全員集合
少し遅れました。 申し訳ないです…。
帰り道は特に何事も無く帰る事が出来た。強いて挙げるならばアキが静かだった事だろうか。
アンダンテに戻り、アキが露店を出していた広場に戻る。閉じていた露店を再度開き、商売の用意を始める。
ユウは何気なくアキの上がったレベルを見つめていた。
【名前:アキ】 【ルート:生産型】 【レベル:19】。
あの戦闘の間にアキのレベルは5も上がっていた。ちなみにユウのレベルは1しか上がっていない。
露店の準備が出来たアキは炉に鉱石を入れてインゴットの生産を始める。
「手伝ってくれてありがとね。 武器、いるよね?」
「今作ってるインゴットは自分の使いたい事に使えば良いよ。 俺は鉱石持ってても仕方ないし、これ使ってくれ」
取引ウィンドウを開き、そこに手持ちの鉱石を全て放り込むと、アキがキョトンとした顔でウィンドウを覗いていた。
「ねぇ、これは…?」
「ん?」
アキが指しているのは瑠璃色の鉱石だった。
「あぁ。 なんかやたら硬い青っぽいゴーレムがいたから倒したら出たんだけど…」
アキがゴーレムを乱獲していた時にユウが必死に討伐していたのだ。
青っぽいゴーレムの正式名は【ラピス・ゴーレム】。ドロップした鉱石は【ラピスラズリ】。その事をアキに告げると…。
「それ、レアMobだよ!? 全然気付かなかったよ…」
「てことは、その鉱石もレア物か」
「そだね。 返そうか?」
「いや、使わないしいらない」
「なら、これで武器でも作ってみるね」
自分の為に使うと言わないあたり、アキが良い人だという事が分かる。アキはラピスラズリを炉に放り込む。すると、通常赤く輝く炉が瑠璃色輝いた。
「…綺麗」
炉の輝きに目を奪われてしまうユウとアキ。それほどまでにその光は幻想的だった。
しかし、何事にも終わりは来る。瑠璃色の光はゆっくりと消え、1つのインゴットが姿を見せる。ユウとアキはそのインゴットを凝視する。
【ラピスインゴット】。
そう、表示された。
「瑠璃色の、インゴットか…」
「いつもは普通の鉄っぽい色のインゴットなのに…」
ちなみにその鉄っぽい色のインゴットは【アイアンインゴット】という名前だ。
アキはそのインゴットの詳細を確認して行く。詳細を確認するたびに少しずつ表情が曇って行く。ユウがどうしたのだろうか、と思い始めた時にアキは顔を上げた。
「このインゴット、武器を作れる事は作れるけれど…、太刀は作れないみたい」
「へー。 そんな制限の掛ったインゴットがあるんだなぁ…」
「ちなみに作れるのはナイフ、槍、長剣、鍛冶鎚…かなぁ。 後、アクセサリくらい」
「一言言っておくと、鍛冶鎚は恐らく武器じゃない」
恐らくではなく、100%戦闘用の武器ではないだろう。
「このラピス・ハンマーって、良い武器打てるのかな…」
「試してみたらどうだ?」
「え…。 アキの物にしていいの?」
「使わないし…」
ラピスインゴットを返そうとしてくるアキに何度目かの言葉を掛けるユウ。
「それじゃ…」
アキはラピスインゴットを自前の鎚で打つ。
1回、2回、3回…。叩き続ける。根気強く、ひたすら叩き続ける。それが、200回を超えたあたりでラピスインゴットが瑠璃色の光を放つ。
その光が治まった時には、インゴットは鍛冶鎚に姿を変えていた。
【ラピス・ハンマー】。
ユウは鍛冶鎚でインゴットを叩いて鍛冶鎚を作り出すのはなんだかシュールだな、なんて思ってもいた。
「うわぁ…、これ、凄い…。 レベル制限が無いくせに、目茶苦茶性能良いよ…」
「そうなのか?」
「うん。 普通低い攻撃力が高かったり、生産した武器に付加効果を付ける事が出来る見たい」
「試しに太刀作って見てくれないか?」
「うん。 このハンマーはお兄…ユウさんがくれたものだから、任せて」
アキはインベントリからアイアンインゴットを取りだし、炉に放り込む。十分に熱されたのを見計らい、炉から取り出してラピスハンマーで打つ。
此方はラピスインゴットの時とは違い、およそ70回程で眩い光を放つ。その瞬間、一瞬だがラピスハンマーを輝いた様な気がした。
光が収まり、現れたのは一本の太刀。2人して、ラピスハンマーと同じ時の様に凝視する。
【鉄の太刀+L】。
鉄の太刀と言うのは特に珍しいものではないのだが、+Lと言うのは見た事が無い2人だった。
「+Lって、なんだ…?」
「…あ、lapis lazuliのLじゃない?」
「あぁ、なるほど…」
そして、鉄の太刀の性能が表示されているウィンドウに目を向ける。そして、ユウとアキは固まった。
【鉄の太刀】 【攻撃力:1200】 【ラピスの加護:この効果が付いた武器の耐久度は無限となる】。
「耐久無限武器って…」
「凄い、ね…」
アキは鉄の太刀+Lをユウに手渡す。受け取ったユウは数回振って見て、驚くほど手になじむ事に気が付く。
「…ラピスハンマー、凄いな」
「これは商売繁盛かも…」
確かに、と思いつつもユウは鉄の太刀をインベントリに納めた。
「そうだ。 おまけで服も作ってあげる」
「素材あるのか? あっても少なかったらやらなくて良いからな」
「大丈夫だよ。 裁縫用の素材とかは無駄に持ってるから」
「まだサービス開始から1日とちょっとくらいしか経ってない気がするんだけど…」
「とあるβテスターから安く仕入れたのです。 情報と一緒に」
βテスターと聞いて頭に思い浮かぶのはナイフと拳銃の珍しい構成で戦う少女。まさかな…、とユウは頭を振る。
念のため、とユウはアキに尋ねてみる事にする。
「なぁ、そのβテスターって…女?」
「そだよー」
「さっきまでログインしてた…?」
「うん。 いたよ~。 チャット送ったらイノシシに殺されるかと思ったって帰ってきて何の事かなーって思ったよー」
ユウは確信した。アキの言っているβテスターとはチルの事だ。余りにも情報が合致し過ぎている。
なるほど、と1人納得しているユウを置いて、アキは裁縫の準備を進める。話しながらもずっと準備はしていたのだ。
「ていっ」
「!?」
ハサミ、針、布、革、などを色々一纏めにして勢い良く机の上に放り投げる。
カッと光を発したと思うと、そこには1着の服が。
一体どのような原理でこうなったのか非常に気になるユウだったが、あえて突っ込みはしなかった。
「はいっ。 どーぞ」
「あ、ありがとう…」
渡されたのは灰色のハーフコート。性能を見てみると、現在の装備よりも格段に防御力が上がる。その上、【AGIボーナス】も付く様だ。
「色はユウさんの来てた奴と同じ色にしておいたよ。 …ていっ」
嬉しそうに説明しながら、もう一度同じ動作をする。今度は、ズボンが出来上がっていた。
何故、鍛冶はあそこまで凝っているのに、裁縫はこんなに雑なのだろうか…、なんて思いながらもズボンも受け取る。此方も、前のズボンと同じ黒色だった。
アキに促され早速装備してみると、殆ど前と見た目が変わらないのにも関わらず、防御が大幅にUPしていた。
「うん。 似合ってるよ、ユウさん」
「どーも」
変わったと所と言えばコートがハーフコートになったくらいだろうか。若干短くなっただけで、それ以外大差が無いように見える。
「うんうんっ。 やっぱりゲームだろうと見た目は重要だねっ」
「そうかもしれないな」
「そうだよっ。 あ、友達登録してもいい?」
「あぁ。 そういやしてなかったな…」
アキが友達申請をしてきたので承諾。これでユウの友達リストは3人になった。
ふとユウはさっさとシナリオを進めなくてはいけない事を思い出す。今ならば武器も防具も新調したばかりなので行けるのではないか。と思い、友達リストに目を落とす。
【ログイン中】
【ナギ:レベル20】
【チル:レベル19】
【アキ:レベル19】
いつの間にかチルが帰ってきていたようだ。そして、ナギのレベルがかなり上がっている。
これならばと、アキに手伝ってくれるかどうかの確認を取る。
「うん、いいよ~。 どうせ一日中露店出してるだけだしね~」
「ありがとう」
続いてチルにチャットを送る。
『今暇?』
『帰ってきて直ぐ私を使おうとするとは…。 鬼畜め』
『え、なんかすまん。 じゃ』
『待って、冗談。 冗談だから』
『あそう。 で、シナリオ2手伝って欲しいんだけど』
『確か、ゴブリンの防衛線突破の奴だっけ?』
『それそれ』
『あれ、遠距離職2人はいないと厳しいよ?』
『遠距離じゃなくても2人心当たりはいるぞ』
『私も、やたらと強い生産型の子知ってるけど…』
『それってアキって奴の事じゃないか? 俺の言う2人の内1人はそいつだぞ』
『あ、アキと知り合ってたんだ…。 OK。 手伝ってあげる。 出来るだけ早めに広場に行くからもう1人に声掛けておいて』
『了解』
チャットを打ち終え、ふぅ、と息を吐くユウ。これでチルも参加する事になった。
次はナギに確認を取る。
『ナギ、今暇か?』
『おう? どうした、シナリオか?』
『話が早いな。 手伝ってもらえるか? 俺を含めて3人はいるんだが』
『いいぜ。 何処にいるんだ?』
『アンダンテの広場だ』
『りょーかい。 直ぐ行く』
此方はチルよりも早く了承を得られた。ユウはほっと一息吐いてアキに向き直る。
「俺を含めて4人集まったし、もうちょっとしたら来ると思うから」
「それじゃ、それまでお茶でも呑んで待ってようかっ」
直径15メートルくらいの露店の中に机を実体化させて置き、続けてお茶も取りだす。
「どーぞ」
「ありがと」
コップに入れられたそれを受け取り、口に含む。現実世界で呑んでいたお茶と変わらない味がした。改めてVRゲームは凄いなぁ…、なんて思いながらお茶を飲むユウ。アキも向かいに座って美味しそうにお茶を飲んでいる。
そう言えばまだログアウト出来なくなってから1日しか経っていないんだなー、などと思いつつ、ユウは残りの夏休みの日をカウントしていた。
カウントしていて、とあることを思い出した。
--夏休みの宿題である。
「………宿題、どうしよ」
「うん? 何か言った?」
「あぁいや、独り言だよ」
「そう?」
首を傾げ、コップに口を付けるアキ。ユウもそれに倣い、お茶を飲む。
本気でどうしようか、と真剣に悩み始めた時、カコンと言う音と共にメールが届く。
「………」
メールを開いてみると、そこには--
『追記 夏休みの宿題は此方でやっておいてあるので、安心して欲しい』
言うのが遅いっ!と叫びたくなったユウだが、何とか堪えてメールを閉じる。それにしても、もしかしてモニタリングでもされているのだろうか、なんて思ってしまう。
メールを閉じたそのタイミングでチルが店頭から顔を覗かせた。
「遅くなった…」
「よっす」
「あ、チルだっ。 むぎゅー」
「あぅぅ…」
チルとアキでは、アキの方が身長が高い。こうして抱きつかれているチルを見るとほんとに小さいな、と思ってしまうユウだった。
「ユウさんもチルの知り合いだったんだね。 偶然~」
「そうだな」
「ちょ、ユウ…。 見てないで、助けっ…」
アキの全力ハグを受けているチルは苦しそうに助けを求めてくる。ここで目を逸らせば、フィールドで背後から刺されるであろう。
「アキ、チルが苦しそうにしてるぞ…」
「あ、ごめんねっ」
「はふぅ…」
解放されたチルは机の前に座り、インベントリからジュースを取りだして呑んで休憩していた。アキはまだ残っていたお茶を飲んでいる。ユウも残っているお茶を呑もうと手を伸ばしかけた所で、ナギからチャットが入る。
『何処にいるんだ?』
当たり前だった。店の中にいるのだから、広場にいては見つけれるはずが無い。
逆に、ユウはナギを見つけていた。
『右斜め後方』
それだけ打つと、視線の先でナギがチャットを確認したのか、此方を向く。
「なんでお前店の中にいるんだ? ってか、此処お前の店か?」
「いや、違う。 ただ此処に集まっただけだ」
「ふーん」
そう言いながらも取り敢えず中に入って貰う。勿論、アキの許可は取ってある。
「初めましてっ。 生産型のアキです」
「戦闘型の、チル」
「俺は戦闘型のナギってんだ。 取り敢えずよろしくな!」
3人の簡単な顔合わせが終わった。ユウとしては仲違いにならない事を願うだけだ。
「それじゃ、行く前に皆に防具作るよ。 皆さん、革とか布とか糸とか持ってます?」
その問いかけに、3人とも頷いた。
交代で取引ウィンドウを開き、素材を送る。ちなみにユウは先程作って貰った所為か、素材を渡すと5000Gが送られてきた。
「それじゃ、ぱぱっとやってクエストにいこっか!」
アキは楽しげに素材とアイテムを取り出して防具作りを始めた。