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竜使いテラル   作者: 彩
一章 覚醒
4/38

新たな出会い テラル、初めて戦いました!

 テラルはただいま不機嫌であった。

 原因はフォアロとの喧嘩である。普通の人間が聞けば一笑するだろう。竜と喧嘩?バカバカしい、と。しかし、竜使いの一族ではあることだった。その中でもテラルとフォアロは頻度が高い。まるで同種同士だ、と一族のみんなから言われる始末である。

 喧嘩の内容は単純だ。フォアロが飛行を拒否したのだ。テラルがあまりにも自分の身体を気にせず、高速飛行を命じてきたことにフォアロが懸念の色を浮かべたのだ。時間が大切なのはわかる。だが、もう少し身体を労われ、と。フォアロの意見は真っ当なものである。しかし、焦っていたテラルはそれを受け入れることができなかった。

 この間にもユドリアム王子がピア帝国に見つかっていたら?手に落ちていたら?自分はこれ以上、何もすることはできない。敵に見つかる前にしか、自分の力は発揮できない。死んでほしくない。あと六日。六日しかない。・・・時間がない、早く行かなければ。

 それしか見えなくなっていた。そのテラルに警告を発したのがフォアロだった。

 その意見の食い違いが頂点に達し、フォアロは飛行することさえも拒否したのだ。フォアロの最大の意志表現だったのだろう。

 テラルは怒りのままフォアロの元を去って行った。・・・そして思い知った。自分は本当に単純でバカであると。フォアロが飛行拒否すれば、テラルの移動速度は格段に落ちる。フォアロが飛行拒否してくることを想定していなかったので、これからどうしようかと呆然とした。フォアロなら簡単に行ける場所も人の足では行けない。そんな所が山ほどある。カットム城塞はまさにそういった場所の一つだ。山々に囲まれた場所にあるカットム城塞は徒歩でいけるような場所ではない。冬の大雪に強い馬で辿り着けるような場所だ。だが、そういう馬は遅い。ただでさえ、毎日竜に乗って空を飛んでいるのだ。普通の早馬でさえ、かなり鈍く感じてしまう。

 カットム城塞までまだまだ距離がある。とりあえず、今日は情報収集と食料を少し買い入れよう、と決意し、近くの都市へ入った。

 今日は美しい夜空が見えない。はあ、と重い溜め息を吐き、路を歩く。フォアロの体温が恋しい。素直に謝ればいいのだが、なぜか素直になれない。

 露店で日持ちの良い干物や今から食べる夕食を買い入れる。適当な場所で肉団子の入ったスープをつっつく。ほくほくと湯気の立つ簡素だが美味しい夕食を食べ終え、少し気分が上昇する。

 懐が少しばかり寂しい。安宿を探そうと路地裏へ回った。寝れさえすれば、納戸でも物置でも構わない。

 不意に視線を感じてそっと振り向いた。何もいない。誰もいない。

(だけど・・・)

 確かに誰かがいる。しかも、一人や二人じゃない。大人数が近くにいる。うなじにぴりぴりと刺すような痛みが走る。外套の中で短剣を抜く。

(一体、何なの?私、何かやらかした・・・?)

 自分の目的がばれたのだろうか。だとしたら、いつ、どこで・・・?

「おまえだなああああっ!」

 予告もなく罵声が響き、何人ものピア帝国の兵士が剣を抜いて襲い掛かってきた。

(いやいやいやいや!誰!おまえって、私?知らない知らない!)

 半分驚愕、半分冷静な頭で彼らを見やる。そして、自分以上にコイツらは阿呆だなと結論付ける。

(こんなところで長剣だの、槍だの・・・)

 狭い路地裏で長さのある武器は使いづらい。間合いに入られてしまえば、それ以上防ぎようがないし、こんなに大人数なら尚更だ。味方を傷つけてしまう。こういうときはせめて短い槍。向いている短剣、懐剣を使うのが良い。飛び道具も不利だ。照準を合わせる前に斬られてしまう。

 落ち着いてそんなことを分析していると先頭の兵士が突っ込んできた。

「私、あなたたちのこと知らないんだけど!っと!」

 一人目の兵士の一撃を短剣で受け止め、押してくる力に抗わず、後ろへ流す。ちょっと力を入れて背中を押しただけで兵士はバダン!と大それた音を立てて転がった。

「あらら・・・。もろ」

 普通の人間と戦うのは初めてで力加減がわからなかったものだから、ちょっと力を抜いてやったのだ。だがそれでもこの有様である。思いっきりやってしまえば簡単に全滅できるな、と思いつつ、次の兵士を捉える。

 すっと姿勢を低くし、頭すれすれに槍の穂先が掠める。その槍の柄を掴み、ぐっと自分の方向へ引く。兵士の悲鳴と共にテラルの短剣は迷うことなくその胸を突いた。

「つっ・・・!」

 初めて人を殺そうとして胸を刺した。胸を刺して殺した。生々しい人の断末魔の声。骨と肉を裂く感触が短剣を通して伝わってくる。目を逸らしてはならない。これは戦だ。戦は人が人を殺し、殺しあう世界。その中で人を殺さなければ自分は死ぬ。自分だけではない。後ろにいる大切な人たちが自分を突き破って刺されてしまう。

(だけどっ・・・)

 人を殺めることを正当化してはならない。それは断じてしてはならないことだ。

(私は人を殺す。もっとたくさんの人をこれから・・・)

 止めるつもりもなければ、後悔もしない。だけどそのための代償なら背負う。

「たああっ!」

 テラルの覇気に怯んだ兵士を薙ぐ。よろめく兵士の肩い飛び乗ってまだ戦意のある者へ刃を向け、舞い、斬りこむ。地面へ着地したところで複数人が一斉に襲い掛かってくるのが耳でわかり、屈伸した脚の反動を使って跳び上がった。

「飛んだっ!?」

 女の身体特有の柔軟性を使ってわずかな隙間からその囲いを破る。一瞬のことに動きが追いついていない彼らの首を裂く。何が起こったのかもわからないであろう、彼らはしばらくの間立っていたが、やがてぐらりと身体が傾いて絶命する。

 フッと風を切る音がし、反射でその物体を短剣の横で弾く。・・・毒針だ。

「あんたたち、私よりずっとバカだよ・・・!」

 もう一度毒針が飛び、テラルは弾くというより叩き切ってその兵士の元へ走る。突然、目の前に大きな男が現れ、勢いを殺しきれなかったテラルは踏みとどまれず、つんのめった。

 パアン!と甲高い音と共にテラルの短剣が宙を舞う。

「しまっ・・・!」

 テラルの叫びに男はにやりと笑う。

 男はテラルの短剣を跳ね上げた反動で完全に身体ががら空きだ。何のつもりだと思っていると男の脇から新たな兵士が潜り抜けてくる。

「連携最初からやんなって!」

 テラルは嬉々としてそう言うと息絶えた兵士の持っていた槍を足で跳ね上げた。

 兵士の驚愕とテラルの不敵な笑みが交錯した次、テラルはその槍でぐさり、と相手の胴を刺した。兵士の顔に信じられぬ、という色がその目に浮かび、苦悶の表情を見せる。思わずテラルは顔を歪め、視線を逸らしてその槍を抜いた。

「まだ戦う?」

 胴を刺しただけだからかその男は地面に転がっても、荒い息遣いをしながらこちらを睨んでくる。

 その目を見た途端、全身に熱いものが貫いた。

 弛緩していた筋肉が増幅し、引き締まるような感覚。ドクドクと血が滾り、視覚も聴覚も鋭敏になる。血の臭いが鼻の奥から全身を包み、むせ返るような気分になる。凶暴な何かが身体の底から膨れ上がり、抑えていた箍が外れそうになる。

(これがっ・・・)

 竜使いの一族の者たちが秘する力。普段はその力を眠らせているが生死をかけるその時に現れるという凶暴な力。五感が発達し、筋力が増強し、理性が弱まり、獣のような本能が強くなる。普通の人間が恐れた力。竜使いの一族が恐れた自分自身の力。

 握っていた柄にビシッと皹が入る。汗がびっしりと額に浮かび、息遣いが乱れる。

 自分自身が何者かもわからなくなりそうになり、恐怖で足が竦む。ここを離れなければ、とわずかに残る理性が必死に叫ぶ。

 槍を取り落とすと踵を返して走った。途中で自分の短剣を拾うと耳を塞いでただただ走る。抑えろ、抑えろ、と念じて無心になろうとする。

「待って!そこの女の子!」

 誰かが静止を求める声がしたが無視する。今振り返ると何を仕出かすかわからない。

「待ってーっ!」

 その疲労感漂う声音にテラルの歩調が鈍った。・・・何かおかしい。追手がそんなことを言うだろうか。言ったとしても苦しそうに・・・。

「ちょっと、速いって!」

 男の声が近くなる。気が散って速度を落としてしまったのかもしれない。駄目だ、と思った瞬間、頭の中でぎりぎりに引き絞っていた糸が弾けて切れた。

「ああああああっ!」

 テラルの絶叫がその口から迸り、目の前が血の色に染まる。「短剣」が「武器」というものであるという理解が消え、「武器」が「戦うための道具」であるという概念が消え、そして言葉という存在が消える。故にすべてが何を示すのかわからなくなった世界でテラルに残ったのは獣のような本能。つまり、闘争心。

 迸る声は声とは言えない。獣の叫び、というほうが近いそれを吠え、何のためらいも無く脚で蹴り上げた。金属の千切れる悲鳴に火花が散る。追いかけてきた男の太刀の刃がテラルによって折られ、男に驚愕の色が滲んだ。

「止めてください!俺たちはあんたに話があって来たんです!あのピア帝国のようにあんたを殺しに来たわけじゃありません!信じてください」

 男が必死にテラルの攻撃をかわしていたが最後まで避けきれず、その腹にテラルの強烈な一撃が入る。建物の壁に男が叩きつけられ、ぐはっと血を吐く。

「ぐっ・・・」

 男の呻き声にテラルは眉一つ動かさず、つかつかと歩み寄る。不意に闇の中からもう一人現れ、その黒い外套を羽織った男が腕を払うとテラルは宙を舞ってそれを見下ろした。テラルが今しがたいた所には手裏剣がいくつか地面に突き刺さっている。

 黒い外套を羽織った男はわずかに頬を歪め、テラルが間合いを詰めるとその分下がった。

「女、ユドリアム殿下を捜しているのではないのか」

 男の闇に響くような声にテラルはぴたりと立ち止まった。聞き覚えのある言葉があったかのように聞き耳を立てている様子で微動たりしない。

「ピア帝国の敵ということは味方だと考えてもよいだろう。・・・私は第一王子ユドリアム殿下の従者兼護衛を務めていた者。殿下を捜している途中、この騒動を聞きつけたのだ」

 ユドリアム、という名詞をテラルはしばらくの間耳の中で反芻する。外れていた何かが鎖で巻きつけられるかのように縛られていく。そしてそれに反比例するかのように理性が浮上し、周りの景色の彩りが蘇る・・・。

「つ、ああ・・・!」

 テラルはぱくぱくと口を動かし、息を吸った。自分が自分でなくなることへの恐怖は凄まじいものだ。身体が身の内に棲む何かに乗っ取られたかのよう。

「ご、ごめんなさい。正気じゃなかった・・・」

 語尾が掠れ、テラルはその場にしゃがみこんだ。

 あらゆる器官の箍を外したせいかかなりの倦怠感と脱力感が全身を覆っている。筋肉も少しずつ硬直を始め、動けなくなってきた。きっとこれが秘された力を使ったときの代償なのだろう。

「女、何者だ。なぜ、ピア帝国から狙われている」

「それを私も知りたいわよ」

 もっと言い返したいがあまりに疲れているせいでその気力もない。さっきのような人数に襲われたらもう戦えない。この力は最後の最後、後がなくなったときにしか使えない力となるようだ。

「いきなり声をかけてきて。その後ろの男は?たとえ私が正気だったとしても反撃されて当然でしょうよ。夜の路地裏で追いかけられるんだから。そんなんじゃ、お嫁さんもらえないんじゃない?」

 テラルは半ば自棄になりつつ言い放った。これ以上戦えないことへの恐怖が冷静さを欠けさせている。

「残念でしたー!俺はもう美人妻持ちで三人の可愛い子どももいる幸せいっぱいの男、現在二十八歳クルトです!しかし今は女に蹴り飛ばされ、痛くてしょうがないですっ!」

「・・・悪かったわね」

 テラルは思いがけない方向から反撃されてたじろいだ。黒い外套を羽織った男がいつものことのようにそれを聞き、テラルが腕を伸ばせば届く辺りまで近づいてきた。まだ警戒心はあるらしい。

「私は竜使いの一族の一人、テラル。あなたが言った通り、ユドを捜してる。その途中でなぜか急にあのバカな兵士に襲われて」

「ユド?・・・ああ、確かにそんなふうに呼んでいた女の子がいた。成長したのがおまえか」

「いちいち頭の中の思考回路を口にしなくてもいいんじゃない?」

 たいぶ言い返せるようになると気持ちにも余裕が生まれてくる。冷静さを取り戻し、ゆっくりとこの二人について考え始めた。

「協力しないか。一人でも増えるほうがこちらとしてはありがたい」

「・・・何の質問もしないの」

 テラルは訝しげに男を見やった。男は表情をあまり見せない性質なのか先程から淡々としているだけでこれといって反応がない。どこかエイルに似ていもいる。

「・・・そうね。一人じゃ行き詰って仕方がないから」

 テラルはそう言って無理に足を動かして立ち上がった。鉛のように身体が重い。さっさと横になって一休みしたいがここにいてはまた襲われるかもしれない。テラルの意図を汲んだのか黒い外套を羽織った男は踵を返して歩き始めた。

「大丈夫?」

 後ろでぐったりしている美人妻持ち・・・の男に声をかける。記憶が曖昧ではあるがかなりの力で吹っ飛ばした気がする。

「これが大丈夫だと思います?あんた、太刀の刃を足でへし折ったんですよッ!その勢いで蹴られて大丈夫だと思います?」

 テラルは若干引き気味で苦笑した。

(この人、男だよね?え、こんな人に美人妻と子どもが三人もいるの?)

「ごめんなさい。兵士に追いかけられているとばかり」

 心の声を棚にあげてテラルはそう言いつくろった。だが申し訳ないと思っているのは本心だ。頭を下げていると「まあ、俺も悪かったから」と言って男は立ち上がった。

(その喋り方で一人称は『俺』ってなんか違わない?)

 

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