す。わずかに刀身を抜き、そこに映る自身を見つめる。
「微力ながらご助力いたします、兄上」
パシン、と音を立てて刀身を元に戻すと、そっと懐へ元に戻す。伏せられた目には、隠された強い光が宿っていた。
第二王女ミリアスは閉じていた瞼をそっと持ち上げた。そこには従弟がいる。愛想よく笑みを浮かべ、深く一礼して身を翻す。腰まである長い茶髪が揺れ、緋色の衣装が舞う。誰もが息を呑むほどの美しい姫は踵を返したとき、表情をがらりと変えた。そこには笑みはなく、敵意に満ちた屈服することを良しとしない強い瞳があった。
「この命、アスタリアと兄上に捧げますわ」
アスタリア国王族たちが静かに動き始める。