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竜使いテラル   作者: 彩
二章 策略
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葛藤 美姫ミリアスの闘い方!!

アスタリア国が位置する大陸は冬。しかし、ある場所にはすでに春が訪れていた。アスタリアの王族が冬になると住まう離宮に第二王女ミリアスの姿があった。

侍女を一人も従えず、好きな花が一面に広がる畑で凛と佇む。まるで、美しい絵のようだった。

見張り役の兵士もその光景にほうっと嘆息し、どこか上の空でいる。緋色の衣装が映え、見目の美しいその王女の名はミリアスといった。

ミリアスは花の中に座り、手のひらに木の実を数個乗せている。そこに小鳥がさえずりながらミリアスの手の上や服の上に降り立って食べている。

長い睫毛を伏せ、その栗色の長い髪を風に靡かせている様は消えてしまいそうなほど透明で、幻想的だった。

さくっと草が折れる音で、鳥たちはぱっと飛び立った。ミリアスが名残惜しげに眺めていると、青年が申し訳なさそうにしていた。

「申し訳ありません、ミリアス様。鳥がいるとは気づきませんでした」

ミリアスは自分の手のひらに残った木の実を見、巾着に戻すと青年を見上げた。

「いいえ。気にしておりませんわ。鳥ですから、いつかはまた羽を休めにこの庭に来ることでしょう」

ミリアスは優雅に立ち上がってふっと自然な笑みを浮かべた。

「エーミル殿。様はもういらないと言ったでしょう?貴方のおかげで私はこの地に留まれたのです。恩人に様付けされては、私の立場がありませんわ」

エーミルと呼ばれた青年は困ったように頬をかいた。

「ミリアス様はユドリアム様の妹君。私はただの王弟太子。そこは譲れません。命令でしたらお聞きしないこともありませんがね」

「変なところで真面目ね。私が良いと言っているのに」

 ミリアスは先に歩き出し、後からエーミルが続く。庭を出ると宮の中へ入り、長椅子に腰を下ろした。ミリアスの前にエーミルが佇む形になると、ミリアスは小さく溜め息を吐いた。その様子も憂いを浮かべているように見え、エーミルは内心で満足した。

「アエイネス様とエレアス様にお会いできるよう、取り計らってはいるのですが、なかなか立て込んでいるようでして」

「そう」

エーミルはすっと手を伸ばすとミリアスの髪の毛に指を通した。滑らかな栗色の髪を撫でると、ミリアスは頬を赤らめることもせず、無邪気に小さく笑った。

「優しい手。その手で私の父上と母上を殺しただなんて、嘘みたいだわ」

「私に従いさえしていただければ、安全は保障いたしますよ。ミリアス様。ピア帝国は今この世界で最強の帝国。私は次期皇帝となられる皇太子殿下にいずれこの地の総督という身分をいただく予定です。そうなれば、このアスタリアは万丈のものになるでしょう」

エーミルの言葉にきょとんとした表情をミリアスが見せると、エーミルは愛でるようにその頬を親指でなぞった。

「貴方はこのアスタリアを守るためにピア帝国の属国になることを選んだの?ピア帝国の傘下になれば、それ以上の脅威はないと、エーミル殿は考えたのかしら?」

「そうです。私を恨みますか?王を殺し、王妃を殺し、アスタリア国を売ってユドリアム様を殺そうとし、今も殺そうとしている私を。・・・この状況の根源は私ですからね」

エーミルは淡々とそう言い、ミリアスは笑みを深める。

「いいえ。エーミル殿はエーミル殿の信じる道を選んだだけですわ。それに私たちは負けてしまった。それだけですわ。恨むのなら、自分自身の弱さを恨む。貴方を恨むなど、思慮が浅いもの」

そう言ってミリアスはエーミルの手に自分の手を絡めると魅惑的な微笑みを浮かべた。十四歳とは思えぬ、その大人の女のような姿にエーミルはごくりと唾を飲む。そして鋭く深呼吸して、笑みを返した。

五歳も歳下の娘に何を、と自分自身に喝を入れる。

「そうですか?仮にも親を殺した(かたき)ですよ?貴女たちは家族が大好きでしょう。それを奪った私に何も思わないとは、信じられませんね」

「では、この手で私を殺してみますか?そうすれば、私が命乞いでもして、貴方に恨み言のひとつやふたつは言うかもしれませんわ」

言葉ではとんでもないことを言っているにも関わらず、それに違和感さえ感じさせない空気をミリアスは纏っていた。

この娘のいずれ老いて死ぬなどという様をエーミルは想像できなかった。不老不死で多くの者を魅惑し、高みから人を見下ろしていて・・・。

この娘を屈させることができれば、どれほどの快感が得られるだろうかと思う。今この娘を説き落とすことができるのは、この娘の姉や兄たちだけだ。

「それは無理ですね。私は貴女を殺すつもりはありまんから。余計な死体を増やす趣味などありません」

ミリアスは表情を一切変えず、くすりと笑った。エーミルは、歳相応の反応を見せないこの娘になんだが不憫さも感じていた。

「貴方が総督になったらどうするの?この地をどんな風にしていくの?」

ミリアスからの珍しい問いにエーミルは少々驚きつつも、よどみなく答えた。

「臣民権を早く手に入れることが第一の課題ですね。ピア帝国と共に世界を渡り合える地に」

そこでふと思ったことが口に出た。

「私が信用なりませんか?」

そう言うとミリアスは大きく目を見開いた。どこか不貞腐れた様子で視線をそらす。

「心外ですわ。私が信用ならないのはピア帝国。私、あの国好きじゃないわ。頭でっかちみたいじゃない。臣民権を得られていない属国も多いと聞くわ。経済だって、我が国に劣っているもの」

エーミルはおやっと眉を上げた。ミリアスは政や外交に興味はないはずだった。

「いやでも耳に入りますわ。敵国なのですから」

そんなエーミルのことを読んだのか、偶然か、ミリアスはそう言って手を離した。

「大丈夫ですよ。ピア帝国の西側は臣民権を得て、徐々に発展しています。それにアスタリアは下地良いですからすぐにでも得られるはずです」

「そう。・・・ピアの皇太子と仲が良いのね」

少し皮肉めいた言葉にエーミルは苦笑した。

「ええ。かなり変わったお方ですがね。貴女との婚約も認めて頂けましたよ。箔付きです」

ミリアスは「え」と声をあげてエーミルを見た。戸惑いの色を浮かべている。

「婚約?兄上の決めたことでしょう。別に今更」

「皇太子様直々のご命令です」

ミリアスははっと息を呑み、顔を伏せた。しばらく黙っていたが、立ち上がり、宮の奥へと歩を進めた。

「お稽古の時間になるわ。・・・ウル」

従者の名を呼び、ミリアスはエーミルが付いてこないように早足で去った。


ミリアスは「はあ〜」と疲労の滲むため息を長々と吐いた。

「エーミル殿は皇太子から総督の地位を頂くそうよ。

私との婚約関係も破棄されていなかった・・・。私という正統な王女を総督の妃にでもして、国民の不満を和らげる狙いがあるのでしょうね。総督が王弟太子であったエーミル殿になるのであれば尚更。・・・それに西側は第二皇子の直轄地で皇太子とは関係ないことを知らないようね。政権争いでただ利用されているとは気づいていないみたいだわ」

寝台に大の字になって横になり、扉の近くに立っているウルに言う。ウルは何も言わず、聞いているだけでこれといった反応はない。

「私、貴方の声を聞いてみたいわ」

起き上がって強請るが、ウルは視線を逸らす。拒否の意味が込められたその行為にミリアスは慣れているとはいえ、落胆した。

ウルとは一度も言葉を交わしたことがない。互いに決めた合図か筆談ででしか意思疎通を図ったことがなかった。声も出るし、話せるそうだ。だけど、話さない。これも筆談で知ったことだ。

「兄上を頼みますわ。貴方、私からこの国の内情を知るために私の従者になったのでしょう。やり遂げなさいよ。私も私の武器を使って、あのバカな男の面に泥を塗ってやるんだから」

ミリアスがそう叫ぶとウルが少し、微笑んだ気がした。

「貴方が知りたい情報はいくらでも流すわ。見返りは兄上を守って。絶対に」

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