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One Route Online  作者: 向日葵
~ログアウトを目指して~
4/25

シナリオ1 ボアの巣攻略

 結論からいって、寝落ちはできなかった。目を覚ましても寝る前にいた宿の部屋に変わりはなかった。


「約束まで後2時間…。 アイテム揃えとこ」


 ユウは宿から出ると、雑貨屋に向かった。まずはポーションの確保するつもりなのだ。

 適正回復量のポーションを10個ほど購入し、雑貨屋を後にする。

 時間が余り過ぎてしまったので何か出来る事は無いか…と思っていた所に、ナギからチャットが入った。


『よう。 今暇?』

『7時までなら暇だが?』

『それまでで良いから、レベル上げ手伝ってくれよ』

『レベルは?』

『4だな』

『OK。 北門集合な』


 それだけ打つと、ユウはチャットウィンドウを閉じて北門に向かった。


「よぉ。 って、もう初期装備から脱してるのな…」

「素材と武器を売りまくった結果がこれだよ」

「スキルレベルはどうだ?」

「平均4ってとこだな」


 そしてふとユウはスキルレベル上限が気になったので後でチルに聞こうと思い、メモを取っておく。


「で、レベル上げって言っても、俺はレベル1の時からブルーボアしか倒してなかったし…」

「そもそもブルーボアって何処にいるんだ?」

「このまま街道を真っ直ぐ進んだとこにある村の周辺だな。 っと、ほい、パーティ」

「さんきゅ。 レベルは?」

「5だ。 だが、アクティブモンスターだから数を狩るにはもってこいだと思う」

「ならそこに行こう。 先導よろしく」


 ナギはそう言うと身体強化バフの速度増加を掛ける。

 余談だが、身体強化バフのスキルは現在、『パワーアップ』、『スピードアップ』、『ディフェンスアップ』の3つがある。

 ユウは速度上昇の身体強化バフを見てもそれに倣おうとせず、街中ではインベントリに閉まっていた太刀を装備して目的地方向を向く。


「…? 身体強化バフ掛けなくて良いのか?」

「え、多分掛けたら俺を見失うと思うぞ…?」

「…【AGI】いくつだ?」

「えっと、105だな」


 茫然とした表情のナギを置いて歩き出す。あまり時間が無いからだ。

 ユウが早歩きするのと、ナギが走るのは同じ速度だったのでそのペースで隣の町にたどり着く。

 ユウはチラッと町の門付近に存在する立て札に視線を向ける。どうやらここは【アンダンテ】と言う名前の町らしい。

 このゲームの町は全て演奏記号で統一されてるのかな、なんて思いつつも瞬時にナギの傍から離れ、瞬時に戻ってくる。

 補足しておくと、アルトは演奏記号ではない。


「え、お前今何したんだ?」

「素早さ全開で大量にトレインして来た」

「ぎゃああ!?」


 ナギが周囲を見渡すと大量のブルーボアが突撃して来ているではないか!


「お、おまっ! これどうすんだよ!」

「こうする」


 【パワーアップ】、【ディフェンスアップ】、【下級ブレイズ・エンチャント】を重ね掛けする。

 そして--


「【一閃】!」


 タイミングを合わせて【一閃】を放つ。【一閃】は、若干リーチに補正が掛り、範囲攻撃としても使えるのだ。

 半円状にかなりの数のブルーボアが吹き飛ぶ。弱点を突かれたのとレベルの差で吹き飛ばされたブルーボアはその大半が消滅し、ゴールド、アイテム、経験値に代わる。それ以外の敵は余波を受けただけで消滅はしなかった。

 ナギはユウが身体強化バフとエンチャントを使った瞬間、全く同じ事をした。直感から、真似すればなんとかなるんじゃね?と思ったからだ。

 ユウが【一閃】を放って2秒後に槍の初期スキル【シングルスラスト】を発動させる。此方も【一閃】同様に、余波で相手をノックバックさせる効果を持つ。しかし、直撃したボアでも倒す事は出来なかった。


「おいユウ、お前安全マージンとか確保しないのか!?」

「俺等の実力なら、どうにでもなるだろ?」

「…それも、そうだな」


 ユウの返答にナギは槍を構える。あの時と…、前のVRゲームの時と全く同じ構えを取る。

 スキルに同質の物は無い。それでも、あの時に戻った様な感じがした。


「俺等に掛かれば、こんなのは本来スキルなしでも余裕だ」

「こっちは片付いたぞ」

「1分待ってくれ」


 ナギは二ヤリと獰猛な笑みを浮かべると、槍を両手にブルーボアを1体ずつ倒して行く。

 その間にユウはインベントリの整理をする。かなりの数の素材が溜まっていた。


「終わりっと」

「おつかれさん」

「おう」


 一旦【アンダンテ】に戻り、互いにインベントリ整理をする。素材の売却は武具店でする。

 ユウは素材を売る前に何が売っているのかを確認していた。といってもあるのは銅系の武器防具のみだ。

 素材と必要なさそうな武具を売却し、所持金に加える。

 ナギも同様にして、ドロップした【ブロンズランス】と【レザーアーマー】を装備し、それ以外を売却してGに変えていた。


「そうだ。 レベルは--10か。 6上がれば上等だろ」

「まったくだな」

「っと、そろそろアルトに戻っとかないと…」

「ん、誰かと待ち合わせでもしてるのか?」

「あぁ。 βテスターと」

「はは…。 頑張れよ。 βテスターは変人が多いらしいから」


 なるほど、とユウは納得した。確かにチルは変人と言う称号を授与されるに等しい奴かもしれない、と。チルにこれを聞かれたら恐らくユウのHPは根こそぎ奪い去られるだろうが、幸いこの場にいる事は無かった。


「じゃーな。 また今度ー」

「お前も呑気だな…。 ログアウト出来ないって結構つらいと思うけどな。 それに、誰に体触られてるか解らん状況なのに…」


 ナギの指摘はもっともだ。 現在ユウの身体は見ず知らずの運営チームの誰かに何処かに連れて行かれてログアウト不可と言う状況下に陥っているのだ。

だが--。


「んなの、考えたって無駄だ。 なんとかしてこの状況を抜けようと思うなら、 この世界に馴染むのが一番だろ」

「そうか。 って、時間時間」

「おっと。 じゃ、今度こそ」


△ ▽ △ ▽


 薄暗い部屋。太陽の光を遮られる様に閉められたカーテンは縫い付けられていて開く事は無い。

 そんな部屋で、一人の少女と一人の少年がいた。少女はPCの画面を見つめ、少年はVRゴーグルをしたまま眠っている。


「…馴染むのが、一番かぁ」


 その言葉を発したのはPC画面内のプレイヤー『ユウ』。それに反応した少女は口角を吊りあげる。

 この少女こそユウをOne Route Onlineに閉じ込めた運営サイドの人間であり、ユウを監視している人間だ。

 少女は楽しそうに微笑みながら画面を眺めている。

 手元にあるレポート用紙に視線を落とし、ユウの…いや、【初芝優】の情報が書かれたそれに目を通す。

 身長、体重、年齢、髪色、容姿、何処の学校に通っているか、何処に住んでいるか。


「でも、早くクリアして欲しいなぁ…。 意識のあるユウの声を聞いてみたい…」


 そんな事を呟きながら、PCの前から移動し、ゴーグルをしたまま意識を失っている少年、【初芝優】の頬をそっと撫でた。

 傍から見ると歪んだナニカを持っているように見えるが、実はこの少女、孤児なのだ。それを、One Route Onlineのスタッフが拾った。

 つまり、寂しいのだ。友達以前に、家族がいない。そんな状況に陥ってまともな人がいるのはなかなか珍しいケースだと思う。


「お友達になってくれるかなぁ…」


 そう小さく呟いてPCの前に戻り、再び画面に向き直った。


△ ▽ △ ▽


「遅い…」

「いや、どう見ても10分前なんだが?」

「30分前からいた。 待たせるのは良くない」

「はぁ…」


 走ってアルトまで戻ってきたユウを待っていたのは超不機嫌なチルだった。どうやらかなり前から待っていたようだ。


「てか、待ってるならチャット送ってくれよ」

「まだ時間じゃないし…」

「なら遅いとか言うなよぉぉぉ!」


 ユウの魂の叫びである。それを聞いたチルは少しビクッとして--口元に笑みを浮かべる。


「ふふ、大、成功…」

「ドッキリかよ!」

「それより、いこ?」


 そう言って歩き出すチル。その後に続くユウ。

 町から出て、ボアの巣があるらしい場所に向かう。流石βテスター、と感心しながらユウはチルの後を追いかける。

 チルの武装は前回同様ナイフと拳銃。 両方とも初期武器では無くなっている。

 「あ、そうだ…」と言いながらチルが歩きながら喋り出す。


「これは情報料関係無しに言っとくけど、スキルの習得方法なんだけど…」

「あぁ、そういや4つ以上云々書いてあったな…」

「そう。 武器を装備すると勝手に増えるスキルと、スキルブックを読まないと覚えられないスキルがあるの。 武器を装備して手に入るスキルは大抵が武器スキル…『太刀』みたいな感じのスキル。 スキルブック系のスキルは、魔法関係が多い、かな…」

「へぇ…」


 今度試しに別の武器装備してみようと思いつつ、聞きたかった事を聞く事にする。


「で、そのスキルって一体何レベルまであるんだ?」

「残り5回。 レベルは100まで。 ちなみに、私達の上限は200」

「あ、それは知ってる」

「………え? どして?」


 しまった。ユウは頭を抱えたくなった。無駄に口が軽いのをどうにかしたいと思うのだが、どうにもならないものだ。


「あー…。 アレだよ。 友達に教えて貰ったんだ」

「………ふぅん」


 チルはユウが嘘を吐いた事に気が付いた。明らかに挙動不審だからだ。目も泳いでいる。

 しかし、チルはそれを指摘しなかった。指摘した所で、相手が困るだけだからだ。

 チルは一度、嘘を吐いた事を指摘されて問い詰められた事があるから解るが、あれは本当に辛い。そんな辛さを他人に味わわせたくなかったのだ。

 丁度良いタイミングで目的地に到着した。


「ユウ。 着いた」

「お、ここがボアの巣か…」


 そこは巣らしく横穴の洞窟になっている。チルにとっては馴染みのある場所だった。

 β時代、レベル30になるまで半永久的に此処で狩りをしたのはいい思い出になっている。


「いい? 絶対に単独行動しちゃダメ。 重複ターゲットで即死する」

「1回ブルーボアのケツアタックくらって死にかけたからな…。 十分に気を付けるよ」

「…本来なら、レベル20で来たらもっと楽なのに。 っていうか、どしてボアの巣に来たの?」

「あぁ。 シナリオクエストで…」

「あぁ…。 でも、やる必要ないクエストだと思うけどなぁ…」


 チルの言う通りだったりする。

 無駄に長い上に、経験値はそこまで美味しくない。普通のプレイヤーは無視して生産を楽しんだり、カンスト目指して頑張るのが主流だ。

 なのに何故…。と思ってから、1つだけ思い浮かんだ事があった。

だが…。


(聞かないでおこう。 もし深刻に捉えていたら、傷つけるだけ…)


 そう考えながらもチルはパーティー申請を飛ばす。即座にユウから承諾した事を知らせるメッセージが表示される。


「行こう」

「あぁ」


 チルとユウは同時にボアの巣、IDとフィールドを分け隔てる青い光に飛び込んだ。




「「うわあああっ!?」」


 ユウとチルは必死に逃げていた。やはり、β時代からの変更点はあったのだ。

 変更点その1は…。


「数がっ! 数が増えてるぅ!」

「なんだってー!?」


 その2。


「あ、あれぇ? 迷路みたいになってる…」

「βではこんなんじゃなかったのか?」

「もっと1本道だったきが…」


 その3。


「なんでボアのレベルが25の奴がいるの!?」

「無駄に強い!」


 と、このように変更されていたのだ。

 チルは混乱し、銃を乱発。それでも近付くボアには容赦のないナイフスキル【光突】で過剰殺傷オーバーキルダメージを与え次々とアイテムと経験値に変えて行く。【光突】は、【AGI】が高いほど威力が上がるというステータス依存のスキルだ。ちなみにチルの【AGI】は80だ。

 ユウは太刀で襲いかかってくるボア達を仕留めつつ、偶に飛んで来るチルの流れ弾を必死になってかわしつつ、ボアと間違えられて突き出されるナイフを紙一重で避けてボア達を仕留める。偶に流れ弾に被弾し、動きが鈍った所に、正面突進→背後からのケツアタック→左右からの突進コンボをくらって死にかけるが、持ってきたポーションで回復し、九死に一生を得ている。

 そんなトラブルを起こしつつも、トレインしたボアを全員仕留め終わる。ユウのレベルは20にチルのレベルは17になっていた。スキルも、太刀、ナイフ、身体強化バフは10を超えた。


「これ、β時代よりもレベル上げに向いてるかも。 PT推奨だけど…」

「そのPTメンバーのお前の所為で俺はポーションを6個使ったぞ?」

「え? 私何かした?」

「あぁ。 流れ弾に当たって袋だたきにされた」

「へー」

「こいつ…!」


 素知らぬ顔で生返事をするチル。返事をしながら拳銃スキル【リロード】を発動。銃の中に新しい弾が装てんされる。

 珍しい事に、銃は【INT】依存の武器だったりする。言うまでも無いが、太刀やナイフは【STR】だ。


「マップを見て、戻って……ここの先ボス部屋かな?」

「可能性は高いな」


 マップ上で唯一通っていなかった道がある。それ以外は必死に逃げている時に一度通ったみたいだ。

 ユウとチルは互いにHPを確認し、残党を警戒しながらも逃げて来た道を戻る。そして、唯一言っていなかった道を進むと…。


「ボス部屋で合ってるみたい」

「そうだな」


 ユウ達の前に、分厚い扉が現れた。それは、IDにおける、ボス部屋を示す印の様な物だ。

 ユウとチルはお互いに頷き合い、ユウは太刀を、チルはナイフと銃を構える。扉を開き、ユウ達は部屋に侵入する。

 そこは、巨大な広間の様な部屋だった。その中心に居るのは、ビッグボア。このIDのボスだ。


「ユウ、気を付けて。 此処でも変更点があるかもしれない」

「おう」


 チルが弾丸を放ち、ビッグボアのターゲットを取る。ユウはその間に3重バフ、【中級ブレイズ・エンチャント】(先程大量討伐した時に下級から上がった)を掛け、太刀を構える。勿論チルも3重バフは掛けている。


「フゴォォ」

「くらえっ!」


 大量のボアと戦っている時にユウが見つけたボアの弱点部位、頭に向かって太刀スキル【月閃】を発動。弧をを描く様にして下から上へと斬りあげる。その後、全く同じ軌道をなぞる様に上から下に斬り付ける。この2撃でビッグボアのHPは2割削れた。チルの情報通り、レッドボアが2匹湧く。

 そこに--。


「【レインバレット】」


 複数の弾丸が雨の様に降り注ぐ。ブレイズ・エンチャントを受けた銃弾1発1発がビッグボアのHPを削って行く。総合で3割程HPを経安ことができた。周囲にいた2匹のレッドボアはなすすべも無くHPを0にし、消滅したが、ビッグボアのHPを削った事によって、もう2匹追加されるが、


「【光突】」

「【一閃】」


 属性を纏った単発スキルによって瞬時に討伐される。


「ユウ。 湧く前に、終わらせる」

「おーけー」


 瞬時にユウは相手の背後へ、チルは真正面に移動する。そして、今打てる最大のスキルを発動させる。


「【月閃】」

「【十字斬り】、【ナチュラルバレット】」


 三日月の軌跡を描く太刀と、十字の軌跡を描くナイフ、さらに【ナチュラルバレット】と呼ばれる属性効率を大幅に上げる拳銃スキルの弾丸がビッグボアの額に直撃する。


「フゴォォォォォォッ!!」


 断末魔を放ちながらその巨体を薄れさせる。5秒ほど硬直したかと思うと、そのまま音も無く消滅した。

 ユウの視界に、【クエストクリア!】の文字。




 【シナリオ1】クリア。

 残りシナリオ、99。

矛盾している点があったので修正。

一話で、身体強化バフのレベルが1なので【パワーアップ】しかないと書きましたが、此方では身体強化バフの初期スキルは【パワーアップ】【スピードアップ】【ディフェンスアップ】の3つと書かれていました。

なので、身体強化バフのスキルは現在【パワーアップ】【スピードアップ】【ディフェンスアップ】の3つがある、に変更しておきました。

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