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One Route Online  作者: 向日葵
~ログアウトを目指して~
5/25

生産職の依頼

 シナリオクエスト1であるボア討伐のクエストの完了をアルトの町長に報告しようとすると、隣町の町長に報告して欲しいと言われ、チルと一緒に隣町【アンダンテ】に向かっているユウ。


「…あ、そだ。 これ」


 そんな声と共に100G入った袋を取り出す。

 ユウは首を傾げながらチルを見る。


「ボアの巣の情報間違ってたから、返す」

「いらねーよ。 いまさら100Gだしな…」

「でも…」

「なら、それは情報料前払いとして持っといてくれ。 どうせまた聞くだろうし」

「それ、なら…」


 チルは100Gをインベントリに放り込み、見えて来た【アンダンテ】に目を向けた。

 ユウは2,3回此処には来たが、町に入ったのは1度だけだ。それも、門のすぐそばにある武具店までしか行っていない。

 ここはチルに案内して貰おうと思い、チルに目を向ける。


「…ん?」

「いや、町の構造が解らないから案内してくれると嬉しいなーと思って」

「あぁ。 付いて来て」


 チルに付いて回る事15分。町の隅々まで案内してもらい、ユウのタウンマップが綺麗に埋まった。


「…あ。 今日、お昼から補習…。 ごめん、落ちるね」

「おう。 頑張ってらー」

「おつかれ」


 チルはメニュー画面を操作し、ログアウトボタンを押す…前に、こっちを向いて一言。


「楽し、かった」


 にっこりと微笑み、彼女はログアウトボタンを押した。直ぐ様、彼女の姿は消えて無くなる。


「確かに楽しかったが…」


 ボアの巣での出来事を思い出す。

 予想外の高レベル、迷路みたいになってるID、トレイン、誤射、九死に一生。ユウにとっては楽しすぎて涙が流れるほどの体験だった。

 気を取り直して町長に報告をする。すると、今度はシナリオクエスト2が開始された。

 どういうシナリオかと言うと、この町の西に森があるらしい。そこの森にゴブリンが現れて、何かを守る様な防衛線を築いているらしい。その防衛線を突破しなければ先の村には行けない。だからその防衛線を突破し、その先にある村に言って村長に何があったか聞いてほしい、そして、なにか困ってる事があったら助けてやってほしい、との事。

 クリア条件は、


【防護壁0/15】

【ゴブリンアーチャー討伐0/10】

【ゴブリンファイター討伐0/10】

【ゴブリンマジシャン討伐0/7】

【ボスゴブリン・ファイター討伐0/1】

【ボスゴブリン・アーチャー討伐0/1】

【ボスゴブリン・マジシャン討伐0/1】


 となっている。

 防衛線突破クエストで、さらに遠距離武器持ちのMobが2体もいる事を考えると、近接武器を使うユウ1人ではどうにもならない。せめて遠距離武器、もしくは広範囲攻撃が出来るプレイヤーを探さなくてはいけない。それも、少なくとも5人くらい。

 ボス級が3体も存在するのだ。例えチルとナギがいてもどうにもならないだろう。


「んー…。 なんか魔法覚えれたらいいんだがな…」

「ん? 魔法を習得したいのか?」

「はい…。 って、へ!?」


 何気なく呟いた言葉にNPCの町長が反応したのでユウは驚いて声を上げてしまう。

 ユウの驚き声を華麗にスルーして、一冊の本を取り出して続ける。


「ゴブリンの防衛線の突破を頼んだのは此方だ。 役に立つか分からないが、これを使ってくれ」

「これは…」


 勝手にインベントリに収納された本の詳細を見てみると、スキルブック:習得スキル【幻影】と書かれていた。

 特に躊躇いも無くスキルブックを使用すると、『幻影スキルを習得しました!』のログに流れる。

 スキル欄を確認してみると、【幻自影】が習得されていた。

 効果は、半径10メートル以内であれば、任意の場所に自分の幻影を作り出して、相手を惑わせる事が出来る。…だそうだ。


「へぇ…。 クールタイム3秒となると、かなり使いやすそうだな…って、なんかエンチャントも増えてるな」


 【下級アイス・エンチャント】と【下級ライトニング・エンチャント】が追加されていた。恐らく、身体強化バフがレベル10を超えた時に覚えたんだろう、とユウは思う。あの時は火が下級から中級に上がったとこしか見ていなかったから大いにあり得る事だ。

 ユウはスキルの事であれこれ考えながら町を歩いて人通りの多い広場に出る。プレイヤーが露店や簡単な鍛冶屋を開いているのが見えた。

 チルに教えて貰っていたのだが、この町はそこらの町よりも大きくてそこそこ人気があるらしいのだ。


「うーん…。 ちょっとこのスキルを試しに使ってみるか…。 いやでもなぁ…」

「…? どうかしたの~?」

「うーん…」

「あれ、聞こえてないかな…」


 ユウは広場に来た時、一番最初に見えていた鍛冶屋--と言っても店では無くて露店の様なものだが--の少女に声を掛けられても考え事に没頭してしまっていた。


「ねぇってば」


 トントン、と肩を叩かれた事により、やっと気が付いたユウ。

 今の発言からして結構声を掛けていたのか…。ユウはそんな事を思いつつもそちらに向き直り、取り敢えず謝罪する。


「すまない。 思いっきり考え事に没頭してた…」

「やっぱり? ボーっとしながらブツブツ呟いてたから思わず声掛けちゃったよ」

「いや、声を掛けてくれてありがとう。 …ところで、ここは…鍛冶、屋?」


 疑問形で尋ねると、少女は苦笑しながら答えた。


「そんな大層な物じゃないけどね。 露天に炉を置いただけって感じかな。 一応武器は作れるけど、何か作って行く?」

「インゴット無いから無理じゃないか?」

「そこは、ほら、お兄さんが取って来てくれれば」

「俺の役目なのか!?」


 ゆっくりと頷くと、二ヤリと笑い、腕を掴んでくる。

 ユウはこのゲームにハラスメントコードは無いんだろうか、なんて思いながら振り解こうとする。


「断らない方が身のためだよ~?」

「いや、ここ町中だし…」

「…貞操的な意味で」

「やめろ!?」


 なんて子だ…。ユウは戦慄を覚えた。まさか自分より年下に見える子が貞操なんて言葉を使うなんて思いもしなかったのだ。

 ユウが抗えないほどの【STR】で引っ張られて露店の奥に引き込まれる。


「さぁ、どうする…?」

「えぇい、離せ!」

「そんなこと言わずに、お願いっ。 自分の分も取ってくれば、無料で武器作ってあげるよ?」

「………」

「(堕ちたな)」


 ユウを巧い事誘導してインゴットを取りに行かせようとする少女。今更ながらユウは少女の名前を確認した。


【名前:アキ】 【ルート:生産系】 【レベル:14】


 ユウを(武器的な意味で)誘惑している少女の名前はアキと言うらしい。

 ユウは、どうすべきか迷った。なぜなら、無料で武器を作ってくれるというのはなかなかの条件だからだ。現在の武器からも乗り換えないといけないし…。

 激しい葛藤の末、その依頼を受ける事にする。


「ほんと!? ありがと! 一応アキも付いてくね。 …何も出来ないと思うけど」

「勝手に死んで勝手に死に戻りとか止めてくれよ…?」

「そうならない様に、お兄さんがアキを守ってくれればいいのですっ」

「初対面になんと図々しい…」

「え、何か言った?(にっこり)」

「ごめんなさいその鍛冶鎚おろしてお願い死んじゃう」


 まぁ此処は町中なので死なないが…。

 半分くらい脅しで引き受けている様な…なんて事を考えてしまったが、直ぐに無料で武器を作ってくれるという話を思い浮かべる。

 うん、これに影響されたのが一番だ、と思いなおし、ユウは笑顔で鍛冶鎚をスウィングするアキから目を逸らした。


 アキの準備を待つ事20分。露店を閉じて、装備を整えただけなのではあるが…。


「なんか、すっげぇ私服っぽいな…」


 アキが着ていたのは紅葉の様な色をしたカーディガンだ。


「一応裁縫にも手を付けてるからね~」

「生産系全部に手を付けてるんじゃ…?」

「…~♪ ~♪」


 露骨に目を逸らして口笛を吹いている。生産系全てに手を付けるのはやり過ぎだとは思うが、ユウも武器はいろいろ使うつもりなので人の事は言えないかもしれない。

 アキが言うには、インゴットはその辺に落ちてるものではないらしい。鉱石を取ってきて、それを加工して初めてインゴットになるそうだ。

 で、その鉱石が取れる場所に向かっている訳だが…。


「なぁ、アキの武器って、包丁と鍛冶鎚なのか?」

「うん。 そうだよ~。 後、このピッケル」


 そう言うスタイルもあるものかな、と結論付けてユウは考える事を止めた。何故ならアキのニコニコ笑顔が実に迫力のある笑顔だったからだ。「あぁん? 包丁と鍛冶鎚なめてるとPKするぞ?」みたいな。


「うん? どうかしたの?」

「い、いや。 なんでもない--」

「正直に言った方が身のためだよ~?」

「ピッケル突き付けながら言うの止めて後此処町の外…!」


 一気にまくしたてるユウ。観念して言う事にする。殺されたとしても戻るのはアルトだ。気合いで歩けばなんとかなるかもしれないが…。


「いや、包丁とか鍛冶鎚って攻撃力どのくらいあるのかなぁ…って」

「うーん…。 そこまで高くは無いけど、一応スキルあるからね。 3枚降ろしとか」

「魔物は魚か…!?」

「ふふっ…。 お兄さんにも使えるよ…?」

「やめろーっ。 食われたくなーいっ!」

「あははっ。 冗談だよ」


 アキが言うと冗談に聞こえないのは何故だろうか。なんて思いながらユウは生産職が扱う道具と書いて武器と読む品を畏怖を込めて見つめた。


「あっ、敵さんだ。 えい、【3枚降ろし】」

「!?」


 突進してきたレッドボアに3つの線が走ったと思うと、瞬時に分裂し、消滅した。


「ね? そんなに威力高くないでしょ?」

「う、うわああっ!」

「こら、逃げないの。 鉱石はもっと向こうだよ~」

「お前一人で充分じゃないかぁぁぁ!!」

「か弱い乙女を一人で行かせるの…?」


 か弱い…?と言いそうになったユウだが慌てて口を噤む。恐らく言ったら三枚降ろしにされてジ・エンドだからだ。初PKが三枚降ろし…、なんともシュールである。そして精神的にやられそうでもある。

 そんなやり取りを挟みながらも歩みを進めて行く。ちなみにユウは腕を掴まれて有無を言わさず無理矢理引きずられている。か弱い(笑)アキは少しばかり(笑)力が強い様だ。


「さって、着いたね」

「えーっと…。 ペザンテ洞窟…?」

「そーだよ。 ここのゴーレムが鉱石をドロップするの」

「なるほどなぁ…」


 ユウとアキは気付いていないが、ペザンテと言うのも演奏記号だ。重々しく、と言う意味である。その意味に恥じない様なゴーレムがうろうろしている。

 ユウはサーチスキルの【読み取り】を発動。ゴーレムの弱点はボア達と同じく火。レベルは18とそこそこ高い。


「…アキ、これ倒せるのか?」

「うん。 今まで普通に倒して来たよ?」

「それならいいんだが…」


 一体どうやって倒すのか気になったので、ユウはお手本を見せて貰う事にした。すると「お手本になるかどうか分からないけど…」と言い、ピッケル(、、、)を構える。

 そして--


「えい、やっ!」

「ゴゴッ!?」


 エンチャントのスキルも持っていた様で、ピッケルに炎が纏わり付く。ユウが使う【中級ブレイズ・エンチャント】と同じモノだ。

 しかし、一番驚いたのは…。


「い、一撃だと…?」

「そうなの。 なんか、ピッケルで攻撃すると一撃なんだよね~…」

「一応聞くけど、それって自作?」

「うん。 自信作だよぉ」


 ユウは直感した。アキの作る武器は恐らく基準と言う物を知らない様な性能を持っているのだろう。

 これはますます作ってもらう価値がある、と意気込んでユウは太刀を抜き放ち、【パワーアップⅡ】と【スピードアップⅡ】と【中級ブレイズ・エンチャント】の3重掛けをする。


「【一閃】」

「ピッケル版【3枚おろし】!」

「!?」


 どうやったらゴーレムを3枚おろしに出来るんだ…!?とか、ピッケルでどうやって3枚おろしに!?とか、なんで持ってる武器違うのに同じスキル使えるの!?とか色々突っ込みたい事はあったけど、それを抑え込んだユウはひたすら【一閃】と【月閃】でひたすら湧いて出てくるゴーレムを切り続けた。


「あっ…」

「え、ちょ!」


 集中が切れたのか、アキがゴーレムの攻撃に被弾し、数メートル吹き飛ばされる。助けに入ろうにも、ユウ自身もゴーレムと相手してるのでターゲットを外せない限り無理だ。

 そこで、ユウはついさっき習得したスキルを使ってみる事にしてみる。


「【幻自影】!」


 ゴーレムの右横に、太刀を振り上げる動作をする幻影を作り出す。ゴーレムはそれに反応して右を向いてその幻影の攻撃を防ごうとするが、幻影なのだから攻撃がゴーレムに当たる訳も無く、ゴーレムの一撃でかき消える。それにゴーレムは困惑したように周囲を見渡すが、その時にはすでにユウはアキを吹き飛ばしたゴーレムを背後にいた。そして、叩き斬る。運よくクリティカルに入り、一撃で仕留める事が出来た。


「大丈夫か?」

「う、うん。 ごめんなさい…」

「失敗なんて良くあるさ。 っと、そっち鉱石どれくらい貯まった?」

「あ、うん。 目標個数に達してるよ」

「こっちもそこそこ溜まったし、戻るか」

「うん。 だけど、後ろっ!」

「よっ」

「ふぇ…?」


 振り向きざまに【中級ブレイズ・エンチャント】を掛けた太刀の【月閃】でゴーレムのHPは0になり、消滅する。


「ほら、戻るぞ?」

「う、うん…」


 アキは何か不思議な気持ちになりつつも歩き出したユウの背中を追って駆けた。

アキの服装に着いて追加しました。一行くらいなので詳しくは追加されていませんが…。

追加した場所は


「なんか、すっけぇ私服っぽいな…」



「一応裁縫にも手を付けてるからね~」


の間です。

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