2人の全力PVP
遅れた割に文字数少ないダメ具合。
しかし、次は頑張ります…!・・・・・・・って言ってたらフラグになるんだろうなぁ。
グランディオーソの森を抜けて、チルの案内に従いながら歩く事数分、ユウ達は目的地にたどり着いていた。
「なあ、ユウ…」 「ねぇ、チル…」
ナギとアキが同時に声を出す。
「「これ、町じゃなくて村だよね…!?」」
「…あれ、町って言ってた?」
「もしそうならすまん。 これは村だ」
そんな軽い調子のユウとチルを横目に、ナギとアキはため息を吐く。町と聞いていたからどんな所かと思っていたのだ。
「えーと…。 取り敢えず手伝ってくれてありがとう。 俺は報告言って行くるな」
「んじゃ、俺はアンダンテに戻るかって言いたいんだけど、あの森また通らないといけないのか…」
だるそうに呟くナギ。
「大丈夫。 あの防護壁とかはシナリオクエスト受けてる人がPTにいたら出てくるだけで、通常は森通過用ダンジョンみたいなものだから」
「あ、じゃあアキも一旦戻るー」
「りょーかい。 お疲れ様」
そう声を掛けてナギとアキを見送る。そこで、ユウはチルに向き直る。
「で、お前はどうするの?」
「私は、後2時間ぐらいフリーだから」
「へー。 じゃあ取り敢えず俺は報告行くかな」
「よければ、案内する」
「助かるよ」
ユウはチルの申し出を有難く受けて、村を案内してもらう。アンダンテほど広くは無いが静かで木々に囲まれた良い村だと思う。
ちなみに立て札に書いてあった村の名前はトランクィッロと言うらしい。静かにという意味の演奏記号だ。
案内が終わり、村長の家の前まで到着する。
チルは、2人きりなのだからユウがログアウト不可プレイヤーであるかどうかを聞こうか迷っていた。気いて良いのか、自分でも分からなくなったのだ。その間にユウは村長の家に入り、報告をすませる。
ユウが出てきたら聞こうと思い、大きく息を吸って、吐いた。
「おまたせぇえ!?」
村長の家を出たユウは突然チルに掴まれ、ズルズルと人気のない場所に連れて行かれる事に戸惑った。最初はこのままフィールドに出て殺されるんじゃないか、などと思ったが村の中の人気のない場所で立ち止まったので、少なくともPKされる心配はなくなった事に安堵する。
「ど、どうしたんだ…?」
「えと、その…。 聞きたい事がある」
「俺、お前の知らない様なこと知ってるとは思えないんだが…」
「大丈夫。 寧ろ貴方にしか分からない」
その言葉の意味をユウは理解できなかった。
だが、続く小さな、聞くのを躊躇う様な声で紡がれた言葉で完全に理解した。
「貴方は、ログアウト不可プレイヤー…?」
「………あー、まぁチルなら大丈夫か。 良く分かったな」
「これ」
チルは一番最初にログインした時に貰ったメールを周囲の人にも見える様に可視化してユウに見せる。そこには、ログアウト不可プレイヤーが1人いるという事と、そのログアウト条件が記載されていた。
「なんでログアウト可プレイヤーにまでログアウト条件が記載されてんだ…」
「これを見て、何となくそうじゃないかな、て…。 後、私がログインしたら絶対にいたし…」
「やっぱそれでバレるよな…」
チルはこの質問でユウの気分を害さないか心配していたのだが、ユウは全く雰囲気が変わった様子も無い。言葉にトゲも無ければ表情が苦々しくなる事も無い。
「辛く、ないの?」
「んー…。 夏休み中に終わらせる気だし、多分大丈夫だろ」
「でも、現実の身体が…」
「それに関しては運営が何かしたみたいだけどな」
チルと同じくメールを可視化して見せる。それを読んだチルは顔をしかめる。
「これ、法的に大丈夫なの…?」
「知らん。 が、どうせ夏休み中ずっとゲーム三昧を決め込んでたんだから別に不都合は無いしな」
「そう」
ユウは特に重く考える訳でもなく、寧ろ軽く考えている様な気がする。
チルにとってはまるで羽根の如く軽すぎる考えだと言わざるを得ない気もするが。
そして、ふとチルは思う事があったので尋ねてみる事にした。
「ねぇ、夏休み中って言ってたけど、学生?」
「え、現実情報公開する必要あるの…?」
「私だけ学生って知られてる。 不公平」
そう言えば補習とか言ってたな、なんて思いながらユウは子供の様に不服そうにしているチルを見つめる。
「学生だよ。 流石に何処に行って何年とかは言わないけど」
「言わないとPKするって言ったら…?」
「返り打ちだな」
「ふ。 現実情報を情報として売られたくないなら、無駄な抵抗はよした方が良い」
「それは卑怯だろ!」
ニヤリと笑いながら個人情報--といっても学生という事だけだが--を盾に脅迫してくるチル。口調から冗談だという事は容易に読みとれる。
「でも、ユウがどれだけ強いのかは見てみたいな」
「結構一緒にPT組んでた気がするんだけど…って、ボアの巣では仕様変更に混乱してこっちなんて見てなかっただろうし、防衛線突破ではそもそも離れてたし見てなかったのか」
「そう。 だから、PVPでしっかりと見る」
「片手武器×2対両手武器とか勝てる気がしないんだけど」
「さっきので【太刀】も【身体強化】も【エンチャント】も20以上になってるでしょ」
ユウのスキルレベルを的確に見抜いてるチル。だが、幻影を言わなかった所を見るにその存在には気づいていないのだろうか。
「…まぁ、私は拳銃とナイフは30超えてるけど」
「【AGI】全力で逃げ出したい気分だ」
「そんなことしたら後ろからハチの巣にする」
そう言ってまだ装備しっぱなしだった拳銃に手を掛ける。割とチルは本気で戦おうとしている様だ。
「別にいいけど、せめて広い所でやろうな?」
「当たり前。 狭い所なんて、有利過ぎてつまらない」
確かに、狭い場所で拳銃による攻撃なんて有利以外何物でもない。さらに近付けばナイフによる近接戦闘が展開される。ユウは出来るだけ拳銃持ちと狭い場所で戦うのは避けようと心に刻んだ。
チルの案内の中で通ったそこそこ広い広場の様な所にでる。この村には子供のNPCがいないのでそこは基本的に無人だ。
「楽しみ」
「戦闘狂め」
【チルから1:1のPVPを申し込まれました。 受諾しますか?】
そんな文字と共に【はい/いいえ】のボタンが現れる。はいを押して、太刀を鞘から抜き放つ。チルはナイフと拳銃を構える。
受諾と同時に、HPバーが別のものへと変化するデュエルHPバーと呼ばれるものだ。このが0になると負けになり、その場でPVPが終了する。HPが全損した時の様に町に戻される事も無い。
両者の間でカウントダウンが始まる。10秒から始まり、だんだん小さくなって行き、そして--
【デュエル!】
文字と共に両者は最初から【AGI】全開で突貫する。チルは数発撃ちながら近付いて来る。
ユウはチルが言っていた事を思い出す。矢ならば属性なしの物理で落とせる、魔法なら同属性のエンチャント攻撃で撃ち落とす事が出来る。銃弾をどちらかに区分するならば確実に弓だ。
銃弾の速度は矢の比では無い。しかし、ユウの【AGI】全開の【一閃】はその全てを叩き落とした。
今のユウは直樹の家でVRゲームをやらして貰った時、少しPVPをやっていた時を思い出しながらやっている。そのままあの時の動きをトレースする様に動く。
「「っ」」
両者の得物がぶつかり合い、火花のエフェクトが散る。
互いの実力はほぼ互角。隙を見せた方が負けという状態だ。
チルが至近距離から放つ銃弾を全て本能的に回避し、時には勘で避け、的確に反撃を入れる。
だが、ユウの攻撃をやすやすとくらうチルでは無い。太刀の振り抜かれる位置を的確に読み、紙一重で避け続ける。
互いのデュエルHPバーは一向に減らない。そこで、ユウは勝負に出る。
「…【幻自影】」
少しチルと距離を取って小さく呟く。出現させる位置はチルの背後上空。
距離を取られたチルも、黙っている訳ではない。再び距離が縮まる前にリロードし、拳銃を構えてくる。
「【ストームバレット】」
複数の弾丸が襲いかかってくる。何時の間に掛けたのか、その全てにアイス・エンチャントが付与されていた。
このまま直撃を貰うと、確実にユウのHPは8割ほど削られるだろう。
だが--
「【幻影交代】」
幻影スキルレベルが10になった時に習得したスキルだ。名前のまま、自身と幻影の位置を入れ替える。
ユウはチルの背後上空に出現し、ユウのいた場所には先ほどまでのユウと同じ構えを取っている幻影が現れる。他者から見たら入れ替わる瞬間に、少し違和感がある事に気付くかもしれない。
ユウはライトニング・エンチャントを付与し、背後に着地。慌てて振り向くチルに向かって太刀スキルを発動させる。
「【一刀六撃】」
「幻、影なんて…!」
太刀スキルレベル20の技。【AGI】依存のスキルだ。ユウの太刀が振り抜かれる。横薙ぎに一度だけだ。
その瞬間、チルは6個の斬撃によってHPを根こそぎ奪い取られた。ユウの【AGI】は伊達では無い。
【WIN!】
ユウの視界に表示されるのは勝利の通知。チルのHPを削りきれた事にホッとしながら太刀を鞘に納める。チルは不満げにユウを睨んでいた。
「こっそり武器破壊スキル使ったのに、なんで壊れないの…? ナイフでの攻撃はほぼ武器破壊攻撃だったのに…」
「………さ、さぁ。 偶然じゃないか?」
「…心当たり、あるんだ」
「無い無い」
「ちょこーっと村の外まで付いて来てくれないかな…?」
「何をする気だーっ!?」
「ちょっとなんで壊れないか教えて貰うだけ」
そう言うなりチルは【STR】を全開にし、さらにパワーアップⅡを発動させて無理矢理ユウを引きずって行く。【AGI】でこそ負けてはいるが、【STR】では圧倒的にチルの方が高い。
その後、人気のないフィールドでナイフ&拳銃使いの尋問(と言う名の拷問)に必死に抵抗する太刀使いによる戦闘が繰り広げられていた。
△ ▽ △ ▽
「あぁー。 楽しそうだなぁ…」
PCの画面の前でボーっとユウの行動を見ているのもつまらないのだ。自分ではない誰かと仲良くしている姿を見続けるのは気持ちがもやもやするのだ。
別に嫉妬している訳ではない。ただ、自分もあの中に混ざりたい、と思った。
だから、添えつけの電話を手に取り上層部に連絡を入れる。
「ねぇ、私もユウと遊びたい」
それに対する対応は、許可だった。直ぐにゴーグルとソフトを送ってくれるそうだ。
運営がログインしても良い理由として、夏休みまでに終わる様にサポートする事、という条件を付けられたが、少女にはどうでもよかった。
数時間でそれは届いた。
ソフトを入れ、ゴーグルを付ける。ベッドは1つしかないので優の隣に寝っ転がる。そして、その腕を抱きしめる。
「みんな、お友達になってくれるかな…」
期待と不安が混ざり合った様な声色で言葉を紡ぎ、電源ボタンをONにした。
少女の意識は、ゲームの中へと導かれて行った。
『キャラクター設定』
暗闇にその文字が浮かぶ。少女は迷うことなく情報を入力して行く。
『名前:ほしねこ』
『使用武器:杖』
「………」
スキルの所で、一瞬だけ悩む。が、本当に一瞬だった。
『スキル:杖(魔法効率UP)、火魔法、氷魔法、地魔法』
『容姿:全現実』
「さてと、早く追いつかなくちゃ」
設定を完了し、視界が明るくなったと思ったらアルトにいた。最初の町だ。
「どうせなら、驚く様なスキル持って行きたいしなぁ…」
ほしねこは5秒ほど考え込んだが、直ぐにとあるスキルを思い付き、考える事を止めた。
初期装備だが、彼女は運営側だ。何処で何をすればどうなるかなんてすぐにわかる。
ただ、流石にゲーム内でGM特権を使う事は出来ないようだった。
「よし、行こうっ」
ほしねこは最短でレベルを上げるために、アルトの町を出て行った。